Episode08: タイムリミット

―――第二十二層水没まで、残り一日。

 その最後の一日も、すでに暮れかけている。


 この一週間、俺は隆弘の協力を得て、弟妹の行方を探していた。

 しかし、そう簡単に情報が手に入るはずもなく。


 結局得られたのは、第二十一層に住む七十過ぎの婆さんが”シンジ”という名前の青年を一時期匿っていたらしい・・・、という何とも漠然とした情報だけだった。

 しかも、当の婆さんは既に此の世にいないという。シンジが慎司なのかを確認する術もない。


「お手上げだな……」

「玲二、まだ十九層より上は調べてないよ」

「もう無理だろう、時間的にも」


 第二十二層だけでなく二十一層、二十層も大方回ったのだが、それ以上の情報は得られなかった。


「隆弘、帰るぞ」

「もうちょっと探そうよ」

「ダメだ」


 下層の夜は悲惨だ。

 ヤクをキメた連中が道路でのたうちまわっていたり――他方では人生に飽きた連中が娯楽とばかりに何処からか拾ってきた女をまわしていたり。


 とにかく、下層の夜はロクなことがない。


「いいか、下層の夜は昼間の比じゃなく酷いんだ。ほら、帰るぞ」

「……わかった」



 下層を後にする。


 結局つかめなかった、弟妹の行方。

 せめて墓でも分かれば落ち着いたのだろうが、それすら叶わなかった。

 すべては自分が蒔いた種だ。



―――約十年前。

 当時クロノスの幹部だった如月源蔵――今でこそ隠居しているが、その当時は腕っぷしの強い男だった源蔵と、当時まだガキだった俺は、二十二層で出会った。

 今でも覚えている、最悪な出会いだった。


 二日間も食事にありつけていなかった俺は、身なりのよさそうな源蔵を見るや、無謀にも真っ向から挑んだのである。


 当然のごとく負け――それも、左足に源蔵の放った弾丸を浴びる負傷を負い、そして気づけば如月家の養子となっていた。


 間に紆余曲折、かくかくしかじかと様々な事情があるが、それはまたの機会でいいだろう。

 とにかく俺は、源蔵の駒となる約束の元・・・・・・・・・・・、安定した生活と引き換えに弟妹を見捨てたのである。


 今更、見捨てた弟妹を探しだそうなど、虫の良すぎる話なのだ。




―――明日は第二十二層水没の日。


 中層以下の一般衆にこの事実が伝えられるのは、明日の午後である。

 過去、何度も下層の見殺しは行われてきたが、その度に大規模な暴動が発生している。

 あたりまえだろう。人が死ぬんだ。


 しかし、このフロントに住む者に、クロノスに逆らう権利はない。

 このフロントブルートにおいて、民は所詮、生かされているにすぎないのである。


 合理的であり、非人間的なクロノスの政策。

 民をブルートや家畜としか思わないような政策それだが、止められる者は誰もいない――。

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