第五話「彼の重い想いと私の不安」

「穂香?」

「どうして私の事なんか好きで、愛してくれるんですか?私には分からないんです。隼人さんが初対面の人に対する気持ちがこんなに深いとは…」

「それは…君のことを見つめてたからだよ。君のお父さんと一緒にいた小さい頃の君を見た事があるんだ」

「父と…?」

「気が狂う程、君のことが愛してるんだ」

(この人は違う!何かが違う!)

ある程度の愛情なら受け入れられるけど、この人の愛情を受け入れられる自信がない。


「少しでも、俺の女になりたいと思った…?」

隼人は笑った。笑いながら穂香にどんどん近づいてくる。


(まだこの人のこと…好きになってはいけない)


(好きになったら、きっと…きっと果てしない地獄が待ってるんだ…)


「君しか愛さないと決めてる」

「隼人さん…?」

この愛は重すぎる。重すぎて、怖い。切なく、暖かく、時には冷たく感じるこの恋は…どこか間違っていた。

そのことは穂香には分かっている。

だけど、長期間監禁されたせいで、自分が求めてる恋と愛情が偏見してしまった。


「だから…君のことは誰にも渡さない」

「あの…隼人さん…私…」

「なんだ?」

「俺のこと、好きか?」

「初対面なのでまだ分かりませんが、気になってるのは事実です」

「そうか。ありがとう」

「…はい」

少し泣きたくなった。

隼人を「愛してしまう」かもしれない恐怖と不安が胸の中で溢れている。

「好きだ」

穂香は心の中で思った。

この時から初めて愛情を感じ、自分の耳元で囁く隼人がたまらなく好きになった。

(この時間が止まればいいのに…)

そう思いながら、静かな夜を過ごしていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る