第一話『日常はキミの夢を見るか』
会話碌1
「人類は、なぜ人類になったのか……人類は、神様って何だと思ってるかい?」
薄暗い尋問室の中で、机の上の小さな灯りを挟んで、少女は所長代理ヴィルヘルム・フランケンシュタインに問うた。
彼女を拘束していた拘束具は、まるでシャツを脱ぐように苦も無く脱がれ、今では丈の短いホットパンツから延びる、真っ白で弾力のある彼女の太ももの上でひざ掛けなっている。
彼女は右腕で頬杖を突きながら答えを待つ。まるで友人と他愛ない話をするように頬杖を突きながら問う彼女に、ヴィヘルムは言葉を選びながら答える。
「その質問は、“君たち”が神であるという答えを引き出すための物かな?」
少女は肩を竦め、困ったような笑みを浮かべて言う。
「んー、そうだなぁ。例えば、ほら、人類最古の遺跡ってあるじゃない? 定期的に更新されてるけど……今一番新しいのはなんだっけ?」
その質問には、ヴィルヘルムと共に彼女を“尋問”している研究員、アブド・ファハッドが、ヴィルヘルムが言葉を選んでいる間に割って入り答えた。
「2018年現在に発見されている古代遺跡で最も古い人工物はトルコにあるギョベクリ・テペだな。それがなんだっていうんだ?」
「そう、それが今は最新の最古ということだね」
自身が口にした言葉を繰り返して口ずさみ、笑みをこぼして少女は続ける。
「ギザの大ピラミッドにしてもそう。あれらが人類だけで作れたと思うかい?」
ヴィルヘルムとファハッドはお互いに目線を合わせ、少女の問いの真意を掴もうとしていた。ファハッドが少しいらだった調子で切り出す。
「面倒だから直接聞いちまうが、それは、“あんたら”がしたい話なのか?」
「んん、待って待って。話って順序が大事。急いては、あー、なんだったかをなんとやら、って言うじゃない?」
この暗い尋問室で、彼女だけが余裕の表情を浮かべながら話をしている。それが異様であると、彼女以外の全員が認識している。
「世の中には超能力に目覚める人が居る。いや、正しくは居たんだ」
少女は頬杖を右手から左手に変えながら話す。
「サイコキネシスとかテレキネシスとかそれだけじゃなく、例えば、海を割ったり、雷を従えたり……あるいは、巨大建造物の建築を指揮したり……彼らはキミたちの中で注目を浴びたんだ。でも、それも遠い昔なんだよね。キミたち人類にとっては」
少女は二人の研究員に向き直り、冷たいパイプ椅子に深く腰を掛け直して続ける。
「ある一時から、キミたち人類の歴史に“ボクたち”は登場しなくなった。“ボクたち”は、キミたち人類を百年ほど放置してみることにしたんだ」
少女は苦笑しながら続ける。
「結果、超能力や霊能力とかそういうのは、オカルトだとか創作だとかトリックだとされた。というか、“そうした”んだけど……そして、ここからが本題なんだけど、その百年後、キミたち人類がいかに……あー、その……」
ここで少女は言葉に詰まった。二人の研究員は続きを待っている。少女は、困惑するように、恐る恐るその言葉を選んだ。
「あー……『面白くなるか』を知ろうとしたんだ。人類は希望を目指して動く、まるで……その羽虫? んー、の様で、“ボクたち”に教えてくれたんだ。娯楽を堪能するという……」
少女は流石に自身の言葉の反応を伺いながら、言葉を口にする。
「“感情”を。悪いように聞こえるだろうけれど、“ボクら”はみんな感謝しているんだよ、人類に」
薄暗い尋問室に少し剣呑な空気が流れるのを少女は感じたが、大きなため息をついて続ける。
「百年放置してみて、結果は上々だった。人類の科学力は素晴らしい発展を遂げた。……まぁ、多少は、“ボクたち”の中から取り決めたことを破って、キミたちに知識を与える“個体”も存在したんだけど。その“個体”は処罰されたし、でも一方で賞賛もされたんだ。あの“個体”の扱いにはそれはそれは揉めたんだよ。でもそれらは必要だったとボクは認める。だって、青かびの事を教えなかったらキミたち今頃……」
「ああ、すまないが、話を戻してくれると助かるんだが……」
ヴィルヘルムは少女の話を止め、彼女はその言葉に同意して話題を戻した。
話が脱線したことを詫びようとしたため、二人はそれを断って少女に本題の続きを話させた。
「もし、人類が百年後、詰まらなかったら……『面白くなかった』なら……人類をわざと、窮地に追い込むことにしたんだ。その結果、人類がほとんど死んでしまっても構わないと、そう判断していたんだよ」
尋問室に静寂が流れる。
ヴィルヘルムが重い空気を押しのけて口を開いた。
「なるほど。その百年後は……」
「うん。来年だよ。そして、人類はまさに……攻撃を受け始めている。ボクはそれを、伝えるために来たんだ。人類は、備えなければ……滅びる」
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