第6話
私たちは小さな駅に降り立った。
なつかしくて大嫌いな私の住む町。雪が少しだけ積もっている。
「お前はここで大きくなったのか」
「まあね。ってか、なんでタマがここにいるのよ」
タマは私の言葉を無視して雪の感触を確かめている。
あの時、ドアが閉まる瞬間にパトカーのサイレンがすぐ近くで聞こえた。
その瞬間、血相変えたタマが新幹線に乗り込んだ。
あの光景が何度も私の頭の中で上映され続けている。
寒い世界にずっといるのは嫌なので二人で近くの喫茶店に入った。ジャズの曲が流れた店が私たち二人を出迎えてくれた。口髭を生やしたおじさんが注文を取りに来た。私はココアを注文し、タマはメロンソーダを頼んでいた。猫舌なのかな。
ココアとメロンソーダを持ったおじさんが私たちのテーブルにやってきた。
「君たちみたいな若いお客さんは久しぶりだよ」
「そうなんですか」
おじさんの営業スマイルに私は愛想笑いで応えた。
ごゆっくりどうぞ、と言い残しておじさんは戻っていった。
ココアを飲みながら店内に響くトランペットの音を聴くとすごく落ち着く。
バーで流れていた曲と同じだった。すごく素敵な曲。
私は、メロンソーダを美味しそうに飲んでいるタマに言った。
「私の財布を盗ったのは……あなたでしょう」
あまり驚いていないタマに続けて言った。
「あなたの部屋でこんな物を見つけたわ」
ポケットから銀色に輝くバタフライナイフを取り出すとタマに渡した。
「その刃にコートの布の繊維がくっついてた。ちゃんと手入れしないからそうなるんだよ」
タマは苦笑いしながらナイフをしまった。
この年齢でスリ師なんて世の中分からないことばかりだ。
「あなたを通報しても良いけどその前に私を殺す? その商売道具のナイフで」
「勘違いするなよ。俺はスリ師だ。殺人鬼じゃない」
いたずらっぽい笑顔を見せながら見つめてくるタマ。
私は世界を見下したようなその目が好きなんだよ。
お金を払うときにおじさんに流れている曲が誰のものか聞いてみた。
おじさんは、優しそうな声で教えてくれた。
「クリフォード・ブラウンだよ。いい曲だった?」
「はい。とっても」
今回は真面目な顔で答えてみた。
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