第五話『少年はキミの夢を見るか』
会話碌5
薄暗い尋問室の中で、机の上の小さな灯りを挟んで、所長代理ヴィルヘルム・フランケンシュタインは、少女に問うた。
「そもそもの事を聞いても良いだろうか? なぜ、君はこの施設に来た。それは“君たち”の判断なのか?」
「んー? どういうこと?」
少女はパイプ椅子に座りながら、椅子の前足だけを持ち上げ、後ろ足だけ床に付けた状態で椅子を揺らしながら、ヴィルヘルムの質問の意図を聞く。
ヴィルヘルムは言う。
「ここは、“君たち”の研究を行い、“君たち”が人類に悪影響を与えないように防ぐことを目的に作られた組織の日本支部だ。ここには“君たち”に対抗する手段もある。かつて解析したハルモニアに関するデータ。そしてハルモニアの持つ知識や知恵を使って、“君たち”への対抗手段を我々は長年研究してきている。もしかしたら、君を倒す術もあるとは思わなかったのか?」
少女は微笑みながらそれを何食わぬ顔で聞き流しながら言う。
「あー、まぁ、そうだなぁ。君たち、
「身の危険は考えなかったと?」
少女はパイプ椅子の前足を下ろして、少し考えこんでから言う。
「そんなことよりさ、誠治くん、居ないって言ってたけど、どうしたの? どっか別の国の支部とかに出張中?」
露骨に話題を逸らしたのは、「身の危険など感じていない。人類が何年もかけて研究して用意した対抗手段はまるで無意味なほど脅威じゃない」と、あえて言わなかった少女の優しさであることをヴィルヘルムは察した。
ヴィルヘルムはため息交じりに少女の質問に答える。
「
「あ……そうだったんだ……それは、ごめんよ。ボクは人の心がよく分からないもんだから」
少女は言いなれた口調で、少し悪びれた口調で弁明する。
ヴィルヘルムはその言葉に思わず苦笑した。彼は少女に言う。
「そもそも、誠治所長が、ハルモニアと名乗る鉱石……いや、ケイ素生命体と邂逅したのが始まりだった。だが、今にして思えば、それもまた“君たち”の計画の内だったわけだ」
「そうさ。計算違いだったのは、キミたちがハルモニアを警戒して危惧したあまり、特定の人物以外の目の触れない場所に、ハルモニアを置いてしまったことだったけど……」
少女は椅子から勢いをつけて立ち上がる。
「なにより、彼の息子の
ヴィルヘルムは少女を見ずに、なにも無い机の上を見つめながら、心痛な面持ちで言う。
「だが、我々人類にとっては、この上なく、不運だった」
少女はヴィルヘルムの方へ向き直らず、後ろで手を組んで、微笑みなく言う。
「そうだね。刹那くんが居なければ、今回の事態は起きなかったよね」
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