第35話 喰らわれるは栄光と炎獄【麻雀回】

 南3局2本場は立直棒5本が積まれた状況で始まって……


 点棒状況は東家の塔子が2万3400点、南家の竜姫が2万2100点……西家の紅玉が2万3600点、北家のロットナー卿が2万5900点……


 そんな状況で立直する事が出来た塔子は少なくとも一翻の1500点以上あり……積み場と合計すれば7100点なので、ここで和了すれば塔子のトップで終わるね。


 塔子の次のツモ牌である海底ハイテイ牌が塔子のアガリ牌ならば……


 竜姫は最近塔子の現物になった中張牌を切って紅玉も同じ牌を切り……ロットナー卿は違う中張牌を切ったけど……次の瞬間――


 塔子から見て上家のロットナー卿の切った牌を対面の紅玉がポンをする。


「あ」


 鳴かれた瞬間、塔子はそれが何を意味するか理解すると共に声が出て……


 再び自分がツモる事になった黒柴コボルドのロットナー卿も僅かな時間だけど、口を結構開きながら呆然とした顔になり……やがてこんな発言をしつつ打牌。


「全員に通っている牌がまだあるから、それを切るが……やられたな」


 ロットナー卿は塔子が立直してからの現物の牌……今では全員の現物を切ったので南3局2本場は塔子の1人聴牌で流局……


 塔子の手牌はこうだったよ……ドラは1ピン。


 萬赤55筒888索23456789。


「お前がツモるはずだった海底牌は……4ソウだったぞ」


 流局したので各牌が自由に動かせるようになり、ロットナー卿が自分の手牌を倒すと、索子が147と綺麗に孤立牌……


 流局したからロットナー卿の息遣いには安堵が色濃かったけど……何処か残念そうな口調と表情でこう続けた。


「俺も対面の竜姫がポンしそうな牌を切れば、同じ事が出来たんだよなぁ……お前が海底牌をツモる瞬間が楽しみで……忘れていたよ。海底牌間際で鳴けばツモ牌はズレて……場合によっては相手のツモ番そのものを無くせる。俺が今切った牌をさっき俺が切っていれば……お前は勝利していた」


「でも、ポンのひと声で……消えちゃった」


「本当に最後の最後のその瞬間まで――麻雀は気が抜けないものだ……そして、まだ勝負は終わっていない」


「次は南3局3本場……」


 そんなロットナー卿と塔子の言葉が続くと次の局へ……


 点棒状況は東家の塔子が2万5400点、南家の竜姫が2万1100点……西家の紅玉が2万2600点、北家のロットナー卿が2万4900点。


 積まれた立直棒は6本で……3本は塔子が、2本は竜姫が、1本はロットナー卿が出したもの……


 南3局3本場が始まって6巡が経過し……ロットナー卿と塔子が言う。


「竜姫……染めているな」

「やっぱりソウズかな」

「そう見せかけてソウズ待ちにすると迷彩になるが……今アガれば6900点入り、バカホンでも喰いタンドラ1でもトップになる……単に一気通貫イッツーかもしれん」


「ここは裸単騎の喰いタンもありかなー」

「ここまで来るとアリだが……上家の俺に……それを言うのか?」

「面前できれいに決めたい気持ちもあるけどー」


 そう言いながら打牌を続ける2人だけど、せっかくなのでバカホンの説明……三翻役の混一色ホンイーソーは鳴くと二翻に喰い下がり、そこにドラか役牌があれば3900点……


 鳴いた混一色はヤオチュウ牌が暗刻で他にも符があれば5200点に届く場合もあり……その一翻のサポートが無い状態で鳴いた混一色を和了するのがバカホン。


 極端な例がこれ……南場の南家で出アガってます。


 索3……ポン索444チー索879チー索234ポン西西西。ロン索3。


 合計28符なので30符二翻で2000点……もう一例上げると……


 白……ポン索444ポン北北北チー索879ポン西西西。ロン白。


 合計32符なので40符二翻で2600点……いずれにしろ点数が低い。


 特に344不要牌……と4枚ある時に4をポンしてしまうのは考えもの……


 3444の変則三面張にならなくても1344や2344の変化があるんだし……3445になったら他の牌で単騎待ちにしたいけどね……


 ちなみにこれもバカホンという事になります。


 索2223456……ポン西西西ポン北北北。


 点数自体は2000点止まりだけど23456の三面張と3456の2つの単騎待ち……ノベタンが複合して13467の五面張ウーメンチャン


 今回のように和了すればトップになるような状況下で、ここまで待ちを好形にしてアガった場合……愚か者バカ呼ばわりされる所以イワレは無い。


 場合によってはバカホンも立派な切り札になるから……あくまでもノミ手への呼称の延長線と考えるのが正しいかな……


 さて8巡目に塔子が切って、竜姫が切った……次の瞬間――


「ほんっとうに……空気を読まんな……これこそがオーラスでの在るべき打ち方だが……」


「勝負に水を差すって言うけど……これはトドメを刺す?」

「こんな展開で言う言葉がそれか……大したヤツだ」


 そう言うロットナー卿は塔子に呆れながらも関心した様子だったけど……


 状況はダマ聴してた紅玉がツモ和了を果たし、その手牌……ドラは7ソウ。


 萬123筒34567索78999。ツモ筒2。


「平和ドラ1ツモだから……20符三翻は子が700点、親が1300点」

「そしてこれは3本場でのツモだ……3人掛かりで900点を支払う事になるぞ……よって子が1000点、親が1600点……しかも立直棒6本が紅玉のものになる」

「じゃあ9600点……? あ、対局おわった」


 塔子がそう言ったように点棒状況は……東家の塔子が2万3800点、南家の竜姫が2万100点、西家の紅玉が3万2200点、北家のロットナー卿が2万3900点……つまりトップは紅玉、2着がロットナー卿、3着が塔子、ラスが竜姫。


 注目して欲しいのは塔子とロットナー卿の点差が100点しか無い事……


 今回は1回の対局だったけど持ち点2万5000点の3万点返しだったし試合結果を精算せいさんしてみよう。


 1万点を10と表記するので100点は小数点になる……そして3万点を基準にしマイナスを△にしてトップの紅玉以外の3名の最終スコアを表記すると……


 黒柴△6.1、塔子△6.2、竜姫△9.9……この合計を0にする数値がトップ者の得点になるから……こうなるね。


 紅玉22.2、黒柴△6.1、塔子△6.2、竜姫△9.9。


 黒柴ことロットナー卿と紅玉の点差は8300点だけど、3万点を原点に計算する事で既にトップ賞の20は反映されてる。


 塔子が3着になったけど、もしも順位点が10・20だった場合は……こうだね。


 紅玉42.2、黒柴3.9、塔子△16.2、竜姫△29.9。


 ここまで差が出ると、麻雀での1位と2位の差は……金メダルと銀メダルの差じゃ済まされない……この精算条件でトップを2回取った時と2位を2回取った時の点差はまるで別物で……オーラスとはこのトップという栄光の座を奪い合う最終局面。


 それが今回の東風戦では南1局から延長戦が続き……東風戦は何回か連荘して終われば8局前後なのが南入により、実に16局も続いた対局でした。


 順位点があれば2着と3着の差も大きくなり今回塔子は100点差でその3着……しかも振り込んでもいないのに親だから子よりも支払いが増えた結果、ロットナー卿の点数を下回るという親のデメリットが直撃するような展開で終わったね。


 さっき紅玉に海底牌を消されなければ塔子のトップで終局したのに……


 そんな塔子は今も特に悔しそうな顔もせず……その場に漠然と佇むばかりでした。


 それじゃあ恵森清河の……昔話はもう切り上げたので、最近の話……具体的な日付は本日で……ラバロン学園にロットナー卿の一味が攻め込んで来て、その鎮圧も大分落ち着いてきた頃になるけど……


 学園長が魔法実技試験中によく使う動物をデフォルメした小型飛行機械……これは猫の頭部のみだけど、目の部分の縦長瞳孔がやたら強調されたデザイン……


 そんな機体から発せられるのは学園長の声で……恵森清河にこう言います。


「恵森清河。今指定した位置を中心にヴォルテクスフレアを最大出力を目指して展開し、行動可能になったらサドンフリーズで自分の周囲全てを幾重にも覆って徹底的に防御なさい」


 少し前に猫の両目からライトが照射され……それが交わる場所が指定された地点。


 そこには何も無ければ何者もいない学園敷地内の広い場所……


 恵森清河は迷う事なくヴォルテクスフレアの出力を込めれるだけ込め……高さが2階建ての家屋に迫るドーム状の炎を展開……


 炎の赤と眩い黄色が混ざり合って渦となり……その鉄をも溶融させる温度に達する灼熱の空間はかなりの密度を備え……激しい濁流の如く渦を巻いてるから、中に建物でもあれば粉々に砕かれてたね。


 そんな炎の渦が更に勢いを増し回転を続け……出力が安定したのを見て、恵森清河はサドンフリーズをドーム状に展開し、5枚重ねの氷のバリアを形成するけど……程なく炎の流れに異変が生じる。


 まるで至る所で流れを阻害されたかのように勢いが失われ、炎の流れにより発生していた音にも異音が目立ち始めた、次の瞬間――


 炎の渦の表面を被膜を食い破るかの如く、ドス黒いと言うには鮮やかさの残る紫色の何かが液体であるかのように溢れ出すや恵森清河のヴォルテクスフレアを完全に飲み込むだけでなく、更にひと回り膨らみ……遂には黒さの中に紫色の鮮やかさを放ち液状の質感を持つドームを形成……


 その表面は絶えず沸騰しているかのようにも見えて……それが内部にも及んでいた場合を想像させるには短い時間で、闇の空間は消滅。


 さっきまでそこに炎の渦があった事実そのものを跡形も無く消し去ったかのように辺りは異質な静寂で満たされ……


 突然の事態に対し、恵森清河は呟く事しか出来なかった。


「何……今の?」


 呆然としながらも周囲の警戒を怠らなかった恵森清河はやや離れた位置に見慣れぬ少女を捉え……その姿をよく見ようと恵森清河が近付いてる間に、その少女の詳しい外観を説明するかな……背丈は岩瀬麻七くらいで、胸は茶遠一くらい……


 腰まで伸びたパールグレーの髪をマゼンタのリボンで結んでツーサイドアップにしてて、瞳の色はオレンジ色。


 服装は紺色に緑を加えて暗くしたような色を基調とした軍服ワンピースで……服の所々には大きめのスリットがあって、その部分にはココアのような色を濃くしたものと淡くしたもの2色を白い生地の上に乗せた大きなギンガムチェック柄が……


 靴は軍服ワンピースと同じデザイン傾向で、その形状と構造はフォーマルシューズを運動靴並に機能的にしたもの……


 ニーハイソックスを履いてて正面から見て左……つまり右脚に黒のニーハイ、左脚に白のニーハイなんだけど……


 横から見ればニーハイの裏側は右脚は白、左脚は黒……そんな2種類のニーハイを履いてる事が判明し、正面と背面だけ見ると白と黒の位置が逆転しないデザイン……ちなみに脚部分だけでなら、表と裏の色の比率は完全に1対1です。


 そんな少女の傍まで辿り着いた恵森清河は声を掛けようとするけど……ツーサイドアップの少女は恵森清河の方を一瞥し……すぐに目の前から姿を消します。


 厳密には地面に対し垂直に上空へ移動したんだよね……まるで何かに引っ張られるかのように……


「待って!」


 恵森清河が上空を見上げ、そう叫ぶ。


 この情報を置いとくかな……さっきヴォルテクスフレアを包み込み、内部で次々と爆発を起こした闇の魔法――『ダークエクスプロード』を放ったのは塔子が肉体年齢12歳だった頃と発育状況が完全に一致する、さっきの少女です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る