第三話『猜疑はキミの夢を見るか』

会話碌3



 薄暗い尋問室の中で、机の上の小さな灯りを挟んで、研究員アブド・ファハッドに対して、少女は問うた。


「キミは、あの研究所所長代理のこと、どう思ってるんだい?」


 研究所所長こと、ヴィルヘルム・フランケンシュタインは、今は尋問室に居ない。少女への拘束は意味を持たないだろう、と、一人、珈琲休憩とは名ばかりの研究所内の見回りに出ていった。

 ファハッドは少女の質問にすぐには答えなかったが、少女がただただ見つめてくるのが居心地悪く、質問に気だるげに答え始める。


「ヴィルのことは上司としては嫌いじゃないな」

「友人としては微妙、とか?」


 ファハッドは特に何も考えずに、子供の質問に答えるように質問に答える。


「まぁ、どっちかっていうと、詰まらないタイプの硬い人だとは思うが。そこまでしょっちゅう交流があるわけでもない」

「んー、それって、生まれた国の違いとか、母国語の違いとか、生活文化の違いとかのせい?」


 ファハッドの表情が固まる。


「なんだ? オレを使って“今の人類が詰まらないかどうかの監査”をしてるのか? 監査官」


 少女は少し考えるようなしぐさをする。


「少しはそうかも」

「少し?」


 少女は足をばたばたさせながら、まるで同級生と話すかのような雰囲気で言う。


「気になってることが有ってさ。キミたち人類は、もしスパルトイの脅威が去ったら、次は誰と事を構えるんだろうなって……きっと、次は、能力の有無で……人間同士で殺し合うのかな、って思ったんだ」


 ファハッドは言葉に困った。

 少女が続ける。


「ファハッドくんは能力者じゃないでしょ? でも、ヴィルヘルムくんは能力者だ。だろ?」

「ああ、簡単に言って、植物の成長促進だな。施設に籠っていても食料に困らないってんなら、彼は必要な人材だろうな」


 少女は笑いながらファハッドの言葉に返した。


「そういうことじゃないよ」

「いや、そういうことだ……」


 対して、ファハッドは険しい顔で更に返した。

 少女はその様子をじっと見つめ、そしてまた言葉を選んで口にする。


「きっとね。今のこの、スパルトイに攻撃をされている状況が目的なんじゃないじゃないかな。“ボクらの一部”が考えたシナリオは……スパルトイとの戦いが終わった後がメインなんじゃないかな」

「悪趣味だな。まるで……“おまえたち”は人類のような悪趣味さだ」


 ファハッドのその言葉に、少女は困ったような笑みを浮かべながら言う。


「ボクもそう思うよ」



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