在りし日の少女たち
春野梓桜
第1話 突進少女
唐突にただ感情のままに動くことは「猪突猛進」という四字熟語になっている。でもこの言葉はマイナスな意味を持つ。衝動的に進むことは周りが見えない状態でそれはいけないのだとどの辞書もサイトも口を揃えて言っている。
気に食わない。全力で気に食わない!!
今日も私は走る。睡魔と戦うどこにでもいる女子高生なのだがこれで何敗目だろうか。そろそろ勝ててもいいくらいに作戦は練ったのだが。電車の中で食べたおにぎりが腹の中で揺れる。頭は痛いし汗が流れ目にしみる。それでもとにかく走る。このまま別次元に行けないかなとか考えても結局目の前に現れるのはブラックホールでもなんとかドアでもなくて見慣れた校門だ。
飽きてしまった。教科書を読んでもわからない応用問題を解くことも、授業中に絵を描いたり文字書いたりすることも、帰りに部活をさぼる自分も全部飽きてしまった。平凡だからってわけじゃないけれどとにかくつまらない。友達とケンカして居づらくなった部活をさぼって図書館にきて刺激物を探し貪る。図書館はいい。感覚がとがっていく。ビリビリと感じる。顔も知らない人の嘘の話でも顔を毎日見ている友達の自慢話より面白く感じる。学校の本は一通り読みつくし、もっと良い獲物を探すが見つからない。ここもダメか。
帰り道、怪しい森の細道に行って虫に噛まれて母に怒られた。明日の小テストの勉強しながら何度も脳みそをひっくりかえして何か面白いことがないかと考える。最近遅刻して走る事しかしていない。サラサラと残りかすが落ちてきた。懐かしい中学の私の記憶。
猪突猛進に生きるのは疲れる。それはもう知っている。でもそれでも走りたいんだ。中学の頃の私は今の私より早かった。何でもできていた。「やりたい」という言葉の「や」を言い終わる前にはもう目の前には飲みかけのコーヒーが置いてあるだけ。周りに何を言われても叶えたかったものに突進した。跳ね返された古傷は今でも残っているけど恥ずかしくはない。周りが見えなくて敵ばかりになっていくなか走った。走って走って突然周りの一人から声をかけられたとき足が止まった。
「現実を見ろよ」
足が動かなくなった。髪の毛をつかまれて地面にたたき落される感覚がする。その瞬間周りを見渡すと何もなかった。その言葉の主は、母は、私に大きな箱を投げつけてきた。大きく目を開いて悲惨な戦場を見ても涙すら出ない。
走ることは現実を見ていないのか。私に残るものは何もなかった。本当に何も残ってなくて寂しくなって歩くことにした。そこからはただの女子高生の話。
あの時耳を貸さずに箱を蹴ってまっすぐ母に突進したらどうなっていたんだろう。勝てていただろうか。もう何十年も生きているのに何も身についていない。
くやしい。胸がえぐられる
周りに合わせるくらいなら足を止めて前を見た眼をえぐり必死に振っていた腕をもいでしまった方が人生の恥にはならないのではないか。何もない私には何もできない。つまらない。とてつもなく寂しい。
走りたい。ただ走りたい。体は走る動作をするけれど心はおいてけぼりな空箱の私は今日も何かを探す。
青春は短し走れよ乙女。
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