第5話 道での遭遇
ヘルメットを取ったその顔を見てアリッサは驚いた。
なぜならそれはエルフの喫茶店アルフヘイムで会ったエルフのポラリスだったからだ。
「あーっ!」
「どうしたの? 人間さん」
「ポ、ポラリスさんじゃないですか! いつのまにドワーフ市場に?」
「キミ、ポラリスを知ってるんだ?」
「え?」
「ポラリスは、ボクの姉さんなんだ。ボクは、妹だよ」
ポラリスさんの妹? そしてボクっ娘?
ズキューン!
アリッサは胸を何かに撃ち抜かれた気がした。
「ボクの名前は……おっと、エルフの発音は、難しいから他の種族の人には言いにくいんだった」
そう言いながらポラリスの妹を名乗るエルフは、メガネをかけた。
さらにメガネっ娘だって??
ズキューン!
アリッサはもう一発、胸を何かに撃ち抜かれた気がした。
「じ、ジロー、やばい。なんかどストライクだ」
ジローは、やれやれというふうに首を振った。
「鼻血出すなよ、アリッサ」
メガネをかけているのと髪を後ろに束ねている以外は、ポラリスにそっくりだ。
日本のアニメや漫画にどっぷり浸かっていたアリッサには夢のような出会いであった。
「人間の言葉の意味だとエライだ。"羊飼い"って意味らしいけど、ボクは羊を飼ったことはない」
そう言って名前の説明をした後。ポラリスの妹エライは、握手のための手を差し出した。
「私は、アリッサです。あらためてはじめまして、エライさん」
二人は握手を交わした。
「ところで、これ、バイク型の魔法のホウキなんでしょ? たしかレアなやつだ。キミは、魔女なのか?」
エライは、ナイトウォーカーの方を見るとそう言った。
「魔女というか……私、魔術師なんです」
アリッサは、自分より背の高いエライを見上げた。ぴっちりのライダーズスーツで上からパイロットジャケットを羽織っている。厚いジャケットを着ていてもスタイルも良いのがわかった。
アリッサは、その容姿に思わず見とれてしまう。
「どうしたの?」
視線に気がついたエライがそう言うとアリッサは、慌てて目をそらした。耳たぶは、もう真っ赤だ。
「あっ……あの、これは近所の魔法使いのおばちゃんが、もう乗らないからってくれた古いやつなんです」
「これ、ナイトウォーカーってシリーズでしょ?」
「知っているんですか?」
「マニアの間では人気だからね。うん、いいデザインだ。リアシートに無理やり取り付けている荷台なんて斬新だ」
「それは、魔法使いのおばちゃんが、買い物に便利だからって付けたみたいです。それを私の使い魔を乗せるように少し改造しました」
「使い魔?」
アリッサは、ゴミ袋の山から這い出ようとしているジローを指さした。
「ツノつきウサギか……初めて見たよ。かわいいんだね」
「そんなこと聞いたらアイツ、つけあがっちゃいます」
「ジャッカ・ロープも珍しいけど、キミの愛車もすごく珍しい。ボク、こういった独自性のあるカスタムって好きなんだよね」
エライは、そう言うとゴミ袋の山の中に埋まるナイトウォーカーのハンドルを掴みと引っ張り出してくれた。
「すみません! あ、ありがとうございます!」
慌てて礼を言うアリッサ。
「うーん、ハンドル、曲がっちゃったみたいだね」
エライは、ゴミ山から引っ張り出したナイトウォーカーのハンドルの様子を確かめながらそう言った。
「ええ……そんなにスピードは出ていなかったのに……」
気落ちするアリッサ。
「まあ、そんなものだよ。倒れるときはまずハンドルから当たることが多いからね。そうだ、ボクの行きつけのドワーフの店に持っていくといいよ」
「ここって、そんな店もあるんですか?」
「ドワーフたちは、器用で道具作りや機械づくりは得意なんだ。当然、修理もね。それにその店なら、ボクの紹介ということで、きっと安く直してもらえるから」
そう言ってエライはにっこりと笑いかけた。
「わぁ……」
ポラリスとそっくりな顔だったが、その笑顔にはポラリスとは違う愛嬌と可愛さがある。
アリッサは、エライに再び見とれてしまった。
「何?」
小首をかしげるエライにさらに顔を赤くしたアリッサは、また慌てて目をそらせる。
「な、なんでもありません……」
その時だ。
なにやら騒がしいドワーフたちの声が近づいてきた。
「いたぞ、あいつだ、あいつ!」
ドワーフたちは、アリッサを見つけると素早く取り囲んだ。
「な、なんなんですか! あなたたち!」
驚くアリッサをドワーフの一人が指差す。
「おまえだな、ポラリス姐さんの紹介状を持ってきたという魔術師は」
「ポラリスさんの紹介状……確かにそうですけど」
「ちょっと、わしらと一緒に来てもらおう」
「なんですか、いきなり!」
アリッサは、掴まえようとしてきたドワーフの手を振りほどいた。
「いいから、こい! 人間の魔術師」
乱闘になりそうになったが、ポラリスの妹であるエライが割って入った。
「君たち、ボクの友達に対してちょっと失礼じゃないかな」
「あんたは……」
どうやらドワーフたちは、エライのことを知っているようだった。ポラリスのことを姐さんと呼んでいたくらいだから、エライにもと同じく、一目置いているということだろう。
「この魔術師は、エライさんの知り合いなんですか?」
「ボクの新しい友だちだよ。それより君たち一体なんなのさ?」
「あっしらにもなんだか」
ドワーフは肩をすくめた。
「その魔術師が、ポラリス姐さんの紹介状を持ってこの市場に来たんです。紹介状に書かれたエルフ語は読めなかったんで俺たちの親方に見せたんですよ。そしたら、紹介状を読むなり、その魔術師を商工会議所に連れてこいって親方が言い出しまして」
「君たちの事情は、わかったけど、やはり無理やりというのは良くないんじゃないかな?」
「でも、言いつけを守らないと、わしらも親方に怒られちまうんで」
「わかった、ボクもついていく」
「え? エライさんが?」
アリッサは、驚いてエライを見上げる。
「いいだろ?」
そう言ってエライはアリッサに片目を瞑ってみせた。
「その魔術師が来てくれるんなら、わしらは別に構いまわねえが……」
こうしてアリッサとエイラは、ドワーフたちについていくことになった。
アリッサは、ドワーフの商工会議所と呼ぶ建物に連れてこられた。
建物の中は身長の低いドワーフたちが使うのにはどうかと思うほど天井が高かった。
廊下の先に大きな扉が見える。
どうやらここに親方衆とやらが待っているようだ。
中に入ろうとすると、一緒についてきたエルフのエライがドワーフたちに止められる。
「エライさん、すまねえ。ここからはこの魔術使いだけだ」
心配そうにアリッサを見るエライ。
それに気がついたアリッサは、にっこりとエライに笑いかけた。
「大丈夫ですよ、エライさん。何かあったら大声で叫び声を上げますからその時、助けに来てください」
「ああ、いつでも呼んでよ。何かあったら、ここにいるドワーフの皆さんは、ボクが皆殺しにしてやるから」
エライは、あっさりと言い放った。
「み、みなごろ……?」
そばにいたドワーフたちが神妙な面持ちで顔を見合わせる。
「やっぱり、ポラリス姐さんの妹だ」
「この人は絶対、怒らせねえ方がええぞ」
ヒソヒソと話し合うドワーフたちの横でアリッサも過激なエライの言葉にひいていた。
うわっ……もしかして、エライさんってガチなあれなのか?
チラリとエライを見上げるとメガネの奥が光ったような気がした。
「どうしたの?」
アリッサの視線に気づいたエライがにっこりと笑いかける。
同じ笑いかけでもさっきとは印象が大きく違う。なんか怖い。
「な、なんでもないです」
アリッサは、青ざめた顔で目をそらせた。
「さあ、中に入るぞ、魔術師さん。親方たちが待ってる」
ドワーフが、ノックをすると商工会議所の扉が開かれた。
「気をつけな、アリッサ」
ジローがエライの足元からそう言った。
アリッサは、そんなジローのツノをむんずと掴む。
「え? あ、いや、俺は、エライさんと一緒にここで待機を……」
無視してジローを持ち上げるアリッサ。
「あんたは私の使い魔でしょ」
「そ、そうだけど、きっと、何かあっても俺は役に立たないけど」
「道連れだから」
「え?」
アリッサは、嫌がるジローを引きずりながら部屋の中へ入っていった。
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