第3話

 クラウドからダウンロードした資料のデータに目を通し終わった僕は、違和感を覚えた。というより、違和感がないことが違和感だった。資料に修正するべき点が見つからない。


――最終更新。昨日、23時41分。

 僕は目を疑った。

 昨日パソコンにバックアップをとるとともに、クラウドにも保存していたことを忘れていたのか?もしくは、パソコンにしたと思っていたバックアップがクラウドにされていた?連日の徹夜のせいか、記憶が定かではない気がする。

 なんにせよ、自分の記憶とにらめっこをする時間は後回しだ。プレゼン開始まであと1時間20分ほど。未だに騒がしい糸静いとしずかを横目に、僕は会議室へと向かった。


 ところで、プレゼンはというと、好調だった。久々に睡眠をしっかりとったおかげか、口も頭も回ってくれた。しかし、僕あとにプレゼンを行ったもう2人の企画もなかなかのものだった。

 3人のプレゼンが終わった後、社長をはじめとした講評、そして採用される企画の発表がされる。プレゼンを聴いた経営陣による会議が行われる間、僕たちプレゼンテーターは昼食をとることを許可された。


「冴島先輩。昼食、つきあってもらえませんか」

「おう、ユウジか。丁度俺も食べようと思ってたところだ。ユウカも一緒にいいか?」

「もちろんです」

 ユウカさんというのは冴島先輩の奥さんで、2つ隣のオフィスビルで働いている。何度か昼食で一緒になったことがあるが、綺麗で優しい、冴島先輩にピッタリの奥さんだ。

「通りの定食屋でいいか?」

「はい」

「あそこのカツ丼はうまいからな。まぁ、ちょっとした願掛けってやつだ」

「ありがとうございます!いきましょう!」

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