第34話 猫大発生の大晦日でしたが猫は被りません【麻雀回】

 南3局1本場の点棒状況。


 東家の塔子が2万2900点、南家の竜姫が2万1600点……西家の紅玉が2万5100点、北家のロットナー卿が2万7400点……


 前局は三軒立直で流局したから今回の和了者がその3000点を得る……


 これによりラスの竜姫でも40符三翻の5200点を作れば2万9800点になり積み棒の300点も入るので3万点以上に届く。


 塔子なら親の40符二翻の3900点なので何か手役が出来て立直するか、ドラか赤牌が1枚でもあればダマでもいい……


 そんな塔子の配牌がこちら……ドラは2ソウ。


 萬79筒33679索113西白中。ツモ西。


 まずは9ピンを切ってツモの様子を見る塔子……


 竜姫は手牌から3ワンを切って……その牌を横に曲げて、立直する。


 ロットナー卿が叫んだのは、その直後でした。


「だ、ダブル立直だと!? こんな局面で……」

「えーと……確か立直とは何か違ったような……」


「あぁ、二翻役だ……3ワンがツモ切りだったら本当に情報無しだったぞ……」


 親が配牌でツモ和了すれば天和テンホー、子で鳴きが無いまま配牌でツモ和了すれば地和チーホー


 同様のツモ牌の条件で1巡目に聴牌した場合はダブル立直になる……あと一歩で天和になるのに二翻役なのは随分と格下げされたように見えるけど、第1ツモで聴牌という事は配牌時一向聴の手もW立直になる可能性があるので意外と遭遇する役だったり、待ちが悪いからとW立直を拒否してダマ聴にするケースも結構あります……


 放銃すると役満払いになるオープン立直というローカル役にがあるけど、ツモ和了した場合は二翻役として扱われるけど……雀宝では採用されてなくて、リアル牌を使う麻雀部でもその場のノリが働かない限り、採用されません。


 ダブル立直の表記は他に二重立直、両立直があり、略称としてはダブリーだね……オープン立直と違い、ダブル立直は正式役です。


 人和レンホーにも少し触れておくかな……ローカル役なので点数が役満とは限らないけど、鳴かれていない状況で自分の最初のツモ番が来る前にロン出来た場合に成立する感じで……この条件にもバラツキが多いんだよね。


 さて塔子は2枚の西を対子落としして様子を見る事に成功……


 塔子の4巡目の手牌はこうなってる。


 萬79筒3367索11389白中。ツモ萬9。


 3ワン手出し立直というだけじゃ情報が乏し過ぎるけど……今、河にある9枚を手掛かりに、やりようはある……塔子が切る牌も10枚目の手掛かりになるね……


 塔子は8ソウと9ソウを切る事が出来て……6巡目はこんな手牌になりました。


 萬799筒33567索113白中。ツモ白。


 三元牌は迂闊に切りたくないけど白は竜姫が切ったばかり……ロットナー卿も紅玉もオリてる様子……


 そろそろ竜姫の手牌を考えてみようか。


 3ワン手出しで立直したという事は233や334からの3切りで1と4、2と5の萬子待ちと考え、1ワンが通ったから4ワンが通るかと言うと……133や335からの3切りだってあるので筋牌も安全とは言えない……


 巡目が進んで3ワンが場に4枚見えたりすれば、この可能性が無くなるものの……113とか3ワンが孤立牌だとかの可能性が残り……特に七対子だったら宣言牌の3ワンと通った牌以外の全てが危険牌のままで、やっぱり絞り込むのは厳しい……


 実際の3ワンは河に2枚しか無い状況だし、塔子が振り込んでないのは切った牌がロン牌じゃない状況が続いてるだけ……


 そんな塔子が竜姫の現物の白を2枚切って中が現物になると、紅玉もロットナー卿も合わせて切り出し……塔子も中を切って次の巡を迎えた手牌……


 萬799筒333567索113東。ツモ南。


 東も南も生牌で現物である6ピンを切ればもう1巡は凌げる……そんな中、塔子は自分以外はオタ風の東を切る……


 シャンポン待ちの片割れである可能性もあったけど塔子が切ると紅玉もロットナー卿も東を切ったので雀頭である可能性も無くなりました。


 その後は現物の8ピン、この機に乗じて他家が地獄待ち出来てると美味しい、西が来て……それも通った後の巡目の塔子の手牌。


 萬799筒333567索113南。ツモ萬9。


 ここで南切りに踏み切った結果、次巡を迎える事が出来て……


 萬7999筒333567索113。ツモ索2。


 13巡目で遂に聴牌……1ソウを切って立直して待望の40符二翻が確定。


 紅玉もロットナー卿もオリてるから、これで竜姫との一騎打ち……


 ちなみに現在の塔子の捨牌状況はこうなってます。


 筒9、西、西、索8、索9、白、白、中、東、筒8、西、南、索1で立直。

 ツモ切り牌……10巡目筒8、11巡目西。

 鳴かれた牌……なし。


 とりあえず萬子は警戒されるけど、混一色にしては役牌や字牌が随分切られてる感じに見えるね……巡目も深いので河の情報が合わされば、どの萬子が特に危ないかも判る状況……


 立直してる竜姫はロン牌掴んでもツモ切るしか無いけど、それは塔子も同じ条件。


 塔子が立直した直後、竜姫が切ったのは發で……これで三元牌全てが待ちでは無いと判明。


 ……これで何回目の恵森清河の昔話になるのかな……遂に雀宝最後のボスを開放し1人プレイだと虹の女王と黒曜、もしくは黒曜2体の組み合わせで2つの席が埋まった状態で挑む事になるんだけど……


 11月は時間を見つけては挑み、12月はクリスマスや年末という日を無視してまで打ち続けるのかという恵森清河の迷いが打牌にも影響し……


 クリスマスから年末までの1週間は今年出会った皆と過ごす事を優先する事にして今は大晦日の23時……


 何やら神社の階段を登った先にあるような、お堂の前に賽銭箱と石畳の広間があって……広間のど真ん中には大きなコタツが置かれ、離れた位置で調理してた凰荼こうだ桐依きりえがコタツまで料理を運んで来ると……


 まずはパジャマ生地のトナカイスーツに身を包んだ佐野さのやま心愛ここあが発言したよ。


「年越しと言ったらやっぱりぃ……お蕎麦そばだよねー!」

「蕎麦って低カロリーだった気がするのですが……」


「チャーシューが入ってるけど薬味の葱がたっぷりで卵黄が載ってるし……月見蕎麦だと言い張れば……」

「コウ……その麺の太さじゃ、うどんの方が説得力あるわ……」


「何でラーメンなのに油そばって言うにゃ……」

「15番手ばんての太麺じゃ蕎麦は無理かー……まぜそばとも言うけど、スープ無しのラーメンが油そば……この味付けは卒業も近い大先輩の秘伝のレシピだよー」


 西郡灯花の後に凰荼桐依、若干呆れ顔で恵森清河がそう言って……一時的に全身を黒いマントで覆う服装を許された暗城ひば……


 最近、雀宝のネット対局で知り合った謎の金髪少女ブラックローザが発言し、凰荼桐依がそう言ったけど……少し間を置いて、更に発言。


「それにしても、厨房を大分再現してくれたおかげでお店と同じ味が出せました……ありがとうございます、ジナ先生」

「金属なら、ここにもたくさんありマスからねー……生成するのに不足している成分はリオナサンが用意して……造って貰いましタ!」


「この地下室、本当に広いね……規模は代用し切れないけど設備自体は汎用スタジアムと同じだし……映像素子も充満してる」

「騒がしい観光客たちの群衆も出現させマスか? それにしても蜜柑では無く、柚子デスか……」


「柚子胡椒は先輩たちが昔からよく使ってたので、即時合成でも結構品質いいんですよねー……」


「ここあちゃんは観光客よりもぉ……神社で、たむろしてるネコちゃんたちがいいなぁー」

「では……野良猫になるとは思えない高級野良猫セットを出しマしょう」


 ジナ先生、夜凪先生、ジナ先生、凰荼桐依……そして佐野山先生が提案するとジナ先生がそう言いながら手元の管理者用ウィンドウを操作し……次の瞬間、賽銭箱の周りにロシアンブルーを主な割合とし、ベンガル、ペルシャ、スフィンクス……そんな猫の品種が何匹か紛れ込んでるような感じで猫の群れが出現。


 数が多いロシアンブルーにはオッドアイだけでなく現実とは掛け離れたカラーリングもあるけど……それよりもラバロン学園の年末事情を説明しようか。


 通常カリキュラムなら夏休みや冬休みなどの長期休暇は用意されてるけど、それを返上して学業に励みたい生徒が大半なので、休日チケットを貯め込んで連休を作るのが一般的……教師にも有給チケット制度があって、ラバロン国外でバカンスする事も許可されてるけど……


 例えば今年の佐野山先生は南国ビーチを再現する企業施設を学園敷地内に誘致してそこで数日過ごしてました……そもそもVR機器でフルダイブして体感時間も弄れば短時間で何十時間もの休暇を取る事も可能……肉体的な疲労まで癒えるかはさておきだけど……


 ラバロン学園は年末年始の3日間前後……つまり、29日から31日と正月三が日は一切の授業を行わず、それまでの各生徒の休日チケットの行使具合を見て、事実上の冬休みを決める感じ。


 連休を作って年内に帰省済みの生徒が多い為、この時期に帰省する生徒は本当に少なくて、ヴェノスから外に出る生徒は数える程度……


 旅行意欲のある生徒の家族にヴェノスの企業が観光プランを提案したり成績優秀者に学園がそれを用意したりするのもあるけどね。


「……アリスが紛れ込んでるにゃ」

「手付きが何か猫っぽいポーズね……」


「それにしてもクロロさん。今日は来てくれてありがとう」

「あこもとさんが年末に友達と集まるから、こうして姿を隠して来てみれば……先生方が3人もいるだにゃんて……」


「今日明日に限り、そのクロロへの市民情報のアクセスが出来なくなってる……教師権限がある私でもダメって事は学園長の仕業ね……」

「そこまでしてくれてたんですか……せっかくまだバレて無いんだから、このまま年を越したいってだけにゃのに」

「その口癖だとバレるのも時間の問題デスね」


「あとさっきからアリスの手の動きに釣られてるわ……」

「にゃ、にゃんですと!」


 クロロとは謎の金髪少女ブラックローザBlack Rosaの事だけど、クロローザに変換すれば納得の略称……西郡灯花の、あこもとはトモカをローマ字変換し逆に読んだだで……恵森清河のハンドルネームはコモリザードKomolizardだったね。


 クロロが猫の群れ中に出現したアリスを眺めながら発言すると恵森清河、西郡灯花と続き……またクロロが発言すると、夜凪先生が目の前の黒マント少女の市民情報のアクセスに失敗した事を告げて……


 クロロ、ジナ先生と発言した後の恵森清河が言ったようにアリスが出現してからの手の動きにクロロはずっと追従してました……そのあと、叫んだのもクロロだね。


 零時が近付くと賽銭箱前に皆で集まってて……7つの液晶タイルで表示する数字にかなりのデザイン性を施した数字フォントによる時刻が空中に表示されてて……残り10秒を割り込むと色が変わり、残り3秒でまた別の色に……その間も一同は声を揃えてカウントダウンして行き……


 零時を迎えた時、掛け声の中でハッピーニューイにゃーと言ってしまったのは謎の金髪少女だけど……トナカイスーツの佐野山先生も猫ポーズ取りながら同じ言葉を発してたりします。


 その後ろではアリスも同じポーズを取ってます……その直後、堪り兼ねたリオナに学園長の部屋に強制転送されたけどね……


 今年の一番最初に、あけましておめでとうって一番の姉に言う為に……


 新年が明けて少し経つと、佐野山先生がクロロに言う。


「年も明けたし自己紹介しちゃう?」

「バレるのが先か、クロロの方から言う事になるのか……それを楽しみに過ごしたいので……」

「あれ? にゃが無い……」


「何か気付いたら言うようになってて……意識すれば出さずに済むんですにゃ……あ」

「若くて可愛い内は、若くて可愛い言葉遣いしていいんだよ? ちょっとした事でも大人になったら出来ない事ってある……若い内にやっちゃうのもありだよぉ?」


「それじゃ柚子塩ラーメン作るから……ラーメン初めしたい人は手を挙げて」

「ジナサンは食べマス」

「うー……気持ち程度の量なら……食べる」


 クロロが普通に喋った事の違和感のまま発言した西郡灯花……


 クロロの答えに佐野山先生が心成しか湿っぽくて沈んだ調子の声色でそう言って……凰荼桐依の提案にジナ先生と遠慮気味だけど西郡灯花が乗り……


 そんな光景から一度離れるかのように何もない所へ視線を向けた恵森清河がおもむろに口を動かし、静かに呟いて行く……


「今年こそ……打ち滅ぼそう」


 やがて恵森清河が黒曜と虹の女王を越えた先にいる雀宝裏ボスの名を言った後……再び賑やかな光景へと視線を戻しました。


 この年の4月は北内きたうち桃奈子もなこが入学して来て、9月には岩瀬いわせ麻七まななも入学して来るんだけど……恵森清河の昔話を語るのはこれくらいでいいかな……翌年の6月も迫る頃に塔子が麻雀部員になった日も恵森清河は裏ボスに挑み、そして敗れた……


 つまり1年半以上ずっと、戦ってる――


 そんな来年は西郡灯花がやっとスカートを履くようになった年だったりします。


 それじゃあ塔子とロットナー卿と……紅玉と竜姫との東風戦に戻ろうか……


 塔子の待ちは萬子の7999……7ワン単騎と嵌8ワンだったけど……


 塔子も竜姫も互いのロン牌を掴む事無く、ロットナー卿も紅玉も振り込む事も起きず、流局……これが竜姫の手牌でした。


 萬123赤55筒345索888北北。


 役自体は立直のみ……


 ちなみに第1ツモは赤5ワンで裏ドラは東……最後の1枚の北はロットナー卿が抑えてたよ……三元牌が全て通って東でも南でも西でも無いなら北しか無いからね。


 そんな北で単騎待ちして形式聴牌をする打ち方もあるけど……親の塔子が立直してる分のアタリ牌もあるから、オリるのが賢明。


 この局は2人聴牌で終わり、南3局2本場へ……今回は鳴きが結構あった末に塔子が面前で立直……序盤は鳴いてた紅玉も今はオリてて、鳴きが重なった事により次の巡で塔子に海底牌が来る……


 とりあえず点棒状況を確認しておこうか。

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