第36話 触手が踊れば、妹が次々と出来ますか?
半荘戦並に長引いた東風戦も終わったので竜姫と紅玉は姿を消し、黒柴コボルドのアバターしてるロットナー卿と、今まで使った全自動卓と塔子が取り残された状況。
前述の通り、ここはVR機器のフルダイブ性質により塔子の拘束を実現してる仮想空間で、今描画されてるのは石造りの古代遺跡……青紫の彩度をある程度まで落とした灰味のある石による建造物表面の所々には暗い緑色の苔が生えてて……苔は地面の石畳にも及んでるけど、全自動卓もその上にあります。
塔子が何かを思い出したと取れなくもない表情で発言。
「そういえば、ここから出る方法考えるんだった」
「一緒に麻雀を打ってくれたんだから、もうお前は大事な客人だ……俺としては更に打ってもいいが……呑気に過ごせるのもここまでのようだな」
「何かあるの?」
「さっきお前が戦っていたアイダたちが全滅した、その上……いや、まぁ既に外部からなら簡単にログアウト出来るようにはしてある……ひとまずコイツでも眺めていてくれ」
ロットナー卿がそう言うと、麻雀卓の上にイソギンチャクをデフォルメし、胴体と思われる部分には横開きで縦長瞳孔の大きな眼球が1つ……
そんなローパーとも呼べそうな存在からは、世にロボットのイメージが浸透し始めた頃のロボットアームの形状としてイメージされがちだったCの字を描く形状を先端とする関節4つの金属アーム4本が胴体から伸びてて……胴体下部には細長い布を垂らした装備を着けてて、RPGの踊り子みたいな雰囲気が無くもない。
そう思ってたらローパーもどきはアームを駆使してダンスと呼べそうな動作を始めたけど、何だか微妙な動き……塔子が当惑を見せた顔をしながら呟く。
「何……これ?」
「とある地域で少しの間蔓延したコンピューターウィルスがシステムを乗っ取った際に表示される動画に使われていたものだ……丁度報酬付きの駆除依頼があったから俺が駆除する際にコイツのデータを得たんだが4パターンしか無かったダンスの内容をその日だけで32パターン……今では88パターンあるぞ。まぁ……気休め程度の時間潰しにはなるだろ」
「モーションを……そんなに?」
「いや、アームのパラメーターを自動生成するプログラムを作って、その結果得られたモーションを見て取捨選択した……基本的に深夜の作業だったから、おかしなモーションばかりかもな……では俺は落ちるぞ」
「え……ちょっと」
塔子がそう発声するや黒柴コボルドのロットナー卿は姿を消し……ローパーもどきは古代遺跡の中で珍妙な動作で4本のアームによるダンスを続けます。
塔子は明らかに腑に落ちない表情でそのダンスを眺めるしか無く……重複を含め7パターンのモーションがこなされる頃、何やら塔子は体に触れる外気の感触が変わったように思えた……次の瞬間。
塔子には聞き覚えのある叫び声が聞こえて来ました。
「トウコ!」
塔子の眼前にはコバルトブルーが水色に寄った瞳の色をした背が高めの女性がいてその左右で長さの違うアシンメトリーの髪型は少し青みのある紫色で、長い右側部分は肩まで伸びてるね……
服装は白いドレスと言うには青や水色の部分も多く、目立たない部分で金色も使われてて、そのデザインは湖をコンセプトに作られたものだと伝わって来て……胸元にはラバロンのシルバーバッジを付けてるけど、それを見ずとも自分が所属する麻雀部の部長である恵森清河だと忽ち認識した塔子は寝ぼけ気味な口調で挨拶します。
「あ、ぶひょう……おふぁようございまふ……」
「何か……されなかった?」
「VR機器のロックに小細工して人質にするとか出来たんだが、本当に何もして無いなー……せっかく大勢が押し掛けて来たんだ……もうひと頑張りするか」
恵森清河の後に現実世界のロットナー卿が発言したけど……朱肉が赤みを帯びたような髪を肩を越す程度まで伸ばした金色の瞳の男性だったよね。
フルダイブ状態で事実上拘束されてた塔子を安置してたベッドは、ロットナー卿が今いる映像素子が充満する結構広めの部屋にあって……扉の向こうには高スペックなコンピューターたちが支障の無い程度に所狭しと並んでます。
ロットナー卿が大勢と言ったように恵森清河は単身で乗り込んで来たのではなく、他にも12歳くらいの少女たちが5名いて……外見は恵森清河がヴォルテクスフレアを呑まれた際に遭遇したツーサイドアップの少女と同じ……5名とも服装だけでなく顔立ちと体型と雰囲気を含め、全てが一致するよ。
塔子が拘束される前に戦ってた場所のエルフメイドのアイダたちは、今やこの少女たちにより無力化され、切断面から金属部分を露出させた
さて、机の傍の椅子に腰掛けてるロットナー卿が犯行声明時と同じ口調と雰囲気を纏いながら発言します。
「おやおや……皆様お揃いで……わたしに何の御用でしょうか?」
「何かキャラ変わった」
「普段の口調だと締まらんからな……名前を聞いて無かったが、トウコと言うのか……」
「うん! わたし
「マイナだと……? 何処かで……」
すっかり打ち解けた様子で会話する塔子とロットナー卿……そんな中、映像が現れ始めると共に音声が聞こえます。
「敵に対して悪戯に情報を与える行為は感心出来ませんね」
やがて現れたのは赤い軍服を着た銀髪ミドルヘアで緑色の瞳の女性……金色の装飾も施された軍服の色は本当に真っ赤で香辛料を彷彿とさせ……軍帽のつばやタイツなどに黒い部分もあるね……
そんな女性の姿を見て、塔子は確証が持てぬまま呟いた。
「カヤ……?」
「ご無事で何よりです塔子さま。我らがオウカ様が用意されたプログラム型サポートAI自動生成プログラムにはベースとなるデザインも用意されており、私はその人型オブジェクトを赤くしたものです」
将校にしか見えない風貌にカヤの厳格な口調が加わり威圧感が増したかな。
カヤが言ったように、シトラもカヤもオウカが事前に組んだプログラムにより生成されたもので、オウカが急遽作ったわけじゃ無い……
ところで5名の少女がそれぞれ発言しながら塔子に近付いて行くけど……総じて甘えた口調だね。
「お姉ちゃーん」
「来てよかったぁ」
「髪下ろしてるー」
「生きてる内に見れたぁー」
「本当に会えちゃった!」
ベッドから起き上がり気味だった塔子に次々と飛び掛かる少女たち……そんな光景を見ながら恵森清河は塔子に向けて言います。
「話は聞かせて貰ったわトウコ……貴方、随分と大家族なのね」
「無限……は言い過ぎだけど際限なく増える、ますがね」
「塔子……お前、本当に動じないな」
「あらゆる意味で今更だからなぁ……にしても発表されたって話、聞いて無いんだけど……」
「発表まだだよー」
「急遽、駆り出されたー」
目が覚めたら装いは違えど自分そっくりな5人が自分の目の前で集結している。
そんな状況なのに意に介さぬ塔子を見たロットナー卿がそう言うと、別な疑問を浮かべた塔子に少女たちが反応……この事態の説明は今度まとめてするとして……
塔子の推定妹たちは、それぞれが恵森清河が目撃したダークエクスプロードをあの出力と規模で今すぐにでも放つ事が出来ます……
ロットナー卿が仕切り直すように例の口調で発言。
「いやはや驚きましたよカヤ殿……まさかこんなにも早く、この場所に辿り着かれるとは……」
「クロノブースターの存在は潜伏先の候補範囲を地球全域にまで広げ、世界各地にあるダミーの反応の中から割り出すのは困難な条件……しかし我らがオウカ様は仰いました。そのクロノブースターという存在が虚実であり、ここから離れた場所の何処かというその先入観を逆手に取ったヴェノス周辺に潜伏しているのでは……であるならば海中の岩盤部分をアジトとして利用し易い箇所は何処か……そこに塔子さまを向かわせました」
「先程まで交戦されていた場所は世界各地に配備したダミーの1つでして、あそこから地下に降りたとして、此方へは繋がっておりませんので此処に意識が伸びる事は無い……そんな考えには甘さがありましたか」
「あくまでも可能性のひとつに過ぎませんでしたが、そうであった場合の有力候補の比較的近辺に塔子さまがおりましたので調査をお願いした次第です」
「つまりアジトを作るならば、この場所であろう、と……」
「アジトが無かった場合は見当違いでしたが、手頃な洞窟までありましたので」
ロットナー卿とカヤが会話してるけど、その洞窟の途中を上に掘って作ったのがこの場所……塔子はカプセルに入れられアイダの1体がここまで泳いで連れて来たけど恵森清河たちは2人乗りの小型潜水艇3機でアジトへ侵入した感じです。
ここで塔子が会話に反応しました。
「え、じゃあここ海の中?」
「監視網の薄いレッドネヴァズを有力視していた頃この場所を見つけてな……」
「クラウディート・アーベル・フォン・ロットナー」
ロットナー卿がそう言うとカヤがロットナー卿のフルネームを言い、続けた。
「オウカ様はこのまま抵抗しないのであれば減刑を施すと仰っています……今、送信したファイルに必要事項を事実に基づき入力すれば更なる減刑もあります」
送信された各項目を回答すれば、クロノブースターを積んだ
ロットナー卿は既に入力と送信を終え、その内容はクロノブースターも天宮の在処も知らない事を示し、傍から見ればシラを切った回答。
ロットナー卿が心の中で呟き始めます。
「こんな時……テロ首謀者ってどうすんだろうな……用意していた人質を盾に逃げ遂せるか? 潜り込ませた味方に不意打ちさせドヤ顔でもするか? 自分は自害しておいて全世界を道連れにするような兵器でも稼働させるか? ま、こうなったら何をするかは、こんな事を始める前から決めてある……だったら俺はこうするまでだ」
程なくロットナー卿は秘匿ウィンドウで何かを操作し……次の瞬間、ロットナー卿は机の引き出しから箱を取り出すと中から取り出したものを机の上まで持って来るやそれに対し力を加え……部屋に響き渡る程の強さを持たない、その微かな音は掻き消えるしかなくて……
やがて映像素子空間に何かが描画され始め……ロットナー卿は心の中で強い意志を込め、呟きました。
「これが俺の……取って置きだ――」
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