第4話 三つ目の不思議

タッタッタッタッ


「ね、ねぇ櫻庭くん。誰か走るような音聞こえない?」

 隣にいる櫻庭くんの学ランを引っ張っていた。

「ちょっと、引っ張るなよ。誰か外でランニングでもしてるんじゃね?」

 さすがに学校の外を走る音は聞こえないと思う。それに、七不思議の一つに廊下で足音が聞こえるというのがあったはず。

 ぶるっと身震いした。


 櫻庭くんを引っ張って、窓から外を見下ろす。誰か走っている様子はない。こんな時間に走っていたら絶対不審者だ。

「あれ?」

 校舎の端に石像らしきものが見える。

「二宮金次郎像だろ? もしかして知らないとか?」

 もちろん二宮金次郎は知っている。櫻庭くんほどあたしは世間知らずじゃない。

 働きながら勉強もする理想の姿だった気がする。でも本を読みながら歩くのは危ないよね、と思うあたしはひねくれているか。


「二宮金次郎はもちろん知ってるよ。そうじゃなくて、この学校にあったかなって」

 あたしが知らなかっただけなのか、見た記憶がない。

「あるに決まってるだろう。ほら、そこに」

 櫻庭くんが指さす方向には、ここから見ても二宮金次郎とわかる石像がある。

 そういえば、聞いた学校の七不思議にも二宮金次郎にまつわる話があったはず。

 でも女子達は「見たことない」とか「そんな名前だったんだ」って興味なさそうだった気がする。


「そっか、あたしの見間違いか」

 そう思うとホッとして緊張がほぐれた。

「それじゃ、次は三階に行こうか」


タッタッタッタッ


「ふぁあ!?」

 また足音? 一気に緊張が最高潮。

 そのとき、窓の外が光ったかと思うと、大きな雷鳴が響いた。そしてバケツをひっくり返したような土砂降りとなっていた。


「急に雷が鳴ってびっくりした、って櫻庭くん何してるの?」

 振り返れば、櫻庭くんが窓から離れたところで耳を押さえうずくまっている。これはもしかして、雷が怖いの?

「はっ、な、なんでもない。さ、次行こうか。ははは……」


 さっきの足音は何だったんだろ。雨の音だったのかな。櫻庭くんの足音のはずはないよね。ということは気のせいか。

 うん、納得。じゃ、次行きましょうか。

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