第6話 五つ目の不思議

トントントン シュッ トントントン


「ぎゃー!」


「ハナ? どうした?」

「うつった、うつったのよ!」


 あれあたし、いつの間に体育館に来たの?

 あれ、櫻庭くん、なんでここに?

 でも流されてなかったのね、良かった。

「ていうか、なんであたしをおいていくのよ!」

 沸々と怒りがこみ上げてくる。

「それに、どれだけ心配したかわかる?」

 もう怒りは最高潮。

「許せない!」

 目の前に、櫻庭くんの持ったバスケットボール。


「やめてくれ!」


 バシッという音で気がつくと、櫻庭くんが床で寝ている。トントンと弾むバスケットボール。やってしまった。

「櫻庭くん?」

 ゆさゆさと刺激を与えても反応がない。

 どうして動かないの?

 うそでしょ?

「そんな……」

 こんな時、あたしでも涙が出るんだ。涙で視界が滲んで何も見えない。

「痛めつけてごめんね、櫻庭くん、ふぇえ?」


「ハナ、痛いじゃないか!」

 ほっぺたひっぱらいない、伸びる伸びる!

「天使が舞い降りて来たかと思ったぞ」

 はい、ごめんなさい。


「ところで、さっき何か映ったって言ってなかった?」

 思い出した。トイレであたしは見たんだった。

「そうそう! トイレの鏡に映ったの!」

 思い出すだけで背筋が凍る。

「だから、何が映ったんだって」

「あたし」


「……」

「……」


「もう冗談はやめてくれよな。さて、そろそろ帰ろ」

「ちょ、ちょっとまってよ」

 先を行く櫻庭くんを追いかける。

 あたしは落ちていたバスケットボールを持ち上げ、櫻庭くんの方へ投げた。

 もちろん、今度は優しく。

「置いていくぞ」

 ボールを受け止めた櫻庭くんの笑顔に、あたしはドキッとした。


 外はもう雨が止んでいる。さっきまでの土砂降りが嘘のよう。

「ボール持って帰るの?」とあたしが聞くと、「忘れてた」ともう一度さっきの笑顔。

 持っていたボールをもう一度体育館の方へ放り投げた。


トントントン トントントントン


「やたら弾むね」

「スーパーボールなんじゃない?」

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