第2話 一つ目の不思議
「ところでさ、本当に今から学校に入るのかよ?」
櫻庭くんは明後日の方向を向きながらちょっと不安そう。
でもあたしは一度決めたことは必ず実行する。よって今から侵入します。
「もちろん! じゃね、櫻庭くん」
「おい、ちょ、ちょっと待てよ、俺も行くよ」
ちょっと焦ったような櫻庭くん。
「来てくれるの?」
ちょっとうれしい。
「お、俺だって……興味があったんだよ……多分」
櫻庭くん、かわいい!
あたしは櫻庭くんについて裏門から静かに校内へ入った。
あたしだって不安がないと言えば嘘になる。
それに櫻庭くんがこんな風に一緒に行ってくれるなんて思いもしなかったよ。
意外な一面が見れてちょっとドキドキとする。
櫻庭くんの横に並んで、昇降口へ向かって静かに進んだ。
「さて、まずはどこから行こうか」
昇降口は誘導灯の明かりで薄暗く照らされている。もう十分気味が悪い。ここまで来たことを早速後悔してしまう。
それでもあたしは気持ちを奮い立たせ、今日の七不思議の話を思い出す。
一番初めは音楽室の話だった。それに音楽室はちょうどこの上。
「それじゃ音楽室から行こうか。一番近いし」
「ねぇ櫻庭くん、先に入ってよ」
あれだけ興奮していたのに、音楽室の前に立ったら怖じ気づいてしまう。
あたしの恐怖はもう最高潮。
「やだね。ハナについてきただけだから、俺はここで待ってるよ」
この男、本当最低だね。何しについてきたのか。
「と、とにかく入るから、せめて一緒に入ってよ」
学ランの裾を引っ張ると、渋々付いてきてくれた。
「しつれーしま……ぎゃー!」
「お、おーい、ハナ~」
「ハナ、大丈夫か? 急に走り出して、俺の方がびっくりしたぞ」
顔を上げればそこに櫻庭くんがあたしを見下ろしている。
そりゃ逃げるでしょ。あんなの見たら。櫻庭くんは怖くないの?
「だって、絵の目がピカッて、あたしの方見て、ピカッて」
「あー、あれね。この前B組の男どもが蓄光塗料を塗ってたの、見たんだよね。ベートーベンの目の所に。でもせっかくだから、俺が全部の目に塗っておいた」
「ふぇえ?」
なんてことを。ということは、テレビで学校の怪談を知った男子がまねをしたのかも知れない。
真相を確かめるためもう一度、あたしは櫻庭くんを引っ張って音楽室へ入った。
やはり後ろに張ってある肖像画の目が全て黄緑色に光っている。何も知らずにこれを見たら、想像を絶するに違いない。
でも真相を知ってしまうと、ちょっとがっかりしたのも事実。
「もう、こんなことやめてよね。後ろの絵も、正面の絵も目だけ光って不気味だから。自分のやった所ぐらい元に戻しなよ」
「わかったよ。でも前の絵も塗ったかな」
あたしはもう一度「元に戻しな」と櫻庭くんの耳元で叫んだ。
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