第4話 噂少女
「あの子があの子と付き合った」
「あの人が不倫していた」
「あの人は実は…」
私は人のうわさが大好きだ。コソコソと悪い事でもいい事でもどんな小説よりもどんな偉大な人の伝記よりも面白い。誰が嫌い、誰が好きそんなの際限なしに噂する。噂されるターゲットは毎日毎時間変わっていく。人を呪わば穴二つ。私のうわさももちろん流れているだろう幸いまだ耳に入ったことはないが。もし悪い噂でも仕方ないかなと思いながら唇を強く噛む癖がひどくなる。
今日は数学の先生の悪い噂で持ちきりだった。
「あの先生痴漢したらしい」
犯罪に手を染めてしまったのかもしくは羽が大きく広がりすぎたのか。本当かどうか確信はないし証拠もない噂は瞬く間に学校中に広がり先生の耳にも入った。しかし、誰が流し始めた噂かわからないものに対処ができないのか先生たちは何も言ってこなかった。犯人はもちろん私なんだけれども、痴漢とは言ってない。セクハラされただけである。そしたら面白いほどに広がった。ああ、甘い。人の不幸はどんなスイーツにも敵わないほどに甘く実る。その果実の良いところだけをもぎ取る。
次の日、その数学の先生はいなくなった。罪悪感はない。むしろ征服感に満ち溢れた。ざまあみろ。この日から私は際限なしに人の悪い噂だけを流すようになった。誰が誰を好きとかかわいいとかそんな噂をしても甘くない、むしろ自己嫌悪に潰されそうになるから目の前にある甘い蜜にすがっていった。私の唇を噛む癖は腕までも噛むようになっていった。皆だってそうでしょう?だって悪い噂の方が流れるのがとても速いもの。我先に羽を広がしていく姿はとても醜い。皆がやってるから、ほんの噂だから強い武器にはならないと勘違いして。広がる噂は人を本当に殺してしまうことだってあるのに。いつあなたが殺されるかもっと怯えて暮らすべきなのに。私は次のターゲットを決める。次は君だ。
塾の帰りに明日流す君のうわさを考えていた。君に何かされたわけじゃないから今回は少し罪悪感はあるが私は甘い蜜に飢えていた。もう麻薬の様に毎日吸っていないと体がおかしくなりそうなんだ。噂に一番憑りつかれているのは私なんだ。噂の内容を考えるたびに目の前がショッキングピンクに染まる。天使と悪魔が天を舞う。私はトゥーシューズをはいてクルクルと踊る。ああ、甘い。
その時背中に鋭い痛みが走った。その状況をはっきりわかるまで時間はあまりかからなかった。どろりとこぼれる私の蜜が手を染める。後ろを振り向くとそこには私の数学を教えていた先生がいた。
人を呪わば穴二つ
「ねえ、あの子昨日誰かに殺されたんだって」
「知ってる!全身刺されたんでしょ」
「むごかったって」
どこまでが本当でどこまでが嘘かなんてわからなくてもいい。だってただの噂だから。
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