1-6
俺はギルド内の食堂で食器を拭いていた。
ララーさんから逆プロポーズ……!!
なんて思ってる時期が俺にもありました。トホホ。
やっぱり住み込みで雇われるってことだったのね……。
お帰り……。今までの俺……。
「ヒロトくん。そっちの食器並べてくれる?」
「はい!」
ララーさんに言われた通り、大きな一本木でできた20人ぐらいが座れるテーブルに食器を置いて行く。
へへ……。プロポーズではなかったけど、こんなに素敵な女性に、ララーさんにお願いされるなんて幸せ者だよ。俺は。
今までの俺、少しさようなら……!!
「毎日、こんなに大勢で食事をするんですか?」
「いえいえ、もっと来るわよ。入れ代わり立ち代わりでね。とりあえず20人分だけ並べちゃって下さいな」
ララーさんに言われた通り、皿を並べていく。
これからこんな日々が続くのか……。
皿を抱え込むような仕草で酔いしれた。
幸せ過ぎる!!!!!!!
ガヤガヤと外が騒がしくなったかと思うと、入口の扉を開ける音がした。
ドタドタとガタイの良い男たちがギルド内に入ってきた。
「あら、お帰りなさい」
「「ララーさん、ただいま!!」」
見た目に寄らず、礼儀正しい男たち。続々と帰宅者が増え、20席あった椅子は全て埋まってしまった。
大皿を運ぶ。
見たことも無い程大きな魚をただ焼いたシンプルな料理や豚のようなイノシシのような獣をただ丸焼きにした料理をふらつきながら運んだ。
皿がテーブルに置かれた瞬間、ゴングが鳴らされたかのように男たちが競い合って自分で切り分けて食べていく。
ワイルドな食事だなぁ~。
「ヒロトくんも食事にしたらいかが?」
「はい。ありがとうございます。料理はどこで食べたらいいですか?」
「あ。特に考えてなかったわ。あそこに混ざって食べてみる?」
ララーさんが指差した先は、今まさに料理を運んだ男たちが食事という闘いを繰り広げている会場のことのようだ。
いやー、厳しいっす……。
でも、俺を雇うことだって、急だっただろうしな。
ララーさんの恩に報いる為にも好き嫌い言ってられない。
例えあれがプロポーズでなかったともしても……!男は惚れた女に語るのさ。その背中でな!
「じゃあ、俺も混ざってきます!」
ララーさん。見ててくれ、俺の雄姿を!!
戦に出るような覚悟を決めた。手にはフォークとナイフそして、自分用の小皿。
「うおーーーー!!!!!」
大きなテーブルに突っ込んでいった。
「俺のボタン肉を奪うんじゃねぇ!!!!」
そう怒鳴られたと思ったら、太い腕で押し出されて吹っ飛んでしまった。
ピュ~~~~~ン。
ポヨン。
床に叩きつけられると思い目を瞑っていたが、何か柔らかいものに着地したようだ。
優しい感触、懐かしい匂い。そして、安心する暖かさ……。
もう、薄々気付いてるんだけど、もう少し目を瞑っておこうか。とてつもなく悩むが、想像を具現化したい。そういう視覚の誘惑に勝てず仕方なく目を開いた。
やはりララーさんの胸の谷間だった。
うひょ~~~!!!!!
「あらぁ。ヒロトくんったら、そういうのはまだ時間が早くないかしら」
ララーさんは笑ってそう答えた。
俺としては、動揺して頬を一発ブタれるぐらいの覚悟はすでにできていたんだが、ララーさんの優しさは俺の予想を遥かに越えていた。
こんな女性がこの世界には存在するのか……!!!!
ララーさんから離れて、頬に残る余韻に浸っていると、それまで食事というバトルを繰り広げていた男どもが手を止め、こちらを睨んでいることに気付いた。
「てめぇ……、俺たちのララーさんに手ぇ出しやがったな!」
「こんな奴、ぶっ殺してやれ!」
「「うおーーーーー!!!!」」
20人が襲いかかってきた。ララーさんが止めようと前に出てくれた。
俺はララーさんの右肩に後ろから手をやった。
「ララーさん、下がって!!」
こんなに素敵な女性に何から何まで俺は世話になるつもりか?
好きな女(ひと)を護りながら死んでいくのも、それも漢(おとこ)だろ?
って、俺は1回死んでも死なないんだけど。
それにララーさんにはこの人たち襲いかかろうとはしてないけどね。
俺はララーさんの前で両手を広げて歯を食いしばった。
その時、勢いよく入口のドアが開いた。
過大表現なのは分かるが、3mはあるような巨人が現れた。
何に例えればいいのか。
そう、あの、なんというか、秘孔を突くマンガに出てきたドデカい馬に乗った義兄(にい)さんのような。
爪で引っ掻くような動作でお馴染みの、青髪がナントもよく似合うレイのあの人も、義兄さんの手にかかれば、脇腹を人差し指一本で意図も容易く突く。最期には一片の悔いも残さなかったような
そんなに巨体な男が入ってきた。
大きなハンマーを持ち、もう片方が斧のようになったそのハンマーを引きずりながら豪快に笑った。
「ガハハハ!! 大漁ぉ! 大漁ぉ!!」
俺に襲いかかってきていたギルドの20人も動きを止めた。
「は……」
「「ハンマーフォールさん!!!!」」
20人全員が声を揃えて、絶叫している。
怯えているのかと思ったが、もの凄く嬉しいようだ。
叫んで、泣きすぎて嗚咽する奴も現れる始末。
おいおい。なんなんだ。このおっさんは。
「ララー、そいつは誰だ?」
「新人のヒロトくんですよ」
「ああ、そいつが」
絶叫していた一人が巨体のおっさんに耳打ちをした。
「なに?!」
ギロリと眼光鋭いまま、巨体のおっさんがこちらに眼を向けてきた。
「貴様、ララーの胸にダイブしたのか?」
あまりの威圧感にしどろもどろしてしまった。
仕方がないよね。本当に怖いんだもん。ラ○ウだよ! ラオ○! そんなのに睨まれたら、種もみじいさんぐらいの戦闘力の俺が敵うはずないじゃん!!
大きな手の平が降りかかってきた。
うわー!! 殺される!!!
大きな手は俺の肩に置かれ、2、3度軽く叩かれた。
「ヒロトと言ったか。なかなかやるじゃねぇか!!」
「へ?」
「ライトブリンガー家のご令嬢を助けただけでなく、どさくさに紛れてララーとも仲良くなるとはな」
「はあ」
「ご令嬢を助けた奴がどんな奴か気になってたんだ。融通の利かないクライフみたいな奴がもう一人増えても嫌だったが。お前みたいな奴なら大歓迎だ!」
「あ、ありがとうございます」
肩に腕を掛けられた。
お、重い~!!
「よ~し、今日はヒロトの歓迎会だ! 俺が全て出すぞ!! 飲め! 食え! そして騒げ!!」
建物中が揺れる程、歓声が上がった。いつの間にか人も増えていて、お祭り騒ぎのようになった。
「ヒロト! よろしくな! おれはイヴァン・ビアホフと言う。まぁここにいる奴らは俺のことをハンマーフォールとか言ってやがるがな」
「よ、よろしくです……。ハンマーフォールさん」
背丈、口調だけでなく、容姿も豪華だった。
髪は濃い黄色で、癖のある髪質。それが肩ぐらいまである。
髭も伸ばしているから、どこからが髭でどこまでが髪かも分からない。
力強い眉に彫りの深い顔。険しく光る青い瞳も満面の笑顔になると糸のように細くなる。
ハンマーフォールさんには特注のジョッキ? 特大ピッチャーがあり、それでビールのようなアルコールを流し込む。
流し込む度に喉は大きな音を立てている。
「ガハハハ! おい、クライフ」
ハンマーフォールさんが青髪の男性を引っ張ってきた。
「こいつがクライフという。誰よりも腕が立って、頭も切れる。こいつあってのこのギルドさ」
「このギルドはあんたのモノさ。ビアホフさん、あんたのように俺は人望もないからな」
ハンマーフォールさんがまた景気よく大声で笑っている。
「ララーだけでは頼りないだろ。お前の世話役を見繕っておくな」
「何から何までありがとうございます」
「そう固くなるな。すぐに慣れるだろう」
ハンマーフォールさんが先ほどまでの豪快さとは打って変わって優しく笑った。
こんな表情もできる人なんだ。
この人が慕われるのも分かる気がする。
そう思ったのと一緒に自分がハンマーフォールさんを好きになっていることに気付いた。
■ ■ ■ ■
「いや~、みんなよく食べるんですね」
男たちが引きあげ、散らかり放題になった食堂。
とりあえず食器類を下げてキレイになったテーブルを拭きながら、俺はララーさんに話しかけた。
「ほんとね。嵐が去った後のようね。ふふふ」
ララーさんが笑った。この笑顔の為なら、まだ全然働けるような気がしてしまうのはなんとも不思議である。
もうひと頑張り。そう思い、手は動かしながらララーさんに話しかけた。
「ララーさん。明日って、昼間は仕事あるかなあ?」
「うーん、朝は朝食の準備と片付けがあるけど、それ以降なら、夕食の準備まで特にないかしら」
ララーさんも手を動かしながら、応えてくれた。
「じゃあ、俺さっそく何か依頼受けてみるね」
「頑張ってきてね」
ララーさんが手を止め、こちらに顔を向けて微笑んでくれていた。
ララーさんの笑顔を見て、嬉しいのと照れ臭さとで、顔が真っ赤になってしまった。
それを隠すように床に散乱した食べかすを拾い始めた。
ああーーー!! 可愛いぜ!!!
ララー!! ララー・エピカ!!!
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