Episode07: 共謀作戦
まさか見られていたとは……。
聡い隆弘のことだ。俺が下層に行った目的も、なんとなく察しているに違いない。
仕方ないので、すべてを明かすことにした。
――俺は10年前、今の義父――如月源蔵に下層で拾われたこと。
――俺には弟妹がいたこと。
――その弟妹とは別れて以来一度も会っておらず、生死もわからないこと。
――二十二層が水没する前に、二人の行方を探そうと思ったこと。
そして、隆弘が今日俺を見かけたのは、まさにクロノスを欠勤して下層に向かう途中だったこと。
「どうだ? 軽蔑しただろう。あれほどお前に"下層民を助けるな"と忠告した俺がこのザマだ」
「ううん、玲二らしいと思う」
「芯の無い人間だってか?」
「むしろ逆。そうやって一人で抱え込んでさ。バカなんじゃないかって思うよ」
バカ……か。
「玲二はさ、組織の人間でしょ?」
「そうだな」
「だから、どうしても表向きの建前っていうのはあると思う。でも……」
でも?
「玲二の出自を考えれば、その本音は当たり前だと思うよ」
「そうか……」
「だからといって、一人でやるのは無謀だと思うけどね」
そうは言うが、これは俺の問題だ。
組織や周りを巻き込んでまで為すことではない。
「ほら。そうやって難しい顔をする。そんなにボクって頼りないかな?」
まあ、下層でガキ達相手に腰を抜かしていたお前が言うか、とは思うが。
でも、それ以上に俺はこいつを"巻き込みたくない"んだ。
何度も言うが、これはあくまで俺個人の問題である。
「玲二、ボクでよければ協力するよ。どうかな?」
「…………」
「今日欠勤したんでしょ? 明日も休むつもり?」
「それは……」
流石に明日も欠勤するのは無理だろう。だから、俺は土日と――あとは適当に一日休みを取って、下層にいくつもりだったのだ。
むろん、独りで。
「ボク達、友達でしょう?」
ああ、そうさ。だからこそ巻き込みたくはなかったんだが……。
「隆弘、一応言っておくが、俺がやろうとしていることは ある種の"賭け"だ」
「それはわかってるよ」
「そもそも、生きているかもわからない。俺の弟妹が見つかる確率よりも、これからする事がクロノスにバレてしょっぴかれる確率のほうが遥かに高いぞ」
「それも、わかってる」
「それに……知っているだろう、下層は危険だ」
「うん」
まるで、暖簾に腕押し。
ぜんぶ
「……そうか。お前がそこまで頑固だとは思わなかった」
隆弘は、普段あまり自己主張をしないのだが……。
どうやら、意思は変わらないらしい。
「わかった。それなら協力してくれ」
「うん」
「ただ……あまり危険なことはナシだ」
「わかった」
こうして、第二十二層水没までの一週間、俺と隆弘の共同戦線――いや、共謀作戦と言ったほうが正しいか――が始まった。
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