第3話 お金持ちなんだ

 やっぱ俺がおかしいんかな…。


「へ~、蓉さんお金持ちなんだ~。」

「ええ、日本でもトップですのよ。」

「じゃあ、家とかもすっごいおっきいいんでしょ?」

「あら、皆さん一度は目にした事あると思いますが。あの、新宿にある…」

「えっ! あの大豪邸の! マジですかっ!」


なんかやたら懐いた。なんてコミュ力してやがる。ってか待てよ、明城ってなんか聞いた事あるなと思ったがまさか…


「まさか明城って明城グループのか?」


100兆って嘘じゃなかったのか…。


明城グループが農業から医療まで幅広い事業で成功してきた事は、一般教養としては基本中の基本だ。親父も傘下の大手食品会社で課長をやっている。ホワイトを前面に押し出して、給料も悪くないので、親父がたびたびいいとこに勤められて良かったと言っていた事を思い出した。


「ええ、そうですが。」

「ええ、じゃねーよ…。下手すれば俺たち消されそうだな…?」

「ご心配なく。故意による過失でなければ、一切の責任は負いませんから。それに、そういった事は私も本望ではありませんし。変に気を遣わなくても結構ですのよ。」

「本当だろうな…。」


まったくこちらの身にもなって欲しいものだ。いきなり令嬢が押しかけて生活するってんだから、こっちは気が気じゃないってのに。

ってか俺も割と自然に話してんな。なぜかは知らんが、あいつと話してると少し警戒心が和らぐんだよな。よくわからん奴だが、信用はできるかな。


時刻は10時過ぎ。

「そろそろ行くわ。」

「えっ、早くない? まだ10時だよ。」

「本屋に寄ってからバイト行くんだよ。」

「昼飯は?」

「フライパンに焼きそば作ってあるから食っとけ。」

「了解。」

「出るんだったら蓉も連れてけよ。鍵持ってないんだから。」

「今日は引きこもりデーだから関係ないもんね~。あっ、お菓子は?」

「確かもうなかった…、」

「ええ~、せっかく一人パーティしようと思ったのに…。」

「んなことしてっから菓子だけ超スピードで減ってくんだろうが。これで適当に買ってこい。」


ダイニングテーブルに千円札置く。


「お、やったぁ。兄さんマジ神。」

「あんま嬉しくねぇ褒められ方だな。蓉と分けて使えよ。」

「いえ、私の分は自分で出しますわ。」

「分け合って買うのも体験の一つだろ。いいから受け取っとけ。あと妹がせがんでも一銭も出すんじゃねぇぞ。人の金に頼る人間にさせたくねぇからな。」


少し驚いた顔をして、ふふふと笑いながら言った。


「随分妹思いなのですね。」

「人間として当然のことだろうよ。」

「兄さんいっつも口うるさいんだから。言われなくてもやるって。」

「だったらちっとはまともな人間になれ。」

「へいへい。」

「じゃ、7時頃には帰るから。」

「バイト頑張ってくださいね。」

「ああ。妹の世話を頼んだ。」


見送りされたのはいつぶりだろうか。蓉に母の影が重なって見えた。

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水平線とその向こう 新城ニト @sinjo

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