第105話『タイムリミット【Part1】』
ルーシーは区画コントロールセンターに到着する。
円形の室内には、非常事態を報せる警告灯が
室内が赤く染まる中を、ルーシーはコンソールに向かって走り寄った。
その途中、両手を使える状態にするため、ミスターストライプをエアバイクのシートの上に置く。シートのセンサーが搭乗者が現れたと誤認――このエアバイクが故障していることを、機械的な音声でアナウンスする。
ミスターストライプが、そんなエアバイクの音声に被せるような形で、焦燥感に満ちたナビゲートを始める。もう残された時間がわずかなのだ。
「ルーシーあと6分しかない! 区画の抹消には、隠しコードを入力する必要がある。まずは、プロトコル3592の――」
ルーシーはミスターストライプの言葉を聞かず、キーボードをカタカタと叩き、区画の抹消とは関係のない、全点検用の整備モードを起動させる。
「ちょ?! え? ルーシーいったい何を?!」
「正規の手段では時間が掛かります! だからシステムの弱点を突いて、ショートカットを!」
「ショートカットなんてできるわけが――」
デイスプレイには、システム移行を報せる一文と、『%ゲージ満了まで電源を切らないでください』と表示されていた。
室内のありとあらゆるハッチが、次々と開いていく。
システム移行35%に到達したのと同時に、ルーシーはキーボードを叩き、警告を無視してシステムを強制的に再起動させる。
すると、あらゆる手順をすっ飛ばして、いきなり区画の抹消用のコマンド入力画面が表示される。
ミスターストライプは思わず「嘘でしょお?!」と叫んでしまった。それもそのはずだ。ガチガチのセキュリティで守られているはずなのに、こんな単純な作業で時間短縮できるとは、夢にも思わなかったからだ。
ルーシーはキーボードに指を走らせながら、ミスターストライプに簡単な説明をする。自分がなにをしたのかを、
「システムの穴を突きました。全点検用の整備モード作動させて、移行35%の時に再起動をかける。するとこうして、手順を省けるんです」
「そんなビデオゲームのバグ技みたいなことを?! あり得ない! ほ、ほほ、本当にちゃんと動作するのかい?! 動作しなかったら意味ないんだよ?」
「します! ホロテーブルを修復する際に、ソフトウェア関連も網羅しましたから、大丈夫です!」
困惑するミスターストライプを尻目に、ルーシーは室内の中央床に開いたハッチへと走る。そして彼女はしゃがみ込むと、区画抹消の最終シークエンスである、結合ブロックの解除と時空転移の始動を行う。
翡翠の侵略者を葬るための要―― 区画の移動先の座標を、ルーシーは念のため確認する。
もし仮に、現地住人が居る場所にでも落とせば最悪だ。そんなこと絶対にあってはならないし、『間違えました』では済まされない。
幸いにも、予めスケアクロウが座標を入力していた――場所は超高温の恒星。6000℃の業火によって、文字通り “ 無 ” に帰させる算段だった。
「よし、座標軸に問題はない。後はタイマーのセットだけ。ミスターストライプさん! 残された時間は?!」
「残り4分45秒!」
「緊急用エレベーターを使えば、充分 間に合いますね…… タイマーセット! 作動させます!!」
けたたましい警告音が室内に響き渡った。
自爆装置作動を報せる回転灯に続き、時空転移装置が作動したことを報せる黄色い回転灯が点滅する。
「うひゃ~、ちゃんと動いちゃったよ……。ルーシー、君ってほんと、なんていうか……ブッ飛んでるよ。すげぇや」
「褒め言葉と受け取っておきますね、ストライプさん。タイマーは自爆装置よりも二秒早く、こちらの時空転移装置が作動するよう設定しました」
「二秒あれば、自爆装置が作動する前にこの区画は消滅する。なにせ時空転移は一瞬だからね」
「もうここですべきことは、すべて行いました。撤退しましょう!」
「そうだね! この区画と運命を共にするのは勘弁だ」
区画抹消が開始された。
設定された時間に到達すれば、暴れている翡翠の侵略者ごと、この区画は別の時空へ
あとは制限時間内に緊急脱出用エレベーターに乗り込めば、任務は完了したも同然だ。ルーシーはシートの上に置かれたミスターストライプを抱える。そして区画コントロールセンターを後にするため、出口に向かおうとした――
が、その脚がピタッと止まった。
出口には、銃を構えたビジターの女性が立っていたのだ。
女性はルーシーに銃口を向けつつ、警告する。
「動かないで!!」
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