彼のルームメイト
「どうだった?」
ルームメイトは、部屋に自室に戻ってきた俺に間髪入れずに、ニヤケ顔で聞いた。
「一つ、お前に言いたい。……お前は最高のルームメイトだ!」
作戦は難なく、戦乙女の活躍で終わり、俺は彼女に無礼を詫びる形で会いに行った。あれはルームメイトが勝手にやったことだと。すると、彼女の方から俺に後で会いに行くと言ってくれた。
つまり、俺たちは顔見知りレベルになれたということだ。
ルームメイトは自分のことの様に喜んでくれた。俺は、自分より一回り小柄な彼の頭を強く撫でた。
「じゃあ、戦乙女がボクらの部屋に来る、と。……ベッド、布団の中もかたしておいた方が良いかもね。ボクのベッドの中に色々突っ込んどいていいからさ」
「え? 布団の中は別に良くないか?」
「ダメだと思うなあ、童貞くん」
「おい! やめろ、そういうのは……」
ルームメイトは謝りながら、彼の机の戸棚の中から、珈琲のドリップバッグを取り出してくる。
今の世の中、珈琲豆は貴重品だ。まず手に入らないだろう。
「珈琲は飲むと少し心拍が上がるんだってさ。それが恋の後押しになるんじゃないかなと思って、手に入れておいたから、彼女と飲むと良いよ。その間、ボクは席を外しておくから」
俺は彼に聞いた。
「それは? どこで手に入れたんだ?」
「ん? ちょっとね。非合法オークションで手に入れた人から、貰った」
「いや、だからどうしてだ?」
彼は答えない。俺の方も見ようとしない。何かあるのだろうか?
俺は彼の頭に触れようと手を伸ばす。記憶を読み取れば、事情が分かるかもしれない。
「ちなみに、無理にボクの記憶を読んだら、キミの指紋がついてる拳銃で、この部屋で自殺を図るから」
「どんな脅しだよ……解ったよ、やらないよ」
言いたくない事らしい。そうまでして自分の恋路を応援してくれるのは、嬉しいような申し訳ないような気持になる。
「今度……何かで埋め合わせする」
彼は俺の方へ向き直り、何食わぬ顔で言う。
「そう? じゃあ、“彼女”の紹介とかしてよ。戦乙女と人脈があるって、生活が安定しそうじゃない?」
「分かった。まぁ、彼女に出来るかは俺次第なんだけど……」
「はは、自信を持って、後悔しない程度にやらかせば大丈夫だよ」
「やらかしって……あのなぁ……」
もしや、珈琲の中に何か入ってるんじゃないだろうな?
という視線の動きを感じてか、ルームメイトは笑いながら言う。
「大丈夫だよ。珈琲になんか変なの入れたりはしてないよ。もしうまくいくなら、それはキミの実力と魅力次第じゃないかな」
ルームメイトが部屋を出る為にドアを開けると、外が騒がしいことに気付く。開け放たれたドアの向こうには、褐色の肌に華奢な体をした少女が立っている。
ルームメイトと入れ替わりで彼女は部屋に入って来た。
俺は、ルームメイトに恵まれていた。
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