第2話 「オダマキニトロ」
とある高校の放課後の時間
校舎裏で一人の少女が大ボリュームで叫んでいる。というか私である。桐条学園に通って2年目となるこの私、小田巻華(おだまき はる)は自身の命を燃やさんばかりに声を張り上げ、その声を聴いている少年は何処か面倒くさそうな表情を浮かべている。気のせいだろう。
「き、きき、きりじょうさああああああんんんんんんん!!」
緊張で、私の声帯が正常に作動していない
壊れかけの○ッパー君みたいだと思った。
「すすう、すすす好きです!わ、わわ、私とととと、つつつつき、つつ付き合ってください!」
わ!言った!言っちゃった!
告白が盛大に噛んでいたことなんて気にしない。大事なのは気持ちだ。ハートだ。穢れなき眼である。お母さんが言ってた!
腰を直角90度に曲げ、顔をリンゴのように真っ赤にしながら彼からの返事を待つ少女がそにはいた。というか私だった。
彼は、口を開き訪ねた。
「君は俺のこと知ってるの?」
「も、もちろんですよ!」
告白相手である、彼は桐条秀一(きりじょう しゅういち)。彼を文字で表現するならば、まさに『完璧』の二文字が似合う男だった。学業が勿論のこと優秀であり、教師からの人望も厚く、その上サッカー部のエースの肩書もある。しかも、彼は、私が通っている桐条学園(通称:キリ高)の学長の孫なのである。他人には優しく、自分には厳しい。そんな人物だよね…多分!
私が、そんな完璧な人物と同じ学園に通っていれば彼に惹かれるのは必然であり、まさに今現在、他の女子生徒を置き去り自称最速記録で彼にアタック中とのことである。
彼は、ふーん…と顔をポリポリとかきながら尋ねた。
「えっと…小田巻 華(おだまき はな)さんだっけ?」
「君は俺のどこが好きなの?」
「全部です!消しゴム拾ってくれた時から好きです!」
私は、周りから極度の恋愛体質であるといわれた。ちょっと優しくされたり、きっかけがあるだけで、だれでも好きになるお手軽なテイクアウト並みに軽い女らしい。
ちょっと優しくされただけで好きになるって、全然ちょっとじゃないもん!
桐条くんは、だれも拾ってくれなかった私の消しゴムを拾ってくれたんだもん!
もう好きになるしかないじゃん!
恋はするものじゃなくて落ちるものだってお母さん言ってた。
彼は、私の信条とは対照的な非常に冷ややかな表情で言い放った。
「悪いけど、君とは付き合いたくない。ていうか君と俺とじゃ釣り合わないだろ。」
ガーーーーーン
え、これって振られたの? どゆこと?
Do you coat on?
もう彼が何を言っているのかわからない。
彼が話しているのは日本語なのだろうか…。思考がホワイトアウトし、桐条くんの声が聞き取れない。何もワカラナイ。キキタクナイ。
この時私は顔面蒼白で、口をパクパクと必死にえさをねだる錦鯉みたいに見えただろう。
彼は、そう言い放ち「じゃ、俺部活あるから。」と何事もなかったかのようにその場を去っていった。
私は、かろうじて粉々に砕け散った余裕をかき集め、ふらふらとゾンビのような足取りで、近くにあったベンチへと不時着を果たした。
「何でよ…。消しゴム拾ってくれたじゃん。好きじゃなかったの…。」
胸の奥から何かどろどろとした気持ち悪いヘドロみたいなものがこみあげてくる。
数秒落ち込んだ後、わたしは思い出した。そうだ!こういう時にどうすればいいかは学んだじゃないか、お母さんが言ってた!
「うん、こういう時は、深呼吸しよう。」
そうそう!こういう時は、しっかりと深呼吸してっと、できる限りはイに酸素をため込む。そして…爆発する。
「なんでダメなのよよおおおおおおおおおおおおおぉぉおお!桐条君なんて爆発しちゃえ!!」
私の中で膨れ上がった抑圧された感情が、限界まで抑えたばねのごとく弾けだす。
彼の根も葉もないうわさを、脳内で太陽生産し、口から発射していく。
「桐条君が、顔だけがかっこよくて、女たらしのイ○ポクソ童貞野郎だって、キリ高の全体にコラ画像付きで怪文書ばらまいてやるうううううう!あはははハハハハハ!!!」
誰もいない校舎裏で振られたが挙句、振った相手の人物像をボロクソにねつ造し、虚空に向かって叫ぶ元気な女子高生がそこにはいた。というか私だった…。
「ま、そんなこと言っても何にもならないけど。はぁ、やんなっちゃう…。」
溜息をついたその時だった。私の背後から、空気を読まない陽気な声が聞こえた。
「いやぁ、酷いですね~今の振られ方は。私でも見ていて嫌になっちゃいましたよぉ~。ハイ。」
「うんぎゃああああああああ!!」
ビビビビックリしたぁー。
あれ、もしかして今の内容聞かれてた?!
やばい!消される!桐条ファンクラブのメんばーに消されちゃう!
うそうそ!冗談ですよ!
この現状を打開すべく、まず私はできる限り冷静を装った。そう!わたし、まだ何もしていない!未遂だから!
未遂ならまだ許されるってお母さん言ってた。
「ど、どちら様ですか、というかさっきの私の告白見てたのですか?」
泣き顔を見られたくなかったので振り返らなかったのもあるが、やけに中性的な声だと感じた。そして背後からは、何やら甘い花のような香りもする。不思議とその匂いはどこか懐かしいにおいのような気がした。
私は、冷静を装いつつ彼に尋ねた。
「ハイ。見てましたよ。振られた後の面白い姿もね。」
目撃証言もばっちり。人生オワタ。
なんてそんなことを思っていた。
私の信条なんかお構いなしに彼は、変わらず陽気な口調で自己紹介をした。
「私は、そうですねぇ。まぁ、“能力屋さん”とでも呼んでくださいな。ハイ。」
能力屋さん?変な勧誘か何かだろうか。
なんか口調からして怪しい、いやかなり怪しい。でも、私の中の興味を引く何かがあると私は思った。
「で、その能力屋さんが、この振られた直後の私に何の用なんですか?」
彼に背を向けたまま私はややぶっきらぼうな口調で彼に要件を聞いた。
人の話は最後まで聞け。お母さんが言ってた。
「あらら、手厳しいことおっしゃいますね~。これでも、励ましているつもりなんですよ~。」
さっきから聞いているが、どう見てもこれ励ます気ないでしょ…。私はなんだか腹が立ってきた。
「励ましているつもりなら私が喜ぶようなことしてよ。」
つい意地悪なことを言ってしまった。だけどこんな人ならこのくらい言っても問題ないだろう。
「もちろん、そのために声をかけたんですよ。能力を与えるためにね…。オダマキ ハナさん。」
突然、彼の声のトーンが下がった。思わず私もその変わりように体がこわばる。
「の、能力ってのは何ですか?何かのおまじないか何かですか?」
喉をごくりと鳴らしながら、私は彼に問う。
「まんまの意味ですよ~?私が考えたオリジナルの能力をプレゼントしちゃいます。ハイ。」
なんかセールスマンみたいだなー。顔を見てないけども、なんかどや顔されてる気がする。
「まぁ、実際能力差し上げたほうがいいですよねぇ。ハイ、ちょっと失礼しますよ~。」
後ろから、白くて細い掌が伸びてきて、私の目を覆い隠した。彼の手に触れたとたんに、徐々に眠くなってきた。
頭の中がなんだかポカポカしている。彼の声がぼんやりと響いてくる。
「今回の私の能力のコンセプトは“爆発”ですね。精々相手選びは慎重に…。」
え、今なんて言った?
私の意識はここで途絶えた。
「…きさん。小田巻さん。」
誰かの声が聞こえる、だれだろう、まぁいっか、もうひと眠り…。
「小田巻さん!」
「んんんんんん!!?」
これまた唐突に声を掛けられるとは思わず女の子が出すとは思えない野性的な声が漏れてしまった。
「小田巻さん、何でベンチで寝てたの?暖かい季節だったからよかったけど…。」
意識がはっきりしてきて、顔を上げるとそこには、同じクラスメイトの道下千(みちした せん)君がいた。
「あ、ああ。能力屋さんがいて…。あれ、どこ行ったの?というか道下君は、何でここにいるの?君が能力屋さん?」
あれ、でもなんか全然違う気がする。もしかして寝ぼけてた?でも妙にリアリティがある夢だったな…。
「能力屋さん?もしかして寝ぼけてる?僕は、廊下を歩いていたらベンチで横になっている小田巻さんが窓から見えたから、起こしに来たんだよ。」
「え、わざわざおこしに来てくれたの?別にほっといてもよかったんじゃ。」
廊下からこの校舎裏からはそこそこ距離がある。良くおこしに来てくれたと思った。
「いや…。小田巻さんもう少し女の子の自覚持った方がいいよ。」
「え?」
道下君は、困り顔で言った。
「女の子がたった一人で、人気のない校舎裏で寝てたら危ないじゃないか。」
あまりの正論にぐうの音も出ない。確かにこんなところで女子高生が一人きりで寝ていたとしよう。うん、学校内だとしても危ないよね。
食べちゃってくださいね(はーと)
みたいなこと言っているものだ。
「いわれてみればそうだね。ありがと!声かけてくれて!」
でも、普通におこしに来てくれる当たり道下君は紳士だなぁ。こんな人が彼氏だったらいいのに。
・・・ッ?!
もしかして、道下君は私のことが好きなのではないのだろうか!
好きじゃなかったら、こんなことしないよね。大切にしてくれてるってことだよね!
やばい!なんかドキドキしてきた!
いや、落ち着け私。ま、まずは確認を…。
「ア、 アノーミチシタクン?」
「ん?なに、小田巻さん。」
「わ、ワタシノコトドウオモッテル?」
よ、よし!まず第1段階の『好意があるかを聞くこと』は成功だ!
え、質問がカタコト?気にしない気にしない。伝わればよし。
「え、小田巻さんのこと…。いや、別に普嫌いではないよ?」
キターーーーーー!
もうこれは勝ったよね、嫌いじゃないってことは裏を返せば好き。よしもうこれは告白して幸せになるしかない。
私の中のドラマティックエンジンがフル稼働し始め、今の恋の矛先は彼に進路を取っていた。え、桐条君は?知らんがな!
恋はスピードが命。お母さん言ってた。
彼の学ランの袖をつかみ勇気を絞り出す。
うおおおおおおおお!!
命を、もやせせせせせせせえええええええ!!
「も、もしよかったら。」
彼と目が合う。言う、言うんだ私!
そして夢に見ていたバラ色の青春を!
「私と付き合ってください!」
サクランボのごとく、両ほっぺを真っ赤にしながら彼に向って気持ちをぶつけた。
勝ったな。なんちゃって。
彼は困った顔をした。
「えーっと、ごめんなさい。気持ちは嬉しいけれども、お互いのことも知らないし、いきなり付き合うのはちょっと。あと…。」
そして容赦なくとどめを刺した。
「あと、顔がタイプじゃないです。」
「-----ッ!?」
カチッ
振られたことを認識するのに私は数秒間の猶予が必要だった。そして、その事実を認識した途端、頭の奥底で何かのスイッチが入ったような機械音が聞こえた気がした。
そのあと何が起こったのかはわからない。
目が覚めるとさっき寝ていたベンチの上でまた寝ていた。どんだけ私寝るの…。
なぜか、すごく気分がいい。今までたまったストレスが一気に解消された気分だ。
道下君には振られちゃったけど、もう気にしない気にしない!
いつまでも過去を引きずる女はモテないってお母さん言ってた。
よしっ、帰ろう!
私は家に帰ってそのまま就寝した。
翌朝、学校に行くとクラス友人にで「校舎裏で女子高生が爆発した!」と叫ぶ男子生徒がそこにはいた。
というかミチシタクンだった。
忍野愛の事件簿 @amagumo0560
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