兵器はキミの夢を見た。確かに見たんだ
エンキドゥの周囲に複数の大剣が、無から作成されて宙に浮く。それらはそれぞれ意思を持っているかのように、莉雄に襲いかかる。
莉雄は自身の体を白い霞に変え、襲いかかる無数の剣撃をすり抜けてエンキドゥへ迫る。
霞の体に物理的な攻撃は効かない。だが、霞の状態ではこちらからもダメージは与えられない。
エンキドゥも莉雄も、複数の能力を使用出来る点では同じだが、二人の能力は大きく差がある。
エンキドゥは複数の能力を同時に使用できる。だが、莉雄は一度に使用できる能力は一つ。同時に二つ以上の能力は使用できない。まして、エンキドゥの体は頑丈なスパルトイとしての、いや、それ以上の材質で作られたボディであるのに対し、莉雄の体は自身の能力で負傷するほど貧弱な人間としての体である。その都度治せるといえど、この差は大きい。
だが、他の者ではエンキドゥに対抗しえないのも事実である。莉雄では足りない。だが、他の者ではなおさら足りない。正しくは、莉雄ですら、届かない。
エンキドゥに肉薄しながらも、白い霞から元に戻るタイミングが掴めない莉雄に対し、エンキドゥはほぼ不動のままそこにいる。
腕を組み、退屈そうに、宙を舞う剣に支持を出しているに過ぎない。
エンキドゥが暇そうに莉雄に言う。
「君もスパルトイじゃないか。いや、スパルトイですらない。まして人間ですらない。にもかかわらず、どうして君は僕の前に居たんだ?」
莉雄はエンキドゥから一旦距離を取りながら答える。
「そんなの……大事な友達の為だよ。友達を助けたかったんだ。……助けたかったんだ」
だが、助けたい感情に対して、皮肉にも莉雄が近寄るほど、その友人は消えて行った。
エンキドゥは言う。
「違う」
そして、自身の手に剣を一本作成し、そして一足のうちに莉雄の懐まで入り込み、自ら握った剣を正眼から振り下ろす。
莉雄は自身の両腕を金属化させ、交差させながらそれを受け止める。
「違うんだ」
その声色は刹那を感じさせない。
「君は、害虫を放置するタイプの存在かい? 見つけたら、潰さないと。早くに」
エンキドゥの背後から、先ほど宙を舞っていた剣が次々に莉雄へ迫る。莉雄は剣が自分に当たるであろう場所を次々に金属化させるが、うち一本は左わき腹へ刺さり、もう一本が右太ももに刺さる。
莉雄が痛みで呻く間も、エンキドゥは莉雄を抑えつける。
「目の前にいるなら、潰さないといけなくなるじゃないか」
莉雄は力負けし、膝が地面に着く。両肩が下がり、エンキドゥの持つ剣が肩まで迫る。
莉雄はエンキドゥに言う。
「悪いけど……ボクは、ボクが人間でも、スパルトイでもないなら……キミを殺すことだってしたくない」
「そうか。どうでも良いな」
「ボクには、キミはどうでもよくない!!」
莉雄はエンキドゥの剣をずらしながら、即座に自身の金属化を解除する。エンキドゥの持つ剣は莉雄の右肩を切り裂き、深く刺さる。その強い痛みに意識が飛びそうになるのを必死に莉雄はこらえた。
同時に、自身の能力を切り替え、黒い煙を自身の足元から発生させる。確か、この煙から、アリーサは刹那をかばうようにしていた。おそらく、これなら、ダメージを与えられるはず。
案の定、エンキドゥは自身が持っていた剣を手放して距離を取る。
莉雄は自分の肌が音をたてて焼けていく感覚の中、左手をエンキドゥへ向ける。その指先から放電が始まる。
直後、彼の指先から、轟音と共に閃光が放たれる。放たれた雷はエンキドゥの体を貫き、彼に膝をつかせる。
莉雄は自分の左腕の感覚がなくなったことに気付いたが、もはや後に引いている暇など無かった。雷などという代物を人間が放つのだから、むしろ今即死していないことの方が幸運だったかもしれない、などと、脳裏をかすめたが、それよりも、迷っている暇がないのだと、頭のどこかは冷めていた。
莉雄は、エンキドゥが置いて行った剣に触れる。
「素材は……」
莉雄は、あの体育祭の日を思い出していた。
あの暖かな、最後の日常の日を。
「素材は、チタン!」
実際のところ、剣がチタン製かどうかは分からなかった。普通に考えれば、鋼、つまり鉄の合金だろうと思ったが、もし、エンキドゥの中に刹那がまだ残っているなら……覚えているなら、もしかしたらと……その悲しい予想は的中していた。
剣は変形し、空中に液体金属の塊の様に集約する。
それをエンキドゥが体勢を立て直すより早く投げ飛ばす。
エンキドゥの肩をチタンの槍が貫き、ふらふらと二、三歩、彼はよろめいた。
「莉雄……」
そしてそのまま、エンキドゥは足を滑らせるように、崩れた世界の底へと落ちて行った。
莉雄は、自分の能力を治癒能力に戻す。しかし、体の治癒は思うようにいかない。目は霞み、寒さを感じる。冷たい死の感覚を感じるのは、これで何度目だろうか? 立ち上がる事すらできそうにない。
そこへ、影が自分の傍へ近づいてくるのを、莉雄は見た。
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