第2話 マシュマロに殺される少女

 女子高生。かわいい。甘い。甘いはマシュマロ。マシュマロは甘い。甘いは女子高生。女子高生は私。私は私。

 将来の夢は皆を笑顔にすることです!小学校の卒業文集のバランスの取れていない字がキラキラ光って見える。女子高生ってとっても魅力的な言葉に聞こえる。何しても許してもらえそう、実際そう。私が「あの人嫌い」と言えば桜色のねっとりしたグロスに皆くっついてその言葉に縛られる。ただちょっとぶつかって謝られてないだけでちょっとイラっとしただけの一言で「あの人」の人生を無茶苦茶にできる。何をしてもテストの平均が悪くても皆皆私の人工物を無理矢理入れ込んだ黒目からあふれるダイヤモンドに見とれて私に首輪の紐を預ける。

             かわいい

 ああ甘い。この言葉を作った人は天才なんだな。最高に気持ちがいい。砂糖漬けにされた小瓶に大事にしまわれているようだ。ネットに上げる私を皆褒めてくれる。将来の夢もう叶っちゃった。皆私のおかげでニコニコしてる。私を褒めて褒めてドロドロに溶かしてくれる。

             ブス

 たまに聞くこの言葉は何回聞いても慣れない。今日は三回。正の字を腕に書く。紅色が混ざってピンクのマシュマロになっていく。純白のワンピースに付かないように気を付けながらそっと刺していく。自分が嫌いなのに周りから勝手に愛されている私は皆に愛されるたびに自覚し、否定されるたびに自覚する。

 皆を笑顔にした代償は大きかった。皆を笑顔にするために何だってした。皆、つまり大人数を笑顔にするためには少人数を殺すしかなかった。何人もの人の人生を壊しそのたびに罪悪感で死にたくなるのに大人数は笑って喜んでくれる。

 「かわいいね」「大丈夫次は良い点取れるよ」「君なら大丈夫」

甘い甘い言葉で私の罪を包んでくれるマシュマロ達に囲まれてお茶会に招待される。沢山のマシュマロを口に詰められ血液さえも砂糖水になっていく。多数決という戦争に勝った市民たちが私をマシュマロという凶器で刺してくる。逃げ出そうという気にはなれない。これは私が望んだ将来の夢だから。マシュマロに刺され自我を亡くし自分をも殺す。たばこもお酒も悪いこと全部試してこんな人生から逃げようとしたのに何もない悪い子なはずなのに皆

「キレイだね」「かわいいね」「大丈夫?」と私を甘くてかわいいマシュマロへと変えていく。チクッとした刃物の痛みはどこか心地よくてこのまま自分なんていらない世界へと飛び込むのもありかなって思えてくる。

「あれ?私誰だっけ」

マシュマロ達が私を囲む。囲んで現実の光を閉ざす。

「君はこのままでいいんだ」

そうか。私はもうマシュマロなんだ。足も腕も首すらも自分で座らせられない。自分で決めて自分で歩くことを忘れただ周りに飲まれてコーヒーに溶かすと美味しい甘い甘いマシュマロ。

この世界に自我なんて必要ない。必要なのはただマシュマロに身を任せて溶けること。

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