第3話 二つ目の不思議
「次は化学室へ行こう」
今度は櫻庭くんからの提案だった。「化学に興味があるの?」と聞くと、「化の字がお化けを呼びそうだから」だそうだ。意味がわからない。
ここにある実験に使う器具や標本など、今年になってリニューアルされたと聞いた。
でも化学の授業はもっぱら教室で、実験をしたことがない。ということは実験室にも来たことがない。最近の化学は受験のため座学がほとんどだそうだ。
化学室は、普通の教室二つ分ほどの広さ。その中に机や機材などがしまわれている棚などを見つけた。
残念ながら、あたしが期待していた人体模型はこの化学室の中にはなかった。
「人体模型やホルマリン漬けってないのかな」
ビーカーやアルコールランプ、いくつかの試薬がロッカーの中にあるのがわかる。
「隣の準備室じゃね?」
櫻庭くんが指さす方を見ると、小さな扉。準備室ならあって然り。ふふふ、頬が緩むのがわかる。もうあたしの期待は最高潮。
「じゃ、櫻庭くん見てきてね」
「何でだよ!」
目をまん丸くして、ちょっと怒ったような表情の櫻庭くんはちょっとかわいい。
「だってさ、櫻庭くんがあたしをここに誘ったんでしょ?」
あたしの言葉が功を奏して、櫻庭くんはブツブツ言いながらも準備室に消えていった。
そういえば、今日の化学の授業でわからない問題があったな。
もしかすると櫻庭くんは化学が得意かも知れない。帰ってきたら聞いてみよう。
わからなかった授業の問題を思い出しながら黒板に化学式を書いてみた。
「ハナ! いた!」
「ふぁあ!?」
櫻庭くんが急に飛び出して大声をあげたので、あたしはびっくりして尻餅をついてしまった。
「ハナ、いたよ、いた! 人体模型。ホルマリン漬けもあったぞ。どれも本物みたいだった」
そりゃ、どれも本物だろうよ。それよりもあたしを先に助けなさい。
「で、どうだったのよ。踊ってた?」
スカートを払いながら立ち上がり、興奮冷めない櫻庭くんを睨んでみた。昨日聞いた話によると、人体模型が踊っているらしい。
「そんな訳あるか。模型だぞ。動くはずがない」
自信満々の櫻庭くんに、あたしは心底がっかりした。
「ところで、櫻庭くんは化学得意? 授業でわからないところがあったの」
黒板を指すあたしの指先を見て、櫻庭くんは不敵の笑みを浮かべる。気持ち悪い。
「俺がわかるとでも思ってんの? 化学の授業なんて一回も出たことないし」
あたしは深いため息をついて、振り返ることなく化学室を後にした。
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