第7話

 少年スリ師タマが家に帰るというので駅まで一緒についていった。

 電車はなかなか来なかったけれどいろんな話をして時間をつぶした。

 なぜ新幹線に乗り込んだのかも聞いてみた。

「スリ師の悲しい習性だな」

 タマはそれ以上そのことについて触れなかった。

 ようやく電車がやってきた。

 彼は電車に乗り込むと、なにも言わずにドアが閉まるのを待った。

「ばいばい」

 私がそう言ってもタマは黙ったままだった。

 そして電車が発車して、ホームには私だけが残される。

 さびしいお別れだった。


 その後のことを話そう。

 家に帰ってみると両親が玄関に仁王立ちしていた。

「ごめんなさい……」

 少しの沈黙があって、私は父に抱きしめられた。

「心配したんだぞ……」

「苦しいよ……」

 震えた声で話す私たちは、まるでアメリカン・ホームドラマの登場人物みたいだ。父と娘の再会シーンなんて涙なしでは見られない。母も抱きしめてくれるのかと思ったらタイミング悪くやかんが鳴り始めた。

「きゃあ! 大変!」

 それじゃアメリカン・ホームコメディだよ、ママ。

 

 それから私には新しい友達が一人だけできた。

 私を打ち上げに誘ってくれた森山さんだ。

 私だけが打ち上げに参加しなかったから心配になって家に電話をかけたらしい。そこで私がいなくなったことを知り、町中を捜してくれたそうだ。

 私が帰ってきたことを電話で告げるとすぐに駆けつけてくれた。家族以外まだ誰も踏み入れたことがない私の部屋へ案内した。

「どこへ行ってたの?」

 そう聞かれた私は、今まであったことをすべて森山さんに話した。

 すべてを聞き終えた彼女は、すごい体験をしたんだね、と目を輝かせて言ってくれた。

 それから昔の友達は、私のことを忘れたわけではなかった。ただ私が新しい住所を教えていなかったから手紙を出せなかったのだ。


 そんなある日、手紙が届いた。

 差出人は、昔の友達でも森山さんでもなかった。

 差出人を見てみると下手くそな字だけどカタカナで「タマ」と書かれていた。

 手紙には、酒で酔ったママさんがヤクザを相手に喧嘩して勝ったこと。

 ポチさんが美人な日本人と付き合い始めたことが書かれていた。

 しかし、タマ自身のことが一つも書かれていなかった。やっぱりさびしい。

 あれ? タマは、どうして私の家の住所を知っていたのだろう。

 私はコートの生徒手帳が入っているはずのポケットの中身を確認した。

 あるはずの生徒手帳がそこにはなかった。

 そうか、今度は生徒手帳を盗まれたんだ。

 

 私はすぐに旅行の準備を始めた。今度の目的は自殺なんかじゃない。

 今度はどんな旅行になるのか楽しみだ。

 森山さんも誘っていっしょに行きたいな。

 冬休みはまだ、始まったばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編小説『女子高生は旅に出る』 川住河住 @lalala-lucy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ