第5話 足りない少女

 私には何かが足りない。と思う。何が足りないのかは自分でもわからないが毎日何かが足りないと感じ空所を埋めようといろんなものを穴に詰めるのだが埋まらない。毎日その穴の深さに悲しくなり涙を流しているのに満ちることはなく、むかついていらないものを投げたが音が反響することはなかった。この穴はそれほどとてつもなく深く暗いものであるのだろう。多分。見た目は何か足りないものはないから友達には「欲張り」だと言われるが人間は欲の塊なのだから何をどれだけ望んでも構わないと思うのだがその言葉は穴に消える。五体満足で顔もそこそこ。頭が足りないと言えば足りないがそこではない。もっと深いなにか。

 足りない。いつになったら満たされるのかも、わからない。私はただ足りない何かに向かって手を伸ばしてみる。使うかもわからないものに手を伸ばして届かないくせに明日こそはと欲を引き延ばす。足りないものがわからない。わからないものが足りない。でも私はそれがどうしても欲しい。のどが渇いていることも気づかずただその穴へと吸い込まれていく。

 欲に溺れた人間はとても醜いと母は教えてくれた。「いいな」という言葉は使うべきではないと教え込まれその言葉を言おうものなら一日家に入れてもらえることはなかった。誰かに嫉妬してはいけない。誰かの様になりたい、あの子みたいになりたい。口では決して言わないけれど私の頭の中はいいなでいっぱいだ。それがいけないことだと教え込まれたが今でも心はその教えを拒絶する。自分に良いところが見いだせないわけでもないけれど私はこの人生では一番になることはないから一番になるであろう素晴らしい人たちを羨み嫉妬し渇望し殺したくなる。足りないものがつかめないなら持っている人から奪うしか私は満たされないから。いいな。100点取れてていいな。最初は頭がいい子の答えをそっと覗いてみた。次は確か先生に好かれていた子の笑顔を汚した。そして私がその子の分まで笑った。もう何十年もやってきた。一瞬だけ満ちる心に酔って溺れるけれど一週間後にはこんな自分が憎く足りないものをまた追いかける。あと何年こんなことしたらいいですか。誰か私になりませんか。誰か私にそのいいとこ譲ってくれませんか。

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