Episode06: 本音

 もとより、一度の調査で見つかるとは思っていなかった。

 だが、いざ探そうとして見つからなかったショックは思った以上に大きい。


 タイムリミットは一週間後。

 流石に欠勤を続けるわけにはいかないので、下層に赴くのは、土日を含めて精々あと三日が限度だろう。


 その間に、見つかるかどうか。

 今日はガキ達以外の人間を見なかったので何とも言えないが、かなり分の悪い賭けになりそうだ。


――いいか隆弘、あいつらを救おうだなんて死んでも考えるなよ。


 いつか、俺が隆弘に言ったこの言葉。


「どの口が言ってんだよ……」


 今の俺は、自分の弟妹とはいえ、その下層民を助けようと考えている。

 尤も、今のところ生存の手がかりすら掴めていないのだが。


 まったく、嫌になる。


 先ほど、暫く音沙汰のなかった隆弘から「今から会えないか」と連絡が来たのだが、どの面下げて会えと言うのか。


 しかし、ごく個人的な理由で拒否するのも忍びないと思ったが最後、気づけば「わかった」と一言返してしまったのである。


 どうしたものかと思案していると、玄関のベルが鳴った。

 使用人がパタパタと戻ってきて、隆弘の来訪を告げる。


「行くしかねぇか」


 隆弘は十中八九この前の件――下層民を見捨てろと言った事、或いは俺が下層出身者であると明かした事について話題を振るつもりだろう。


 俺は、クローゼットから適当な外套を引っ張って家を出た。



 既に消灯時刻を回っており、外の灯りは少ない。

 門の前、薄明かりに隆弘の姿がぼんやりと浮かび上がっていた。

 遠目からでもわかる姿勢の良さに、今さら変えようのない"生まれの違い"を痛感する。


「隆弘、どうした?」

「聞きたいことがあったんだ。歩きながら話そう」


 街灯が半数以上消され、"夜"になった街を歩く。

 暫く経っても隆弘が口を開く素振りを見せなかったので、俺のほうから切り出すことにした。


「それで、聞きたいことって?」

「玲二、さっき下層に行ったでしょ」


……時間が、止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る