マルアスク

マジコントッシュfromアルゴイズム

第1話

幽来市 市街地




 大学二年の春、月が雲から姿を表す。歩道に咲く桜が揺れる。

 明日は一限に授業があり、本当は寝ないといけないと分かっていたが紀野諒太はずっと外に出ていた。




 黒のジーパンに白い無地のシャツ、ワンポイントの安物の銀色のネックレス、個性がない無難な恰好をしている

 顔のパーツは比較的に整っていて、特に目が綺麗な二重をしている。はたから見れば好青年に見える

 しかし、目線の焦点が合わず、黒い街中をキョロキョロ見渡す。

 また終始そうな顔をして人混みから逃げるように裏路地に入る。人が近くにいると圧迫されて不安になるからだ。




 「まるで吸血鬼だな」

 自分の行動が可笑しくて苦笑いする。

 最近、幽来市で起きてる猟奇殺人事件、巷の噂だと犯行が現実離れしたことから鬼の仕業だと言われている。

 そんな鬼と自分をなんとなく重ね合わせる。

『明日なんて来なければいい』

 諒太は変化することが怖い、二年前の高校の三年生のあの事件以来、何かを選択することをひどく怯えるようになった。

 あの日以来、人間関係が重荷に感じ、ひたすら逃げるように毎日を過ごしていた。まるで石が坂を滑るように徐々に削られ、最後には何も残らなくなる。

 何度もちゃんとしないと思ったが、この生活はとっても楽でよかった。

 他人にどう思われようとも、何も感じないフリをして、醜く笑ってその場をやり過ごせばいい。そうすれば他の人間が憐れんで

諒太のために施しをしてくれる。本当はしなきゃいけないことがわかっているのに、自分の状況にわざと盲目になり、最悪な結果を努力もせず、100パーセント自分のせいだと納得する。

 そこに人して知性も意思もないただの脂肪の塊だった。


 


 諒太はゆっくりと空を見上げる。

「きれいな月だ」

「そうね、きれいな月だね」

 



 諒太の独り言に答える幼い声音

 諒太はその声に肩を震わせて驚く。

 「誰?」

 声のほうを向くと、住宅街の塀の上に小さな女の子が立っていた。朱い振り袖を来た小学生くらいの女の子、片目を隠す血のような赤い髪の毛に、鋭く妖艶な目つき、

東洋の人形みたいな病的な白い肌、幼い容姿だが月に照らされた彼女はきれいで妖艶に見える。

 少女は綺麗に諒太の目の前に跳んで顔を胸に近づける。




 「ウフフ……すごい目つきだね」

彼女の振袖から見える白っぽいうなじが諒太の目に無理やり焼き付けられる。とても色っぽい

「やらないといけないことがあるのに、それから必死に逃げてる……病気のような人の目つきだね」

 彼女は一指し指を口に当てて、諒太を見透かすように答える。




「変なことを言うなよ……子供はさっさと寝ろよ」

 冴えない大学生にとって彼女の行動どうも身体に悪い、慌てて顔を逸らす。

「フフフ……こんな夜中に子供が歩くわけないじゃん……分かってるくせにからかわないでよ」

 そんな諒太の反応が面白いのか、また同じように諒太に近づいてくる。

「やめろって」

「見て!」

 また、顔を逸らそうとするが、彼女の大きな声が怯んでしまいそのまま顔を手で捕まれる。

「私も君と同じ、夜の生き物……」

さっきのおふざけな雰囲気とは一転し、真剣な表情で諒太を見る。

「明日が来るのが怖いでしょ……私も同じ真実を知るのが怖いの、だから同類よ」

 彼女の言葉はたまに難解になる、



「同類かは分からないけど、僕は君を知っている気がする」

 彼女を見ると、諒太は懐かしく感じる。そして心の突き刺すような痛みが僕に刺さる。

 初めて会った気がどうしてもしなかった。

「変なナンパの仕方ね、でも悪い気はしないわ

少女は最初はきょとんした表情したが、またいつも通りの笑みに戻る。

「そういえば、まだあなたに私の名前を教えてなかったね」

 今度は、わざとらしく舌を出す。諒太とは違い表情がコロコロと変わる。

「今度会うときは、きっともっと深い夜だと思うのよ。君は私を必要とする」

「私の名前はね……」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 目が覚めるとそこはいつも通りの自分の部屋だった。

 乱暴に置かれた参考書や大学ノート、ベットの横の目覚ましを見ると、時刻は午前11時を回っており、もう大学の一限目も終わりを迎えている。

 諒太はトロールみたいにノロノロと起きて、台所からインスタントコーヒーを出してコップにお湯と一緒に注ぐ。

 どうせ、もうこの時間だ、今更焦ったって一限は間に合わない、コーヒーを片手に座り、スマホをいじる。正直、今授業なんかどうでもよかった。僕は昨日の夜の記憶を鮮明に想い出そうとする。

 現実と微睡みの狭間、人から夢だと言われたらうまく否定は出来ない。

 それだけ、あの少女が綺麗で浮き世離れした出会いだったから、諒太は彼女を決して忘れることは出来なかった。




幽来市 同日 深夜 ナヘト第三小隊





 皆月皐みなつきさつきは、気だるそうに車の窓を見つめる。残念ながら、景色はずっと真っ暗で皐の退屈さは増すばかりであった。

 彼女を乗せたバンに武装した兵士たちが緊たい張感を持ちながら、車に同行している。後ろに護衛用のバイク二台と車が皐たちを追っている。正直少し気まずい。

 「わざわざ、あなた方が来る必要もなかったのにご同行頂いてありがとうございます。」

 皐の退屈さに気付いたみたいで、隊長と思わしき人間が、ねぎらうように声をかける。

 

 


『秘密結社ナヘト』


 幽来市に本社がある大手製薬会社メディカルマジコンが中心なって作られた組織である。

目的は特殊的な精神病の研究と民間人の安全確保が当たる。ほとんどの構成員は20代で高額なバイトしてよく大学生に重宝されている。

 皆月皐は、幽来市で起こる猟奇殺人事件のナイトメア病の解析チームのメンバーである。

 犯人全員の皮膚が赤く硬化して錆びような炎症を起こす。充血した目つきをしている。筋力著しく上がり、凶暴化する。

 しかし、理性は残り、しばらく立つと患者は元に戻る、これがナイトメア病の現在分かっている症状である。

 皐たちの研究のおかげで、ナイトメアに対して解決が見込める特効薬を開発に成功し、皐たちを第三小隊を連れて本社に薬を運搬している。





「いえいえ、私は全然大丈夫ですから」

 皐はわざとらしく明るく振舞い、隊長を安心させようとする。

「何が、同行の必要もないだ! ふざけるなよボンクラガ!」

 皐は隣の上司を見て、疲労する。彼は飯野、この研究の主任で、直属の上司に当たる。

ぼさぼさの髪の毛、剃っていない髭、老けた顔つき、清潔感のある白衣を身にまとっているが、正直あまり清潔感はない。

 「まぁまぁ、主任落ち着いてください、この人たちはプロなんですから、大切な教授の作品を運ぶんですから、この人たちの助けが必要ですよ」

 内心、煩わしいと思いながら自慢の愛嬌でなんとか乗りきようとする。

 皐の言うことは間違っていない、皐たちを護衛しているのは、ナイトメアを始末するために働いている隊員である。

 しかし、教授の顔つきを不安そうで少し青くになっている。

「皆月君、これは私の大切なキャリアになる研究成果なんだよ、『マルアスクプロジェクト』成功すれば私はあいつに追いつくことが出来る」

声のトーンは先程より落ち着いているが、今度は胸を抑えている。顔には脂汗が垂れる。

 「主任?」

 皐は主任の異変に気付く。飯野の体中から赤い錆のような物が斑点のように浮きでる。

 「私に時間が無いんだよ!」

 真っ赤に充血するい目つき、ラボで見た資料が思い浮かぶ。この症状はナイトメアの初期発作だった。

 上司が人類の敵になった真実を知った皐は瞬時に最悪のシナリオが頭の中に過ぎった。






「逃げて!」

 叫び声が大きな衝撃に消され、皐の華奢な体が勢いよく真後ろに飛ぶ、意識が飛びかけて、頭部から鉄の臭いが染みる。乗っていた車は炎で赤く染まり、深夜ではない明るさを放つ。

「あれは私の作品だ! 誰にも渡さない」

 炎から出てきた飯野は顔が爛れ獣じみた声で叫ぶ。

 右手には、銀色のアタッシュケース、皐たちが本部届ける例の秘密兵器だ。

 上司のナイトメア化、頭の痛み、そして秘密兵器の奪取、ラッシュのように出来事に彼女を襲うが瞬時に唇を噛む――負けたくない、抗わなければ終わる

「負けたら……終わりだ!」

 立ち上がり、死亡した隊員の拳銃を元上司に容赦なく向ける。

「返せよ、このクソ野郎がよ」

その声に激励され戦える隊員たちも飯野を囲む

 囲んだ隊員達も一斉発砲、純銀の弾丸、ナイトメアで一番有効だと言われている弾丸を容赦なく弾幕で打ち込む、銃弾は飯野の体に食い込む、地面に膝を着ける。




「倒した……」

 皐は震えた声で言う。いつでも戦えるように拳銃の弾丸を籠めようとする。

「ひどいな皐君……」

飯野は嗅がれた声で答える。

「痛いよ、私は君の上司なのにそんな言い草はないよね?」

弾丸でグチャグチャな顔でほほ笑む。皐は顔を恐怖のあまり拳銃を落とす。

「お返しだよ、全部返してあげるよ!!!」

飯野の顔の皮膚や体の皮膚が震えて、体にめり込んでいた弾丸は体から発射され、隊員たちに帰ってくる。次の瞬間ほとんどの隊員たちが、一瞬で地面に血しぶきを上げて倒れる。皐にも右ひじで痛み、服に血が滲む、撃たれたことに気付く。

「速すぎる……」

「お前は逃げろ!」

 辛うじて弾丸から逃れた隊員たちが皐に叫ぶ。

「でも……」

「お前はこの状況を本部に伝えろ、俺たちは兵器を護衛する義務がある。ここに残る義務がある。君にはないだろ」

「なら君をせめて君だけは護衛させたことにしてくれないか?」

 隊員の顔を見た皐は、もうこれ以上否定することは出来なかった。




「了解しました、あとはお願いします。」

 皐はすぐに近くに落ちていたバイクにまたがりエンジンが掛かることを確認してこの場から逃れる。

 皐が去った後に銃声が響き、そしてすぐに静かになる。見なくても結果が音でわかる。

腕の痛みと頭の痛みなんかどうでもよくなり、もっと強く唇を噛む。飯野に受けた傷を痛みで上書きするように、

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