第17話 アリッサの企み
「きゃあああああああ!」
地下の牢屋にアリッサの叫びが響き渡った。
「ゴ、ゴーリさん! それ、ゴキ……」
「ブリトニーじゃ。はるか南方の地に住まう神々の時代から生きておる使い魔なのじゃ」
アリッサは、俺様オークの後ろに隠れた。
「近場の地図を作るときには、このブリトニーたちを捜索に行かせて地形を調べさせるのだ。その習性を利用してメガネっ娘エルフも見つけてこさせよう」
壺に大きさに合わないほど大量にいたブリトニーたちは、城内に散らばっていた。
「これで、放っておいてもブリトニーたちがメガネっ娘エルフを見つけてくる」
別の意味でエライのことが心配になったアリッサだった。
「で、魔女っ子よ。メガネっ娘エルフを見つけたら後、どうする? 皆で逃げ出すか?」
「この城を止めようと思います」
「晩餐での話では、この城は、あの黒衣の貴婦人が魔術で動かしている代物だろ? 魔術のことはあまり詳しくないが、それができる黒衣の貴婦人は、相当な魔術師だであろうに。こう言ってはなんだが、お前さんにそれを上回る魔術など使えるのか?」
「わたしは、あのひとより魔術の技術は劣ります。でも、あのひとを止めることができるのは、わたしだけっで気がするんです!」
「なんじゃ、思い込みか」
「ちょ、ちょっと! ゴーリさん。黒衣の貴婦人は、別の時間のわたしなんですよ!」
「はいはい、栄養のあるものを食べて、身体を暖かくして寝るんじゃぞ」
「別に風邪ひいて熱を出してるわけじゃないですって!」
しかしゴーリは、ほぼ話を聞いていない。
「と、とにかく作戦があるんですよ。オークさん、ゴミの集積場はどこですか?」
「ゴミ集積場?」
「はい、ダストシュートの行き着く先の……」
「●キブリを飼うドワーフにゴミ集積好き魔術女子……変態ばっかだな」
「違いますよ! 別にゴミ集積場が好きなわけじゃないですって!」
抗議するも俺様オークは疑いの目でアリッサを見ている。命を救ってやったというのにもう、外の世界からやってきた変な奴らとしたみていないようだ。
「と、とにかくこの城のゴミ集積場に行きたいんです」
「魔女っ子。なぜゴミ置き場などに行きたがる? オークの言う通り変態か? それとも何かのフェチか?」
「変態でもフェチでもありませんって! 作戦があるんですよ。とにかくゴミ集積場に連れて行ってください!」
俺様オークに案内されてアリッサたちはゴミ集積場に出入りできるメンテナンス用の出入り口もにやってきた。頑丈そうな鉄の扉を開けると内部はガラクタの山がいくつも並んでいた。
「すごい量だのう」
「ほとんどが城の中に置いてある人形やら本やらだ。昔から置いておいてあった物を片っ端から放り込んでるんだ。でも、数が多くてな。片付けはいまだに終わらない」
アリッサは、壁に取り付けてあるハシゴで下に降りた。
「どこへ行く気だ」
ゴーリと俺様オークもアリッサを追いかけてハシゴを降りていった。
「このガラクタは、わたしが今まで観できたアニメやマンガのフィギュアやグッズなんです。実際に持っているものと、欲しいと思っていただけのものとか……とにかくわたしの好きなモノばかりなんです」
「黒衣の貴婦人が同じもを持っていて、いらなくなって捨てたということか?」
「だから、黒衣の貴婦人は、別の時間のわたしなんですよ。だから同じ物も持っていて当然なんですって」
ゴーリは、アリッサの話を聞き流しながら、ガラクタの中からアニメのフィギュアを拾った。
「どうでもいいわい。つまり、おまえ、こういうの好きなんか」
「え? まあ……」
「ヲタクというやつだな。やれやれ」
「いいじゃないですか。ゴーリさんだってわたしの好きなアニメをみれば、きっとこの素晴らしさがわかりますよ! オススメのラノベだって読めばきっと……」
「愚か者め! わしはこんな事に時間も金も使いたくなどないわ!」
ビシッとアリッサを指差すゴーリの言葉に反論できずにいるアリッサだった。
「ったく、こんなんのどこが……ん?」
ゴーリは、ガラクタの中に埋もれた別のフィギュアに目を止めた。
「こ、これは……器用な戦士Gダムではないか!」
「はぁ?」
微妙なパチもん感をかもし出しつつもゴーリはエキサイトしてフィギュアを掲げた。
「ゴーリさん、それは、機動戦士ガン……」
「ばかもん! これはドワーフ界では、有名な伝説の戦士じゃ。伝説によるとかつてこの世は、乱暴な軍と独立を求めて戦う新聞公国軍が一年間戦争していたという……その時、活躍したのがこの器用な戦士Gダムなのじゃ! Gダムはいろいろ先読みしたりする器用な戦士で,いろいろ三倍の赤い強敵と戦いで仲間と共に成長していくのじゃ!」
「すべて微妙に変換されている気がする……」
「何を言っとる! これは、わしらドワーフが幼きころから聞かされた話じゃぞ」
その巨大化したGダムの横を同じく巨大化したヌイグルミがゆっくりと立ち上がっていく。
「おお、あれは、ドワーフの民話に伝わる森の守り神"怒りのドトロ"ではないか!」
「いや、あれはジブリの……」
「五月に姪っ子と田舎にやって来た主人公が森で迷子になったのをドトロに助けられるんじゃ。そして田舎の病院で不倫中の母親に会いに行くという話なのじゃ!」
「これもいろいろ変換されている。しかも最後の方は子供に見せれなそうな感じです……」
Gダムと呼ぶフィギュアや怒りのドトロを見つけて狂喜乱舞するゴーリの横に小さな黒い昆虫が近づいてきた。
「おっ、ブリトニー498号が戻ってきたな」
「ば、番号つけてるんですか! しかも見分けがつく?」
「メガネっ娘エルフの居場所を突き止めてきたと言っとるぞ。どうする? 魔女っ子」
「ここで騒ぎを起こして城の中の見張りをひきつけます。その間にエライさんを助け出そうと思います」
「騒ぎを起こすといってもこの城にいる全員は引きつけられんって」
「そうですね。もしかしたら逃げ出すかもせれませんけど」
アリッサは、ガラクタの中からアニメキャラのフィギュアを拾い上げる。
「わたしのここにある全部に魔術を使うんです」
「魔術じゃと? あ! もしかしてあれか? 森で倒れた大木を動かしたあれ」
アリッサは、うなずくと呪文を唱え始めた。
「バイター・サイン・ホマイン・インミー・インテンティオ……」
その呪文を唱え始めると同時にガラクタの山がザワザワとしだす。
「何事だ?」
俺様オークが変化していく周りの様子に動揺する。
「コモデア・バイターミー・ディシプリナム……」
呪文を続けると捨てられているフィギュアや本が次々と動き出していた。
「すごいものだな。だがな、魔女っ子。いく動くとはいえ、こんなもの身体の大きなオークたちに簡単に踏み潰されてしまうぞ」
「このままでは確かにそうですけど、こっちにはこういうものがあります」
アリッサは、ポラリスからもらった赤い小瓶を取りだした。小さくなっていたアリッサを元に戻した魔法の薬だ。
動いているフィギュアの頭に一滴垂らすとすぐそばから離れて呪文を唱えた。
「オーダイト・ディシプリナム・ミーム……」
魔法の薬をかけらたフィギュアはみるみるうちに巨大化していく。
「こんなのが暴れたら注意をひくどころか、みんな逃げ出すでしょうね。イヒヒ」
アリッサは、そう言ってニンマリした。
「すごいぞ、魔女っ子。おまえ実はすごい魔術師だったのだな」
さすがにゴーリも驚く。
「やっとわかってくれましたか。さあ、次いきますよ!」
アリッサは、他のフィギュアにも赤い薬をふりかけ、魔術を掛け始めた。
次々と巨大化していくフィギュアは、ゴミ集積場の壁を突き壊して外へ出ていく。その壁の穴から命を与えられた大量のマンガ本や、キャラグッズたちが飛び出していく。
「さあ、ゴーリさん。エライさんを助けに……ゴーリさん?」
見るとゴーリは巨大化したGダムのコクピットに乗り込もうとしていた。
「何してるんですかーっ!」
「メガネっ娘エルフの救出は、お前だけで行け! わしは、敵をひきつける!」
コクピットになんとか乗り込んだゴーリは、目を輝かせて操縦桿を握った。
「そんなこと言って、それに乗りたいだけでしょー!?」
ゴーリはが何かを描いた紙をアリッサの足元に放り投げた。
拾い上げると紙には簡単な見取り図が描かれていた。
「それは、ブリトニーたちからの情報を元にして描いたメガネっ娘エルフのいる場所への地図じゃ。それで助けに行けるじゃろー!」
地図には☓印が描かれた場所がある。おそらくエライがいる場所であろう。
「わしは、Gダムでいく!」
ああ、それが言いたかったのだな……アリッサは思った。
ゴーリの乗るGダムは、壁を壊して出ていってしまった。
残されたアリッサはゴーリにもらった地図を覗き込む。
「行くしかないか」
アリッサは、覚悟を決めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます