第30話 青い悪魔は奇妙な泡を召喚したりしない【麻雀回】

「ツモ。中ドラ3。3900点オールっと」

「1本場だから他家から更に100点ずつ……4000点オールだな。しかしドラ中暗刻アンコとは調子がいいな」

「チーした後に重なったー」


 塔子とロットナー卿がそんな会話してて……塔子の手牌はこうでした。


 筒45678西西中中中……チー索657。ツモ筒3。ドラは中。


 筒子もチーした後に一気に伸びてたね……


 副底20符、字牌暗刻8符、ツモ2符……合計30符だけど西が役牌対子だったり、44西西とシャンポン待ちとかで、あと2符あれば40符になる形……親の喰いタン仕掛けにも見える一副露だったけど、79の嵌張を鳴いてたら字牌は警戒対象になってたかな……


 それでは東3局2本場……塔子が3万6600点、竜姫1万8800点、紅玉2万5700点、黒柴1万8900点……巡目が進み、二副露の塔子を見てロットナー卿が言います。


「……乗ってるな」


 塔子の手牌は以下の通りで、まだ揃ってない……ドラは東。


 萬222379白……ポン發發發ポン東東東。


 既にダブ東發ドラ3とオヤハネが確定してて、ホンイツか対々和が付くだけで親の倍満……2万4000点と2本場の600点……


 ロットナー卿か竜姫に当たれば持ち点がマイナスになるから箱点はこてん……他の呼び方はハコ、ハコテン、トビ、ドボンと多いけど、誰かの持ち点がマイナスになった時点で対局を終了するルール……0点だと続行かは取り決め次第で雀宝なら継続します。


 次の親が来る事無く終了まである手が入った塔子はやがて8ワンをツモって白を切り……2333の変則三面張……さっきからツモ切りが続く竜姫が手にしたのは塔子の現物だったのでツモ切り……


 そして次の瞬間――


「紅玉が振り込んだ……だと?」


「親倍だったんだけどなぁ……残念」


 8ソウを切って以来ツモ切りを続けてた竜姫の次の手に紅玉が振り込む。


 萬34赤588筒34赤5678索46。ロン索5。


 つまり闇聴のタンヤオドラ2で5200点と積み棒600点……竜姫の捨牌は他の河を鑑みて5より下の三色を狙ってる捨牌で8ソウは468のリャンカン形から切ったものと推測し、竜姫は46が34になり次第立直しそうな手……


 勿論既に完成しててダマである可能性もあるけど、5ソウは塔子の現物なので塔子に当たる心配は無い……だからこれは竜姫に放銃する為に切った5ソウだね。


「5800点か……差し込みと言うには痛いな」


 ロットナー卿がそう呟いたけど、竜姫と紅玉は攻撃型と防御型の他に、もう1つ大きな違いがある……それは竜姫がトップを狙いに行く打ち方をするのに対し、紅玉はプレイヤーにトップを取らせない打ち方をする事……


 そして自分がトップの時はそれを守り抜く打ち方をし、今回は塔子の2万4000点を満貫が出来てるかもしれない相手に振り込む事で阻止した感じだね。


 そんな雀宝の鎧シリーズはすいぎょくそうぎょくこうぎょく黒曜こくようの4体で鎧のデザインと背丈が全て異なり、黒曜の鎧にだけは宝石が散りばめられてない……中身が全て女性キャラなのはストーリーモードを最後までやると判明します。


 東風戦なので次の東4局でオーラスだね……ここで恵森清河の昔話の続き、この日は恵森清河と西郡灯花が先生の部屋を借りて映像素子充満空間の条件で雀宝のボスに挑みます。


 このプレイ環境なら雀宝に標準搭載されてる全自動卓が使えるし……この部屋には投影された牌に手を触れれば動かせる処理を施す設備もある。


 そんなリアル牌麻雀と勝手が変わらない所で打てるのは恵森清河の学業の頑張りを見た教師が貸してくれたからで……ボスが姿を現した時、その教師が呟いた。


「これが本日のお相手デスか?」

「はい。サファイアデーモンとグリーンバード……勝利条件が……」


「半荘4回でサファイアデーモンの総合得点を上回る事……」

「順位ウマ無しのトップ賞のみで、かぁ」


「ジナサンは今度の追試テスト作ってますのデ、賑やかに過ごしてて下サイ」


 恵森、西郡、恵森、教師が発言してるけど、グリーンバードは緑を基調とした服装の吟遊詩人bardで、竪琴と羽飾りのある鍔広の大きな帽子が特徴……その慎まし過ぎる胸の膨らみと男性並みの背の高さも相まって、女性キャラだって事に気付かないプレイヤーは多い……


 サファイアデーモンはまず全身がサファイアの色と質感を放つ皮膚を持つ人型モンスターを想像し、今度は長い水色の髪とその所々程度にマゼンタの差し色が入ってて肌は普通の色をした瞳が赤い少女を思い描き……


 その頭部には角が何本かあり内側に曲がる2本が目を引いて……その両腕には長手袋、両脚にはオーバーニーソックスの範囲が最初に想像したデーモン部分で、手足は人間をベースとした形状で足が鍵爪になってるくらいだけど……


 腕の方はある程度肥大化してて、大きな腕と太く鋭く伸びた鉤爪は威圧的で角の色が黒なのに対し、その鉤爪の色は血のように赤い……


 人間部分は大人びた体型の少女なので胴体の要所には角と同じ色の鱗状とも言えそうなものが分布し、下の覆われ具合にはデザイン性もあり、脚の根元付近が覆われる事により絶対領域が形成される事も視野に入れてそうな分布……大きく膨らんだ胸の部分はブラジャーの下半分くらいの面積で両側が繋がってる感じ……


 そんな風貌だけど、その表情は何処かぼんやりしてるから何かとコントラストが激しい悪魔っ娘がサファイアデーモンだけど……


 その背中には大きな両翼が生えてて、被膜部分はサファイアの色が一層眩しい煌めきを放つので動かす度に明滅しています……翼の鍵爪部分は黒だけど、この翼が無ければ背面部分は本当に涼しそうな露出具合になってたね……


 さて半荘4回の結果は恵森清河が1位、サファイアデーモンが2位、グリーンバードが3位、西郡灯花が4位と一発で勝利。


「トモカちゃんの犠牲が大きかった……」

「でも一発で達成しましたね」

「西郡サンがクリア出来なかったようなので、引き続きどうゾ」


 今日は2人とも休日を取り、早い昼食後に挑んでたのでまだ夕方か怪しい時刻……教師の言葉に甘えて早速、サファイアデーモンに再挑戦する恵森清河と西郡灯花だけど……この教師は物理、化学、生物、プログラミング……それを高等教育カリキュラムに入った生徒から最上級生が受ける大学授業までこなすトップクラスの教師。


 最近物理を勉強してテストを受けるようになった恵森清河が最初のテストを一発で合格した上で解らない所を聞いて来たので気に掛けるようになって……


 そんな背丈低めの女性教師はワインレッドの大きな魔女帽子とローブを身に着け、服は上質な素材による落ち着いた色合いの紫色の袖なしワンピースの腰部分を意匠も施された金色の金属部分があるベルトで留め……


 靴はベルトと同じ革製で色も同じ高級なチョコレートを彷彿とさせる艶やかな光沢を放つ濃厚な茶色……靴自体は足首までをカバーする形状……


 そんな水色の長い髪をボリュームたっぷりのゆる編みお下げにし、アメジストの瞳は淡いながらも透明感がある女性の名前はジナスイーダ・エリエニコフ……


 胸は夜凪やなぎ蛙子あこくらいなので大きい部類で……着やせしがちだったりします……ちなみにサファイアデーモンの水色の髪はもう少し青味が強めだよ。


「トモカちゃんを勝たせる為にダマ見逃しからの直撃を狙っちゃった……」

「半荘4回は長いし、またやり直しは避けたいとはいえ……でもトータル戦だとトップだった時に2位を1位にさせない為に他の人をトップにするよう打つのってありなのかも……」


「クリアおめでとうございマス……恵森サンには出来立ての物理テストをこの部屋でならデータ筆記で解く事を許可しマス」

「じゃあ夜ご飯食べたら、また来ます……復習したかったし」


「恵森さん、もう物理まで進んでるんだ……」

「でも合格点ギリギリだった……」


 恵森、西郡、ジナ先生、恵森、西郡、恵森の順でそう発言。


 前述の通り恵森清河はその範囲のテストを合格してて理解が曖昧だった部分を補強したいなら嬉しい提案……恵森清河が数学の理解が物理を学習するに十分なレベルだと思った夜凪先生がジナ先生を恵森清河に紹介しました。


 ジナ先生の頭脳は高度だから生徒のレベルに合わせて問題難易度を下げる際は夜凪先生に助力して貰うから互いの親交は深い……


 さて塔子とロットナー卿の対局に戻る前に、この時期のある日の出来事……まずはここ最近、西郡灯花が他の生徒たちに言われた発言を適当に並べて行くね。


「おはよう。西郡さん……今日もデニムパンツなんだ」

「ねぇ、西郡さん。あなた結構胸あるんだからシャツだと目立つよ……いや、服装は地味だけど」

「西郡さん……もしかしてそのブラジャー……ラクダ色?」

「わーん! ダサイ服装の試験官が炎をどんどん撃って来るよぉー!」


 西郡灯花は射撃テストの試験官の常連なのでブロンズバッジを維持出来るから常に私服……皆がお洒落な服装に憧れてカッパーバッジを目指す中、お洒落という概念を放棄したかのような服装で学園内を闊歩するのが西郡灯花で、この時期はスカートすら履こうとしなかったんだよね……


 そして肌寒い日は初期制服のカーキコートを羽織ってるし……安売りの微妙な図柄がプリントされたTシャツのバリエーションに関しては豊富だったりします……


 それじゃあ戻ろうか……東4局0本場、親の竜姫が2万4600点、南家の紅玉が1万9900点、西家のロットナー卿が1万8900点、北家の塔子が3万6600点……オーラスなので塔子が1000点でアガるだけで試合終了……


 だから塔子は早々と二副露するけど……


「まぁ2着狙いの立直だ」


 ロットナー卿は捨牌からしてメンタンピン……喰いタンで逃げ切ろうとした塔子はまだ聴牌してない……防ぎ切って流局した時に親である竜姫が聴牌してなければオリてもいい状況……ロットナー卿がハネ満アガっても塔子の点数には届かないからね。


 塔子は1枚しかない現物を面子から切ってオリようと思ってるみたいだけど……


 竜姫が現物をツモ切った次の瞬間、ロットナー卿が呟く。


「紅玉……ここは攻めるか」


 紅玉も危険を顧みず立直……既存の立直を追い掛ける事から、この行為を追っ掛け立直と呼びます……しかも同巡だからロットナー卿の一発がまだ消えてない……


 切ろうと思ってたロットナー卿の現物は通ったけど、次に切る牌に困った上に現物が増えなかった……そんな塔子が次にツモったのが1ソウでタンヤオは付かないからと塔子がツモ切ると……


 ロットナー卿と紅玉にロンされる、ダブロンという事態が発生。


 頭ハネが採用されてれば塔子から見て先にツモれる紅玉のみのアガりになったけどね……ダブロンありでも立直棒の総取り者は頭ハネで決まりがちで、雀宝もそう。


 とりあえず先に立直したロットナー卿の手牌から……


 萬34577筒赤567索22334。ロン索1。


 ドラは南で裏ドラは萬3だけど、次に紅玉の手牌。


 萬4赤56索23456789西西。ロン索1。


 ロットナー卿が立直平和ドラ2の7700点、紅玉が立直平和一気通貫ドラ1……5翻なので30符だろうと8000点……ロットナー卿が供託した立直棒を紅玉に取られる点数処理になるから……


 塔子が2万900点、竜姫が2万4600点、紅玉が2万8900点、ロットナー卿が2万5600点……この状況を見て、ロットナー卿と塔子が言うよ。


「最初に言ったが、東風戦のオーラスで誰も3万点に到達していない場合……」

「南入……南1局に突入し、続行となる」


 簡単に言えば常にオーラスの条件で試合が続行されるのが南入ナンニュウ西入シャーニュウ……特に西入は西家の時に西が連風牌になる事を覚えてるかだけで変わって来るね……大抵は平らな状態なので誰もがトップを狙える緊迫の延長戦……


 今回は紅玉が1500点と言う親の最低点数をアガるだけで終わるけど、果たして次で終わるのか……それじゃあ恵森清河の昔話の続き……


 サファイアデーモンを倒し次のボスに挑む日程も決まり、9月に入学した恵森清河も気付けば8月が経過し、今は5月頃……そんなある日、恵森清河は学園長に言われて汎用スタジアムに来ていました。


 広大なドーム状の映像素子充満空間には恵森清河と対戦相手しかいなくて……事前情報では恵森清河は全力で魔法を使っていい事、相手の攻撃は全て映像だけど同じく映像である自分側のシールドの全損数を極力抑える事、とあり……


 まずは恵森清河から視た時の対戦相手の姿……その黒く濁った紫色の球状体はヒト1人なら問題なく呑み込める大きさ……全体が常に溶け続けてるかのように変形し、煙や炎が流れてるような印象も受ける、そんな体の表面では濃淡の分布による顔らしきものが至る方向から幾つも浮かび上がっては消え……


 どの顔も苦悶の表情で、特に口と言える部分が叫んでるかのように開いてる……


 そんな悪霊の集合体イビルスピリッツと言えそうな対戦相手だけど、これはあくまで映像を付与された状態で視た姿……映像を解除すれば同じサイズの球体である事が判ります。


 ビリジアンを黒同然にした色で塗装されたこの球体は自身が金属である事を忘れたかのように反射が鈍い上に、全体が黒同然の色で単一塗装されてるから、何だか奇妙な色の泡が浮かんでるようにも……


 さて恵森清河から視たイビルスピリッツの頭上に大きな円のゲージとその内側にはカウントダウンの数字……


 3から始まった数字が0になるとイビルスピリッツは断末魔のような叫び声を上げたけど、これもただの音響付与……カウントダウン用の音声は雰囲気出てたね……コードネームは黒き深緑ダークビリジアンでいいかな……


 そんな金属の球体がこれから行う一切の挙動は、全て実際に起きたもの――それに基づいた映像付与結果を恵森清河が視る事になるんだけど……


 早速、恵森清河が先制攻撃……戦闘開始だね。

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