第33話 故に少女は破壊を誓う【麻雀回】

 南入して迎えた南2局2本場は積み棒の他に立直棒が1本……


 点棒状況は東家のロットナー卿が2万8100点、南家の塔子が2万3400点、西家の竜姫が2万3100点、北家の紅玉が2万4400点……塔子はここで一気に満貫で決めてしまうか、次の親番で安い和了で3万点に届くようにしておく為に軽くアガっておくか……


 そんな判断を左右する塔子の配牌がこちら……


 萬1448筒6索334赤59西北中。ツモ筒1。トラは表示牌が赤の萬6。


 ドラ表示牌が4の時は赤牌の5はドラ2枚分になるけど……ドラ表示牌が赤牌だと扱いは5の時と同じで、既に赤牌が1枚場に出てる事になるだけ……


 塔子は1ピンをツモ切って5巡進む内に中も3枚目として切る事が出来て……手牌はこうなった。


 萬124468索334赤59筒68。ツモ索5。


 一気通貫もありそうだけど赤5ワンは来ないし、ここは喰いタンでもいい……塔子もそう思ったのか9ピンを切り、更に進んだ8巡目の塔子の手牌。


 萬124468赤5筒68索3345。ツモ萬7。


 判断が難しいけど、3面子使う一気通貫と、2面子使う一盃口は、同時には作れ無い……赤5ワンがドラ表示牌で使われてるから、ここは喰いタンにも移れる1ワン切りか……


 どうやら塔子もそう思ったみたいだけど、その1ワンを切った瞬間――


「俺が鳴けないまま竜姫が立直か……」


 そう発言したロットナー卿はアガりさえすればトップで終局する条件だったね。


 塔子が様子を見ながら打牌する中、ロットナー卿は2巡連続で鳴く事が出来て、3巡目はツモ切り……塔子がオタ風をツモ切ると、竜姫も同じ風牌をツモ切り……


 そして、さっきから安全な牌を切ってた紅玉が動く……


「既に張っていたか紅玉! 幾らだ?」


 ロットナー卿がそう叫んだけど……聴牌してる事を張るとも言います。


 紅玉は2万4400点……積まれた分も含めて5600点以上が条件の中、和了した注目の手牌は……


 萬12789筒222777索99。ツモ萬3。ドラ萬6。


「30符一翻……?」


 塔子がそう呟いたけど子の30符一翻は子から300点、親から500点……


 2本場なので1人200点が加わり、500点と700点……更に竜姫の立直棒が2本あるので合計3700点が紅玉に入り南3局へ……


 点棒状況は東家の塔子が2万2900点で、南家の竜姫が2万1600点、西家の紅玉が2万8100点、北家のロットナー卿が2万7400点。


 巡目が深い頃、次が親番の竜姫が立直した直後、塔子も聴牌し立直……


 それから数巡後、ロットナー卿が叫びながら言う。


「少し遅れたが……決着をつけるぞ! 俺も立直だ!」


 立直宣言牌は通り、トップの紅玉が3軒立直に取り囲まれる状況に……


 そんな南3局0本場だけど恵森清河の昔話をします……虹の女王に挑み続けるも、半荘8回目に辿り着いた事がまだ一度も無いまま8月が終わろうとしてて……ラーメン部室にいるけど、ラーメン食べない日も結構あるという補足を入れておくね……


 というわけで恵森清河と凰荼こうだ桐依きりえ夜凪やなぎ先生がいて……こんな会話してます。


「ねぇ……コウ」

「お、えもりんー。呼び捨て始めちゃう?」

「あ、ごめん……」


「最近の恵森、何か気が立ってるね……集中力が上がって難しい問題を解く時間

が減ったのは喜ばしいけど」

「ありがとうございます……えーとね……何か、ちゃんって呼びたい気分じゃな

くて……自分が弱々しい口調でいるのが最近……気に食わなくて」


「雀宝……だったよね? 裏ダンジョンのボスに会う為にずっと挑み続けてるっ

て……」

「その道中突破の条件が、いくら打っても満たせなくて……」


 恵森清河がそう呟くとラーメンを大分食べ進めた夜凪先生が言います。


「ま、何にせよ。麻雀に入れ込んで成績が落ちるどころか上がってるんだから、教師としては特に口を出す事じゃないな……私への言葉遣いはそのままだし……この調子で頑張って行けば成績ランク帯の1つ上に行ける見込みだってある……今月末の卒業試験を合格すれば事実上ランキングからいなくなるし……最上級生になったら残るけどな……そういやクスノキはどうすんだろ」


 そう言ってると一同が集まる席の傍にラーメンを置く生徒の姿が……まぁ、相変わらずの服装の西郡灯花なんだけど……辺りを見渡した西郡灯花が発言。


「大分落ち着いて来ましたねー……一時は凄かった」

「何かその辺を歩く度にソルトクエスターって聞こえて来て……選手権が終わった月は、塩の消費量が半端じゃ無かった……」


「追試おつかれ……トモカ」

「全部筆記なの辛い……あと恵森さんの呼び捨てにちょっとビックリ……恵森さんなら嫌じゃないけど」


「虹の女王との戦いが終わらなくてさ……強く在りたいって言うか……」

「時々野良であの競技ルールやってるけど……配牌見て、この局は勝てないって時の絶望感、半端じゃない……強い心を維持したい気持ち……解るなぁ」


 凰荼、恵森、西郡、恵森、西郡の順に発言。


 ラーメン選手権の結果は既に話したけど凰荼桐依たちが凱旋した週は本当に大盛況で、世界五大国家の富豪やその専属コックが凰荼桐依の塩ラーメンを求めて日替わりで訪れたり、それ以降も久し振りにラーメンが食べたくなった生徒たちが連日押し寄せたり……


 それを見越してヴェノスの業者たちが結構優良品質の麺の材料や食材を廉価条件で大量に売りに来てたので何とか品切れは防げました。


 さて9月になり、西郡灯花が勉学に悩みながら雀宝経由でネット麻雀を打つ中……恵森清河は虹の女王に挑み続け、自分の打ち方を麻雀の本や牌譜再生機能も活用して見直し……10月になっても半荘8回目に満足に辿り着く事が出来なくて……


 この日は8回目に辿り着くも点差は絶望的な上に、高い手が入った南場での親番も頭ハネを理由に連荘を逃し、その後のオーラスも今後の景気付けにトップを狙うも、2着で終わる……3万点以上が何名になるかで順位点が変わるから、その状況が動いただけで神経磨り減るのも辛い所かな。


 時刻的に本日最後の挑戦だったので、恵森清河は心の中で大きな溜め息を吐いて、体だけはその動きに合わせてたんだけど……やがて心の中での独り言が始まります。


「昔は……壊れるのが怖くて、壊せるアタシが好きじゃ無かった……この世界には壊せるものが多い……だから壊れないように、そっと触るようにして来た……でも今はこれからは――」


 言葉を発す事無く更に続いた想いは静かなようで熱のある感情を帯びてて……


「目の前に壊せるものが、壊したいものが現れたら……壊せるようになりたい」


 そこまで思考を巡らせた恵森清河は大きな溜め息を実際に吐き……強い感情が滲み出るように静かな声色で、こう呟いた。


「どうすれば、いいのかな……」


 ちなみに夜凪先生が言ってた生徒……クスノキは9月実施の卒業試験に合格し最上級生では無く、自ら事業を立ち上げる事を選んだよ……塔子とロットナー卿の対局の真っ只中だったし戻るけど……その会社は今も健在です。


 状況は南3局0本場で巡目的には中盤で紅玉以外が三軒立直状態……流石の紅玉も安全牌が尽きて危険牌しか無くなれば振り込むし、その前に他の誰かがロン牌を掴めばそこで終局する見込みも高め……何しろ立直棒3本分の点が入るからね……


 まさに勝敗が決まるクライマックスに相応しい状況。


 でも麻雀は都合よく行かない時もあって、このように空気を読まずに流局したりします……じゃ、そんな手牌たちを見てみようか……


 南家の竜姫、萬2233筒4488索6東東白白。


 東家の塔子、萬234筒3赤5索66888南南南。


 北家のロットナー卿、筒11144789白白北北北。


 ドラは2ピンで、その隣のカンドラをめくれば6ソウが顔を出してたから、紅玉の防御性能関係無しに流局する事が決まってた局面だったんだよね……ロットナー卿が裏ドラ表示牌が中だった事を確認すると、微妙な顔を浮かべたりもしました。


 麻雀牌は1種に付き、4枚……だからこういう事も起きたりします……でもこれは自分の手牌とホーでしか情報を得られ無いからこそ、起きた事も言えるね。


 竜姫は聴牌即リーで他家をオリさせて親を迎えたかった。


 塔子は赤5ピンをツモって来た勢いを信じて立直した。


 ロットナー卿はツモリ三暗刻で倍満まである大物手で打って出た。


 それぞれの思惑が絡み合うとは、この事だね……


 さて、塔子が聴牌してたので南3局1本場で積み立直棒が3本の状況になったけど……ちょっと恵森清河の昔話を再開……


 ハロウィンの行事は今も有名でラバロンでは初期制服の生徒たちのお洒落欲が発散出来る日でもあるので、月末は申請された仮装が許されます。


 そんなイベントを一緒に楽しまないかという誘いも半ば断って、恵森清河は連日、虹の女王と黒曜との戦いに明け暮れ……ハロウィン前日、トップを取れば条件達成という好条件で半荘8回目のオーラスを迎えた恵森清河だけど……


 それも半荘7回目のオーラスの時の3着時に立直に踏み切ってツモアガリしてトップを取っていたから……その局面と比べれば最後のオーラスはあっさりとトップを取り。競技ルール設定の時なら虹の女王と黒曜をフリー対局時のCPUに選べるようになりました。


 恵森清河は勝利の余韻に浸るとは違った様子で自室の中を佇んでて……やがて呟きます。


「……そうか」


 今回の半荘8回は決してラクな道のりでは無く、負ければそこで終わるような難局が多かった……


 でも恵森清河はそれに怖気付かず、目の前のものを打ち消すかのように攻めと守りの判断を的確に選び……時には強引な打ち方もして、今回の勝利を得た。


 それを成す為に必要だと感じたものを……恵森清河は言葉にする。


「滅ぼせばいいんだ……アタシの目の前に壁として現れたもの、全てを――」


 これで恵森清河は雀宝に用意された最後のボス戦とその存在に挑めるようになりました……恵森清河がまだヴェノスで両親と暮らしてた頃、怪しげな男性3人を追った末に目の当たりにしてから結構年月が経ったね……


 そういえば地獄待ちの説明はしたけど、生牌ションパイの説明がまだだった……河だけでなくドラ表示牌やカンドラ表示牌などを含めた牌情報全体をと言って……


 場に1枚も見えていない牌が生牌で、場に1枚以上見えている牌を熟牌シュウパイ……つまり1枚切れ、2枚切れの牌の事だね……そして場に3枚見えている牌の事をラス牌と呼ぶのが一般的……


 ちなみに生牌は初牌しょはいという別名もあるけど……見事に日本語だね。


 それじゃあ塔子とロットナー卿の東風戦へ戻ろう……


 南入の終了条件を満たさぬまま迎えた南3局1本場……前局の立直棒が3本に積み棒が1本……3万点突破を狙い易くはあるけど、少しでも振り込めばラスに転落して試合終了になるリスクもある状況……


 とりあえず、もう半荘戦と同じくらい試合が続いてるね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る