CASE.03「噂のバッドボーイ」
ここ、常春学園には学園の七不思議とは違う、有名な話がある。
学園新聞、学園だより、町内会のチラシ。
それらでデータを関数したわけでもないのに満場一致。この学園に所属する全ての人間がいつしか暗黙で作り上げてしまった”伝説の存在”がある。
それは伝説という肩書を使うには侮辱的で軽蔑的ではある。
職員でも手が負えないくらいに話は大きくなっており、それは去年の冬辺りから出来上がった存在だというのに全生徒(新入生含む)が把握してしまうほどであった。
彼氏にしたくもないし、友達にもなりたくない、お近づきになりたくないと見事に真っ黒な三ツ星ついた悪評てんこ盛り。
常春学園という名前に似合わず春が来ないことは約束され、それどころか友達からでも駄目で、挙句の果てには近づくことすらやめてくださいと言われた哀れな男性四人組。
その名は“悪名四天王”。
モテない男達に名付けられた可哀想な肩書である。
そのうちの三人。
一人は喧嘩番長こと“小林牧夫”。
中学校時代からの喧嘩早さや悪評が強く、その上見た目のファッションセンスも『時代に置いていかれている』という評価。その上、頭も壊滅的に悪いとまで来たために女性の心を見事なまでに見向きもさせない。
……ただ、仲間想いな一面があるおかげか男性での友人も多く、慕う人物が微かにいる。
もう一人は“海老野三句郎”。通称女性の敵。
絵にかいたオタク。誰もがわかりやすいキモオタという奴なのである。
いや、オタク全員が気持ち悪いわけではない。アニメとかゲームとかに染まり切った男程気持ち悪いモノはないという偏見でものを言ってるわけではない。
だが、この男、そのアニメの会話等を日常会話でも平然と使う。
しかもそれと同時にアニメのような恋愛の出会いを求める夢見過ぎな性格。三次元の女性への意識も他の男子より相当高いために悪行へ走ってるが故、女性からは軽蔑されている。
……だが、小林牧夫同様、男性の同志は複数いるもよう。
四天王は他にもいるのだが、もう一人の話は別の日にするとしよう。
何せ、今回のお話のメインとなるのは……その四天王の中でも“史上最悪”と呼ばれるほどに嫌悪され、“相互理解不能”なんて最早バーサーカー適正までつけられちゃうような評価にまで落ちぶれている少年がいるのだ。
____今回はそんな少年の事を、この“私”がお教えいたしましょう。
「そう、この“
……うん、誰って言いたい気分ですよね。正直その気持ちわかります。
一応”最初のお話”に登場こそしているんですが、印象薄すぎて誰なんだと思いますよね。その気持ち間違っていないと思いますので胸を張っていいですよ。
おっと、そんな話をしている間に教室へ彼が戻ってきましたよ。
四天王の中でも一番面倒な存在であると言われている少年……“
「……!?」
入ってきて早々痛々しいものが目に入った。
「くぅうう……」
ガーゼだ。西都平和の鼻に大きなガーゼが貼られている。
「世の中から野球というスポーツがなくならないかな」
帰ってきて早々物騒な事を言っている。。
あの様子では“野球に関する何か”が鼻に飛んできたと考えるのがベストだろうか。彼が”四天王に数えられる由縁の事”を考えると。
「Fa〇k you 球遊び……!!」
確か屋上で友人と御飯食べるなんて言ってたけど……保健室に赴くほどの大怪我をするなんて、どんな展開に巻き込まれたのやら。
……そう、彼こそが例の男・西都平和だ。
趣味は音楽鑑賞。主にロックやメタル、たまにハードコアやヴィジュアルにも手を伸ばしており、自身もギターを勉強している。特に影響されたミュージシャンへの追及は深く、CDやアルバムは勿論、レコードやカセットテープに8cmCD何かも収集するほどだそうだ。
学園での評判こそ悪いが成績はそこそこ優秀。運動神経も並程度とその一点に関しては悪名の要素はなく、むしろ理想的だ。
ルックスも悪くない。エクステやアイコンタクトのセンスは少し疑う程度。
……しかし、彼は四天王誰よりも愛されぬ存在だ。
「よいしょ、っと」
彼の異名は“疫病神”。
誰よりも運が悪く、その不運は最早神様に見捨てられているとまで言われている。
その理由の一つとしては……結構な確率で“理論的にあり得ない”ことが彼の近くで起きることがあるのだ。
しかもその不運は周りにも伝染する。故に疫病神と言われ、近くにいるだけも嫌だという女子はおろか、男子も大量。彼と同じクラスに選ばれた奴は大ハズレと言われるほど散々な役回りの彼である。
「おいおい、あの傷……」
「うわぁ、また何かやらかしたのか」
早速、あの傷の正体が何なのかと噂になっていた。
「心名姫を襲ったバチが当たったんだよ」
「そうだそうだ。天罰天罰。八つ当たりでもして痛い目みたんだろうよ」
ありもしない噂が次々と西都平和を襲う。
次第に広がっていく噂話は彼の耳に伝わってくる。
西都平和は俯いた。
その噂を耳にしたとき、彼の口が静かに歪む。
(根も葉もない噂をたてやがって、ヒガモのクソバエ共がっ……!!)
うわー怒ってるわー、あれ相当怒ってるわー。
ここから見えるアイツの表情から本音が駄々洩れである。本人は平気を装っているが、その内心は殺気マシマシの怒髪天でしょうね、あれ。
「鼻の怪我のせいで飯どころじゃなかったとはいえ……腹減った」
とても悔しく面倒そうな表情を浮かべながら、彼はそんなことを呟いている。
どうやら、昼休みはご飯をほとんど食べることも出来ずに保健室で過ごしたようである。今は落ち着いたようだが、そのせいで空腹に苛まれていた。
「ああ……全世界の野球スタジアムに隕石降ってしまえばいい」
なんでお前ひとりのせいで、お茶の間のヒーローが塵にならねばいかんのだ。
食べ物の恨みは怖いというが、弁当一つで地球崩壊の危機に直面されても困る。
「おー、西都帰ってきたか」
「お前先生に呼ばれてたけど何かしたのかよ?」
それといって仲良くはないクラスの知り合いの男子生徒達が彼に用があったのか喋りかけてきたじゃないか。
「って、どうしたんだよ~。その鼻!」
大笑いしながら男子はその鼻を”指さした”。
(あっ! まずい!)
私は慌てて立ち上がって止めに行こうとしてしまう……が、“手遅れ”だ。
____判明してしまう。彼が“危険人物”と言われてしまう由縁が。
「ア゛ァ゛ッ!?」
……折った。
平和は、向けられていたその指を”折った”。
「ぎゃおおおおっす!?」
そこまで不服だったのかと言わんばかりに男子生徒が声を上げる。
「……向けんな」
その苛立ちを八つ当たり気味に平和はぶちまける。
「俺に指を向けるな…… “先端恐怖症”だって言ってるだろ……!!」
真っ青な表情。汗まみれで怯えながら平和は指を向け返し、睨んでいた。
そう。彼は自称してる通り先端恐怖症である。
ああやって、眼前で人差し指を向けられると反射的に体が自衛してしまうようである。結果、あんなふうに指を折られた生徒がこの学園に何人も存在する。
男子生徒達の不注意ではあるが、正直やりすぎな上に理不尽が否めない。
「しかも俺は今……馬鹿みたいにイライラしてんだよ……ッ!!」
そう、彼は誰よりも感情的になりやすい。
しかも体で動くことが多く、大抵の男子は平和の手で黙らされている。体を鍛えているのか、そこら中のヒョロヒョロの奴等であれば容易く撃墜する。
「いてててっ、なんだよ~!?」
「一応要件は伝えたからなぁ!?」
男子二人は恐怖のあまり、席に戻っていく。
「くっそ、何なんだよ……だから喋りたくねぇんだ!」
「すぐ手出しやがって、あの野郎!」
ヒソヒソ話でもない愚痴が教室中に響き渡った。
暴力的、なおかつ反抗的。近づく奴は皆、あの狂犬の災いに巻き込まれるか、あの狂犬本人に噛み殺されるかのどちらかだ。
近くにいるだけでロクなことにならない。
四天王の中でも一番最低最悪と言われてる由縁がここにあるのだ。
「ふんっ」
悪びれる様子も見せない。反省の色も見えない。
厄介払いが終わった西都平和は不満げに携帯を眺め始めた。
「……ったく、カズったら」
私は思わず、狼らしく牙を剥いている平和に溜息を吐いてしまった。
彼の行動。人を近づけようとしない反抗的な意思。
西都平和。学園の問題児。
これがこの学園に存在する四天王最強の実態だ。
「全く、今日も大変そうなこと」
私は四天王の噂に振り回される彼に哀れみの視線を送った。
……そうそう、この学園には四天王以外にも、有名な”謎”がある。
それは学園の都市伝説。
四天王の次に匹敵する、学園の謎ともいわれる有名な話だ。
「あっ、カズ君、帰ってきた~!」
それは次でお話するとしよう。
もうすぐ授業が始まる。私はヒッソリと授業の準備を始める。西都平和の監視は次の放課後にでも回すことにした。
「って、何! どうしたんだい、その怪我~!?」
……え、結局、私が誰かなのだって?
それもまた、放課後に。
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