第32話 揺れ動くのはウマ味ある湯気……?【麻雀回】

「あー、昨夜惜しかった!」

「流石に牌勢続かなかったですね……」

「ま、出題する側も一発クリアは実は悔しい……でも麻雀って運の要素もあるって聞いたが……」


「欲しい牌が王牌って所にあったら、その手は最初からダメだったり……どちらを切るか迷った時、それが勝敗の分かれ道だったり……」

「そうなると同じ手に見えて全然違う時がありそうだなぁ……にしてもこのトロピカルラーメン美味いなぁ……柑橘類の程よい酸味と油の旨味の融合具合が絶妙だ」


 ラーメン部室にて恵森清河の少し大きな叫び声が響くと西郡灯花が発言し、それに夜凪蛙子が疑問を浮かべたので西郡灯花が答え……再び夜凪先生がラーメンを食べつつ、そう述べた……このように夜凪先生は生徒には少し男っぽい口調になりがち。


 流局時に14枚残る牌が王牌ワンパイだけど……例えば単騎待ちの牌が既に場に2枚見えてる時、その待ち方を地獄待ちと言って……その最後の1枚が王牌にあったら、それはアガれない手になる……


 この牌が来れば勝てるって状況で、その手が和了出来るか配牌時に既に決まってる場合があるって事だね。


 あと牌勢はいせいというのは、手牌が出来る勢い……という感じで具体的には……


 萬1349筒338索169東西白。第1ツモ直前。


 牌勢はツモ牌の勢いとも言えるので悪配牌の方が説明になりそう……つまり、この手牌が無駄ヅモが無いも同然で次の手牌になる事を『牌勢がいい』と言います。


 萬123筒123索12399白白。最速だと7巡目。


 そして牌勢がいい時は白でツモ和了する……22334の一盃口両面待ちの時でもタンヤオの付く4でツモ上がり出来たり、両面が入って辺張が残りそうな手で辺張が先に入って両面聴牌したり、そんな感じだね……もう一例として……


 萬56778筒22456索456。


 ここでダマを維持してた場合、赤5ワンが来て打8ワンのタンヤオ一盃口聴牌になるか、8ピンが来て打5ワンの高めタンヤオ一盃口の平和が確定するか、4ワンが来て打7ワンの高め三色の三面張になるか……その後、安めの9ワンが来たり、そもそも手牌が変化しない場合は牌勢が悪い、と言えるね。


 夜凪先生が更に発言し、会話が続くよ。


「しっかし恵森は勉強頑張ってるが……ここからは伸び悩みそうだな。恵森が今いるランク帯から上は頭の出来が全然違う生徒たちばっかりだ……」

「恵森さんの時点で既にヤバイ、のに……?」


「恵森は時間を掛けて理解するタイプだから、問題を解く時もじっくりだ……間違いが無いか確認する事で失点を抑えている……だが上の生徒たちは迷わず正確に問題を解くから恵森が悩みながら解くような難問を短時間でこなして行くんだ……更に上位の生徒はどんな難問でもそのスピードが鈍らないから成績ランキングの上位争いは無理して近付くもんじゃない……とりあえず西郡は私んとこ来れるよう頑張ってくれ」


 というわけで今は恵森清河の昔話の続きで……今夜は西郡灯花と一緒に青の少女と竜姫への挑戦3回目となる日……プレイヤーが1人だと蒼玉もいるけどね。


 半荘6回打って総合得点がトップでクリアだけど、この対局では持ち点が3万点なのでトップ賞が無くて、順位点じゅんいてんというのが発生……順位ウマとも呼ばれるこのルールは1局が終了した際に順位が確定した後にトップと2位がラスと3位から点数を貰えるというもので……


 5・10ゴットー10・20ワンツー10・30ワンスリーなどがあり今回のボス戦では10・20……つまりラスはトップに2万点支払い、3着は2位に1万点支払う……


 持ち点2万5000点だったらトップには更に2万点入るけど、今回は持ち点3万点なので、この方式で清算を行った後に次の対局……それを6回繰り返すんだけど、このボス戦の場合は半荘4回やって総合点が低過ぎた場合そこで終了するラインもあるから調子が悪いと挑戦回数が嵩む……


 ちなみに今夜は徹夜チケットの発行が許されたので、朝まで打てます……成長期の徹夜は避けたいものだけど、勉強や部活の出し物の準備の追い込みがしたい生徒の為に用意されたラバロン学園独自の制度です。


 その結果、明け方頃には西郡灯花が先にクリアした後、恵森清河もクリア……これで雀宝の最終ストーリーが開放されたけど最後はストーリー優先で、今までのボスと東風戦で戦い、トップを取り続けてれば最後のボス戦が開放され、総合点がマイナスになるかラスを引くと対局終了になる……


 ストーリー上の雀宝のラスボスは状況によって竜姫と紅玉の打ち方に切り替わり、最終局の総合点がラスボス以下でもトップであるならゲームクリア……


 だから恵森清河と西郡灯花が雀宝のエンディングを見るまで、この日からそこまで時間は掛かりませんでした。


 いい加減、塔子とロットナー卿の対局に戻りたいけど、この時期にはこんな出来事もあったので、それを紹介してから……


 その女子生徒は入学1ヶ月目の魔法実技は学力試験もあるので、そっちに専念したいと見送って2ヶ月目の魔法実技試験会場にやって来た……射撃テストと迎撃テストを受けた際の女子生徒を見た周囲の生徒たちの反応を幾つか並べるよ。


「畜生! 魔法が真っ直ぐ飛ばねぇ! ……な、何だあの女! 魔法を撃ったんだよな……? いつの間に……?」

「射撃の的が跡形も無い……何て威力なの……」

「おいアイツ迫る射撃を全部、魔法で打ち消してるぞ……まさに迎撃だぜ……」

「急に黒い壁が迫り出した! あの子……防御魔法も使えるの!?」


 そして彫刻テストになり、木材、金属、合金のどれを選ぶか聞かれ、その女子生徒は合金ブロックを選択……接近すると足元から黒い1本の触手を伸ばし、その先端の形状は剣……


 黒い触手を大きく振り被って……その鋭い刃を合金ブロックへ振り下ろすと辺りに金属同士が衝突した際に出る鋭い音が鳴り響き、黒い剣が若干ながら合金ブロックに突き刺さってるのを見て、その金髪の女子生徒は呟きます。


「ノミの形状にすれば彫れそうかな……簡単な文字でも掘るかにゃ」


 次の瞬間その女子生徒の足元から周囲に3本くらいの黒い触手が発生し、その先端は全て平刀……素早く彫り進める事、30分……


 合金ブロックには『立』と『直』の大きな2文字が縦並びで彫られてて……漢字に間違いが無い事を確認した瞳の色が結構鮮やかなアメジストの女子生徒が言います。


「来月は發でも掘ろうかにゃ……見ながらじゃ無いと自信無いから資料の持ち込みが可能か聞いておく必要があるにゃー」


 要は当時のあんじょう雲雀ひばりでした……じゃ南入した塔子とロットナー卿の対局……南1局0本場の様子を見ようか……


 竜姫が立直したのを見て塔子は鳴いて聴牌を目指し、ロットナー卿もやがて聴牌したけどダマ……例えば塔子の手が30符四翻だった場合7700点だけど……


 現在2万900点の塔子がこの状況で和了した場合、竜姫の立直棒と合わせて2万9600点……仮にロットナー卿が立直してて、それが加われば3万600点になり試合が終わってしまう。


 だから今は立直棒1本出すのも命取りになり兼ねない局面……


 結果は親の紅玉が防ぎ切り、1人ノーテンで流局……流局したので1本場となり、これで南1局は終了……だから次は南2局1本場だね。


 点棒状況は東家のロットナー卿が2万6600点、南家の塔子が2万1900点、西家の竜姫が2万4600点、北家の紅玉が2万5900点……そしてここでアガれば前局の竜姫の立直棒の1000点が入る……


 この局は流局し、ロットナー卿がやや苦しそうな顔と声で手牌にあるチュンの対子を眺めながら呟きます。


「この中を鳴いて軽くアガっておきたかったんだがな……」


 親であるロットナー卿と塔子の2人聴牌だったから南2局2本場へ……これで立直棒合わせて1600点が場に積まれてて……


 点棒状況はロットナー卿が2万8100点、南家の塔子が2万3400点、西家の竜姫が2万3100点、北家の紅玉が2万4400点……


 つまりロットナー卿が親の最低点である1500点をアガるだけで3100点になるのでかなり手軽な終了条件……そんな中、竜姫が聴牌し立直する。


 そろそろじっくり眺めた方がいいかな……とりあえず恵森清河の昔話の続き……


 夜食には早い時刻だけど、恵森清河がラーメン部の厨房でラーメンを麺から作ってて……以前話してた親子丼風ラーメンが運ばれる頃には恵森清河に取ってはいつもの面子が同じ場所に集合してる。


 凰荼こうだ桐依きりえは明日のラーメン選手権に備えていないけどね……


 恵森清河を含めたラーメン部員6人中4人が出場する事になり、今日はもう1人の部員と恵森清河でラーメン部が活動してる感じです……夜凪先生が言うよ。


「恵森手製のラーメン……一度食べてみたかったんだよなー」

「夜凪サンから話は聞いていました……楽しみデス」

「これ食べたら、しばらく運ぶ手伝いしますね……」


「ここあちゃんは親子丼自体が久しぶりだよー! それがラーメンで食べれる何て、感激ぃ!」


 ジナ先生、西郡灯花、サロペットデニムを着た佐野山先生の発言が続いて……恵森清河は、もう1人の部員が作った醤油豚骨ラーメンを食べ始める……


 各々が親子丼風ラーメンの感想を言って場が賑う中、麺を啜る恵森清河の手が止まると溜め息を吐き……落胆したような声で呟く。


「……勝てない」


 恵森清河はここ数ヶ月学力総合ランキングから落ちてるけど、学力自体は低下してないので成績の話では無いと判断した夜凪先生が黙ってると……ジナ先生と西郡灯花が発言します。


「雀宝のエンディングはもう見て、裏ダンジョンが開放されたんデスよね?」

「私は3回挑戦して、もういいかなーって思った……半荘8回やるなら、ネット

対戦で野良打ちした方がいい気もするし……」

「あっつ! うーん、まだ丼は持てないなぁ……」


 最後に早くもスープを飲もうとした佐野山先生がそう言って……夜凪先生からレンゲを手渡されました。


 雀宝のストーリー対局を最後までクリアする事により開放された裏面のボス戦に恵森清河はずっと挑んでて……


 持ち点3万点で順位点はトップ状況で変動……原点である3万点より多ければプラス、低ければマイナス……終局時にプラス者が1人の時は1位1万2000点、2位1000点マイナス、3位3000マイナス、4位8000点マイナス。


 プラス者2人の時は1位8000点、2位4000点、3位4000点マイナス、4位8000点マイナス。


 プラス者3人の時は1位8000点、2位3000点、3位1000点、4位1万2000点マイナス……そして全員がマイナスの時は持ち点順でプラス者2人の時と同じ配分……


 対局中に持ち点がマイナスになっても飛ぶ事は無く半荘3回目と5回目の終了時に点差の開きが一定より大きい場合はそこで対局打ち切りになる。


 これに赤牌どころか一発も裏ドラもカンドラも無いから、負けても運のせいに出来ない競技性を高めたルール……


 この条件でクリアする事により、以前恵森清河が目撃した雀宝最強のCPUが開放され、その前に立ちはだかるのは、このルールに基いて打牌するようプログラムされた黒曜と虹の女王……


 1人で挑む時は黒曜2体と虹の女王1体で固定……3人では挑む事が出来なくて、

2人の時は黒曜と虹の女王が1体ずつ……


「しっかし、明日のラーメン選手権……今度のバルサミアはどんな、おかしな食材を持ち込んで来るのやら……」

「ジナサンは楽しみデスよー。今年はどんな新生物の肉を開発して来るのか……去年の新生物は買ってしまいましタ」

あかねはまた高級食材詰め込んだだけのラーメン出してくるのかなー……もっと生徒たちに自由に作らせればいいのにー」

「VR機器持ってる知り合いに頼んで、放課後は再現会場に行ってみようかなぁ」


 引き続きラーメンを食べ進める夜凪先生、ジナ先生、佐野山先生、西郡灯花がそう言ってて……ジナ先生は生物工学にも明るいので件の新生物のほぼ全権を衝動買いながらも購入してたりします……学園内にはジナ先生だけが自由に使える、ガチな研究設備もあるけど、大抵は日曜大工程度に嗜むだけだったり……


 佐野山先生が言った茜場というのはレッドネヴァズの事で、赤ネヴァズと呼ばれる内に茜場という略称が定着した感じ……


 再現会場というのはフルダイブしたVR空間内に現場から取得したデータを基に、3次元映像を構築したもの……


 そんな風に会話が続いて行き、佐野山先生がひと際大きな声を上げた時は恵森清河が丁度こう呟いてて……誰の耳にも拾われる事なく掻き消えていました。


「気弱なアタシ……やめてみるかな」


 それからすぐに恵森清河がずっと無言なのに気付いて、皆が次々と声を掛けて来る光景もあったけど……


 そろそろ塔子とロットナー卿の対局場面に戻ろうか。

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