第8話 金糸雀の涙
あまりにベッドが広いのか、手が届くところに誰かがいないと不安になってしまう。浅ましかろうが、ふしだらだろうが、一人の夜を過ごす恐怖に比べれば――しかし今、その快楽に慣れてしまいそうになる自分が、いやむしろそれどころではなく欲深くなりそうな自分が殊更に恐ろしく、全身を震わせるのだ。夢の中、甘く情熱的な口づけが、徐々にレディを狂わせるようだ。
ハッと目を開けた。揺れる頭は、恐ろしく思考力が弱かった。どうして自分が裸などという格好で寝ているのか、一瞬よくわからなかった。何度も瞬きをして、あくびをして、なんとか昨日の事を少しだけ思い出した。情けない脳の奥に金糸雀の甲高い声が響いた。ごめんね、飼い主が頼りないから、そんな悲しそうな声で鳴くのね。
朝の空気、金糸雀の鳴き声、――そして嗅ぎなれない燻すような香りと突き抜けるようなメンソールの香り。
レディは身体を起こして、朦朧とする意識と戦った。どうにも朝が弱くていけない。だがやがて鼻腔を刺激したそれが煙草の匂いだとわかって、ゆっくり覚醒しながら、煙を吸ったり吐いたりする青年を見遣った。
「……灰皿、あるわよ。探しておいたの」
斗真は既にそれを発見していたようで、ステンレススチール製の灰皿を膝の上においてベッドの縁に腰掛けながら煙草を吹かしていた。
「うん。よく見たら枕元にあった。色々探しすぎて朝方うっかりマリア像にまで触ろうとしちゃって、ごめんね」
「ううん。私もきつく言ってごめんなさい。驚いただけなの」
「わかってるよ、大丈夫。僕が無神経だったんだ、謝らないで」
俯くレディの頭を撫でる斗真の手付きは変わらず優しくて、昨日の弱々しさが嘘のように紳士的だった。
「体調はどう?」
「うん? 平気みたい」
レディは確かめるように深呼吸を繰り返した。それなりの量のアルコールを摂取したようには思うが、前回とは打って変わって気持ち悪さには程遠かった。斗真のエスコートが完璧だったのか、閨事のおかげでアルコールが汗と一緒に飛んだのか、いや――レディは考えるのをやめた。
軽く服を着たレディはふわふわした心地のままキッチンに向かい、毎日の恒例となっている朝の紅茶の準備に取り掛かる。斗真も灰皿を持参してキッチンに入ってきた。換気扇をつけると、今度はその下で吸い始める。今まではかなり遠慮していたのかも知れない。斗真はどうやらある程度ヘビースモーカーらしい。
斗真は腰をコンロ横のシンク台に預けると、おどけた様子で、寝ぼけ眼のレディに密かな疑問を投げかける。
「ね、僕のために灰皿探してくれたの?」
「まあ。わたしは吸わないからね」
寝起きのレディは、いつもの五割増しで素直だ。きちんと覚醒してたら、"斗真のためだ"とわかるような言葉は使わないだろう。今なら本音も聞けるかも、と斗真は次の問いを繰り出す。
「また家に上げる気があったってこと?」
「んー、また来る気がした。合鍵あるし」
「なるほどね。はは、確かに来ちゃった。レディを酔わせて、弱みに付け込んで――」
「その言い方だと斗真が悪いみたいね」
レディはどれだけ酔っても記憶を失うことはない。紳士的に去ろうとする斗真を招き入れたのは、酔った勢いとは言え紛れもなく自分だったし、何度も最後までして欲しいとせがんでいたのも自分だ。それでも彼は最後の一線だけは決して超えなかった。
それは一体いつになるんだろう、まさか本当に初夜まで待つつもりだろうか。レディは斗真と結婚する気なんてないのに。
「ふわぁ」
レディは、大きなあくびを一つついた。目尻に涙が溜まって、ひどく視界不良になっているのに、手は沸騰したケトルのお湯を、透明なティーポットに注ぎ入れるところだった。
流石にその様子が心配になった斗真は、煙草の火を灰皿で消して、レディへと歩み寄った。
「レディ、眠い?」
「ねむい……」
「手元危ないよ。僕が淹れようか?」
心配げに斗真はレディの後ろから手を伸ばすが、レディは存外慣れた手付きでポットの中をお湯で満たし、蓋を閉めると、隣に置いた砂時計をひっくり返した。
「ううん……あれ、でも、飲んでくの?」
すっかりいつもの癖で二人分を抽出しようとしていたレディは、慌てて首を斗真に向けた。斗真はいつの間にかシャワーも浴びていたようでお酒の匂いどころか香水の匂いすら香ってくるほど朝の支度が整っていた。もういつでも彼は出かけられるだろう。すぐに帰るかも知れないことを失念していた。
「いや、ごめん。頂きたいし、また朝食でもご馳走したかったんだけど、僕あんまりゆっくりは出来なくて」
「しごと?」
「うん、いや、まあ、仕事とは言えないかな。でも公的な手続きがあるから。行政サービス、土曜は午前中しか開いてないんだって」
「なんか難しい」
「お祖父さんが亡くなった時、遺産相続とか死亡手続きとかレディもやったでしょ」
その言葉にレディは脳の後ろを掴まれたような感覚を抱いた。急に背筋が冷え、意識が現実へと沈着していった。そして祖父が亡くなってからの慌ただしい時間を思い出して、一人苦虫を噛み潰したような顔を作った。
斗真はそんなレディを後ろから抱きしめて、寂しさを紛らわすことができるよう努める。
「一人でよく、頑張ったね」
「……しょうがないよ。一人なものは一人なの。紅茶はあと待つだけだから大丈夫よ。夜の仕事まで時間あるし、食事も適当に摂るから」
そうはいったものの、レディはほとんど食べる気はなかった。斗真と最初の一夜を過ごしてから数日、冷蔵庫の食べ物はつきていたし、まだ現金収入もなかった。斗真から渡された現金は、やはり手を付ける気にはなれず、祖父の預金通帳などと一緒に入れたままだ。
「夜の仕事なんてやめて、僕の支援を受け入れて」
斗真はレディを抱きしめたまま、優しく優しく語りかける。悪魔の囁きのごとくだ。
レディにとって、斗真の援助の申し出は喉から手が出るほど欲しいものだ。だがただより高いものはない。援助を受け入れたあと求められるであろう対価を、レディは払える気がしない。彼が経済的な援助の対価にレディの愛を求めていることは、言葉でどう取り繕うが明らかなのだ。無償の献身なんて世の中には存在しない。
「前ほど斗真に不信感があるわけじゃないけど、やっぱりダメ」
「どうして?」
耳元で囁くように問うてくる斗真の声は甘ったるくて、何度も快楽を貪ったレディには酷く官能的だった。懸命に首を振って絆されまい、と理性を働かせる。
「斗真が良くしてくれる理由が、恋愛感情だからよ。まともな見返りもあげられないのに、厚意にあぐらなんてかけない」
「もう十分見返りもらってない? 何度も僕の腕の中で喘いでくれた。すごく可愛かったよ、大満足」
「下品ね」
レディは呆れて笑ってから、じっと砂時計を見つめた。早く砂時計が落ちきればいいのに。
後ろからレディの身体を抱きしめてくる斗真には今、優しさはあっても欲望はない。とても振り払う気にはなれず、かといってこんな状態がずっと続いていたのでは心臓が持たない気がした。目が冴えてきて体温が冷えていけばいくほど、斗真の力強い腕から伝わる温度に大脳皮質が溶けそうになる。
「レディに僕を好きになるって選択肢は、少しもないんだね。援助の見返りに愛の言葉を吐くだけの簡単なお仕事だとは思わないの?」
「今更それ聞く? っていうかそんなお金目的で好きとか言われて、斗真は嬉しいの?」
こんな会話を交わしながら、身体は密着しているのだから、始末が悪い。最低な倫理観だわ、とレディは自分を嘲った。
「嬉しくはないけど。都合のいい嘘は嫌いじゃないよ、人間らしいからね。レディは嘘が嫌い?」
レディから斗真の表情は見えなかったが、声がどこか物悲しかった。彼の周りの女性――乱れているという――はやはり彼の財力も目的のひとつなのだろうか。そんなものがなくたって、彼はじゅうぶん魅力的な男性だと思うのに――とレディは斗真に同情しかけて首を振った。
「嘘は、大切な人のためにつくって決めてるの。大切な人は人生に一人でいい」
「君の嘘に守られる人が羨ましいよ。でももう少し利己的に、自分のためにつく嘘を覚えたほうがいい。女の子はね、少し狡いくらいでちょうどいいと思うよ」
斗真の言葉にレディは奥歯をギッと強く噛んだ。"女の子は"だなんて、たくさんの女性を見てきたかのように言う斗真に軽い苛立ちのようなものを覚えた。――一緒にしないでよ、私はあなたの持ってるものに目が眩んで、媚びを売るような女じゃないわ――と声を荒げかけて、はっと我に返った。厚意をただで受け取るのが怖くて、悪い女になろうと彼をベッドに誘ったのは紛れもない自分だ。
「そうね。私は狡くなりきれない子供。斗真にとってはよくある話だから、私が都合のいい嘘をついたって気にならないんでしょうね」
「そういうつもりじゃなかったんだけど、失礼なことを言った? ごめんね……あ」
斗真のスマートフォンが鳴った。電話だ、とレディは察しがついた。使っているスマートフォンが全く同じ機種なので着信音も同じだった。
「電話に出ていい?」
「どうぞ」
レディが答えると斗真がやっとレディから離れた。スマートフォンを片手に少し距離をとって、通話ボタンをタップする。レディは、斗真が離れている間に、疾くなった心臓の動きをどうにかしようと深呼吸を繰り返す。
「うん。……そう、わかった。ありがとう。車はもう家の前に回してくれた? ……流石、助かるよ。じゃあすぐいく」
斗真は耳からスマートフォンを離すと、赤いボタンをタップした。そのままジーンズのポケットに流れるような仕草で仕舞う。
「佐々木さん?」
会話の内容から、レディがなんとなく電話の相手を推察すると、斗真は頷きながら力なく笑った。そしてダイニングテーブルに掛けたままの上着を手に取る。
「タイムアップみたい」
「そう、外まで送るわ」
レディは紅茶をじっと見つめた。今はまだ早い、けど斗真のお見送りをしていたらとんでもなく濃い紅茶になりそうだ。仕方ない、と息を吐いて厚手のカーディガンを羽織った。玄関外なら少し薄着でも問題はないだろう。
「残念だな。もう少しレディを口説きたかったんだけど」
「結果は同じよ」
レディは引きつった笑顔を作りながら投げやりに答えた。
嫌味なほどに澄んだ空。雲ひとつない快晴。いい天気だから後で洗濯しよう――レディがこのあとの一日を組み立てていると、甘い香りを身に纏った斗真が家を出たあたりで振り返った。
そして手首の高そうな時計を見て、斗真は目を細めた。時間を気にしているようだった。行政サービスは閉まるのが早いからだろうか、色々準備もあるのかも知れない。
レディが余計なことまで推し量っていると、斗真はニコリと笑ってレディの手を優しく握った。
「お見送りありがとう。また会いに来るね」
「なんか店の時よりホステスな気分」
手を握られているからだろうか、それともさっき明確に恋愛感情を拒絶したばかりだからだろうか。あるいは両方だろうか。
「まあ昨日は、アフターの予定だったから送り出しも形だけだったしね。――レディ」
斗真の口が艶かしく動いてレディの名前を甘く呼んだ。舌が一瞬上唇を舐めたのを見て、レディははっきり見るのが照れくさくなった。また、火照ってしまいそうになる。思い出してしまいそうになる。ダメなのに、欲望という名の悪魔がレディに甘く甘く囁きかける。今――彼の胸に縋って、帰れないでと駄々をこねたなら――いや、ダメだ。ゆっくりできないんだと言われたじゃないか。レディは斗真から視線をそらして少し遠くを見た。
「あっ! 私昨日佐々木さんに挨拶しないままだった――車の窓から見える」
レディは誤魔化すように佐々木に柔らかく手を振った。きちんと挨拶をしていなかったのは事実だが、それはある意味お互い様なのに、斗真の方を見ているのが辛かった。佐々木はレディの様子に気づくと助手席側の窓を開けて軽く手を振り返してくれた。
「こら、佐々木はいいの、付き添いだから。メインは僕なんだから僕を見てちゃんと挨拶して」
「…….ごめん」
斗真の言うとおりである。
気まずさに耐えきれず、レディは素直に謝罪を述べた。斗真は少し子供っぽく不機嫌を作ったが、すぐに吹き出して優しく微笑んだ。
レディは咳払いを一つついて、握られたままの手をやんわり翻して顔の横に掲げた。
「来てくれてありがとう、斗真」
「さようならのキスは?」
「強欲」
「えー。愛がないなぁ」
あるわけないじゃない、と言いたくなったのをレディは喉でこらえた。もう少しで音が舌に載ってしまうんじゃないかというくらい自然に出かかって、いくらなんでもお見送りまで可愛げがないのはどうだろうと自分を戒めていた。
「……ほっぺならいいよ。かがんで」
「背伸びしてよ」
「しても届かないわよ」
ヒールを履いているときならともかく、つっかけに近いようなぺったんこのサンダルを履いているレディと斗真の身長差は歴然だ。斗真の肩より下にレディの頭があるという具合で、とても背伸びでは届かない。
まんまるに頬を膨らませて不満げなレディに、少しばかり屈んで頬を差し出した斗真は、小ぶりだがぷっくり膨れた唇の感触を待った。
レディは呼吸を整えると、陶器のように整った斗真の白い頬に唇を寄せた。キスなんて何度もしているような気もするが、改めて斗真の肌のきめ細やかさが女性の自分より優っているような気さえして、心臓の音がうるさくなるのを自分で感じていた。
別れの挨拶を終え、斗真が車に乗り込もうとしているのをレディがぼんやり眺めていると、斗真は最後に少しだけ振り返って意味深に笑った。
「ああ、今晩もお店に行くと思うから、よろしくね」
「えっ……」
どういうことよ、とレディが問い詰めようと二歩ほど足を進めても、斗真を乗せた車はそのまま発進してしまった。言葉をかわすことなく去っていってしまう。
レディは酷い疲労感に襲われていた。振り回しているつもりが振り回されている。すっかり、斗真のペースだ。これはよくない。
◆
――それは十歳になる少し前のことだった。
レディは少し緊張していたことを覚えている。なにせ何度もこの地域には来たのに、一度だって祖父に会ったことがなかったからだ。
小さい頃は、どうして祖父がいないのかいまいちよくわからなかったが、両親の葬儀を終えて大人たちにいろいろ言われたことで、なんとなく理解が出来た。
祖父が母の結婚を認めてなかったこと。母は反対を強引に押し切って結婚したこと。そして生まれた子供に――いいや、これは想像でしかないか。
とにかく祖父はレディたちに顔を合わせたくなかったのだ。だから何度帰省してもうまいこと隠れて絶対会わないように努めてきた。
実際両親の葬儀にすら祖父は来なかった。喪主は父方の祖父が執り行ってくれた。本当はもう縁が切れているのに、最後の情けだと言っていた。
レディはピンクのキャリーを引きずりながら、住宅街を歩いた。桜の綺麗な緑地公園は、まだその花が蕾だ。けれどたっぷり膨らんで、今にも溢れてしまいそう。
「家、小さくなった」
祖母を亡くした祖父が引っ越したことは知っていたが訪れたのは初めてだ。表札をみて間違いないことを確認する。
珍しい名字なので、これで別人ということはないだろう。
平屋の戸建てだが周りにも同じような形の平屋が立ち並んでいるので貸家なのかもしれない。
レディは深呼吸で気息を整えると、意を決してインターホンを押した。
すると、インターホンが鳴り終わる前に、ノイズ音が入った。
『上がりなさい。鍵は開いてる』
それだけ言うとインターホンはブツッと切れてしまった。レディが言葉を発する暇もなく、あっという間の出来事だった。
扉を開けると、木の匂いと一緒に"他人の家の匂い"が鼻をくすぐった。
始めてくるのだから当たり前かもしれないが、自分がよそ者なのだというのを認識させられるには十分だった。
玄関にはさほどのスペースもなく、小さなメンズのブリティッシュブーツがぽつんと一つ置かれているだけだった。
レディは自分の靴を丁寧にその隣に並べて家に上がった。ふと壁を見ると、宗教画と思しきものが並んでいた。
その時は呼び方がわからなかったが、所謂イコンというものだ。
あまりの美しさに呆気にとられていると、廊下の安っぽい木材がギシ、と音を立てた。レディは慌ててイコンから視線を外して、音のした方を見た。
レディの視線の先には杖をついた大柄な男性の姿があった。腰は曲がっているものの体躯の良さは隠しきれない。
深く刻まれた皺、けれど整った顔立ち。整えられた白髪交じりの髪。きちんと髭を剃られた顎。老いていても隠しきれない上品さが彼からは滲み出ていた。
「……あなたが、私の……」
「君は、私の孫娘かね?」
問われるまでもなくそうなのだが、初めて会ったからだろうか、老人はそう質問してきた。
レディが戸惑いつつも肯定の返事をしようとすると、言葉を発するより先に、老人の端正な目から涙がこぼれた。
レディは焦った。なにか泣かせるようなことをしてしまっただろうか。ゆっくり老人に近づいていくと、彼の瞳が緑がかっているのがわかった。霞んで、焦点があってないようにも見える。
「あの」
「私にはもう、見えないんだ……」
老人は沈鬱な声で"見えない"と何度も連呼した。
レディは息を呑んだ。――見えない、見えないって、一体どのくらい見えないの?
幼い頭で懸命に考えた。けれどどれほど考えても答えは出ないので、訊ねるしかなかった。
「なにも? です、か」
「光の有無はわかる……」
老人が懸命に手を伸ばすので、レディはその手に触れた。レディの存在を捉えた老人はそのままペタペタと確かめるようにレディの顔や肩を触る。
「君は、君はあの子に似ているのかい? どのくらい似ているんだい? 意地を張り続けた私を、あの子は恨んでいたかい?」
「……私は……」
「君はきっと、あの子に似て美しいんだろうなぁ。きっと、美しいんだろうなぁ」
レディには答える言葉がなかった。もう死んでしまった人の心を嘯かずに語る術は持ち合わせていなかった。
レディにできるのは、老人に寄り添って、同じように泣くことだけだった。
遠くから金糸雀の鳴き声が聞こえた。――嗚呼、あなたも寂しそうに泣くのね。
――金糸雀の囀り。ぬくもりのない広いベッド。レディはゆっくりと自分の意識が戻ってくるのを感じていた。
夢は実際にあった過去を投影していた。忘れるな、とでも言いたげに。
レディは瞼をゆっくり持ち上げて、金糸雀を見つめた。洗濯機が終わるまでの間、暇だから寝てしまっていたようだ。
「番、ほしいよね」
金糸雀はチュ、チュと愛らしくレディに媚びる。レディは金糸雀に微笑みを向けてから、窓の向こうの太陽を睨んだ。――神はずっと見ている。
「このままじゃ、良くないことはわかってる……」
悪魔はレディにこれでもかと微笑んで、最後の一線を超える瞬間を伺っている。
レディは自分の膝を抱えて蹲った。忘れない、忘れてなるものか。
――だってずっと、これだけを生きがいに、生きてきたんだから。
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