第25話 なくしたものと、さがしもの

 その少女の5歳の誕生会が開かれた年……ニュー・クリア以降、放射性物質関連

の人体への脅威性が解消された事によって開発された、小型トカマク型核融合炉搭載の自動車型飛行乗用車のテスト飛行に両親と一緒に参加する事になり、少女は両親に連れられ、いよいよその車に乗り込みます。


 車は浮上しトカマクエンジンも問題なく動作……快適な空の旅と街並みを見下ろす光景を楽しむ両親の声がオープンカーの車体から聞こえてて……運転は事前に用意したプログラム制御なので参加者は乗ってるだけ……


 やがて宣伝の目玉でもあったアトラクションプログラムが実行されるんだけど……何だか各車両が宙返りして乗客を地面に落下させたり衝突事故を落としたりと明らかに動作がおかしくなり……


 少女が乗ってた車両には上から別の車両が落ちて来て……既に他の車両と衝突し火を噴いてたので、この衝突が決め手になって大爆発。


 もう放射線で被曝する事も残留する事も無いから、その辺は心配しなくていいけど核融合炉が盛大に爆発しただけでも大惨事……少女とその両親の体は全部蒸発しました。


 この企業は今回の事故をライバル会社によるクラッキングだと主張したけど、すぐにテスト飛行お披露目期日に拘り現場のプログラマーに無茶なスケジュールを押し付けた結果だと判明……


 責任者の中には極刑者も出て、イーリスの監視対象を企業内部にも広めるべきではという声も高まり、技術者の処遇の是非が議論される中……洗谷せんや筒美つつみの時に紹介した大夜だいや重工業がこの会社と諸権利を買い取り、開発周りの技術者を保護。


 この事件は自動車型飛行乗用車の技術的な問題により引き起こされたわけじゃないからね……十分な開発資金と伸び伸びとした環境を与えられた開発チームは後に……大夜重工業の花形商品となる、より安定したホバー技術を確立させます。


 ここはとある研究所、この流れで最後に紹介するのは……この4名にしようか……今回は4人とも大分見た目が違います。


 1人目のヨウコは髪はウルトラマリン、瞳は茜色、胸の膨らみ具合も結構差がある……大きめの方でね……要するにオリジナルの遺伝子を盛大に弄りました。


 2人目のウシミは髪はパールグレー、瞳はオレンジだけど、ケモノ少女というには混合した動物の特徴がヒトの体に滲み出るように反映されてて、ヒトの体が獣に侵食され始めてる段階のような印象を受ける人が多そうな感じ……要するに、他の動物の遺伝子を混ぜて造りました。


 3人目のフタコは全身に葉緑体があるので肌は藻のような緑色で光合成も可能……瞳はオレンジだけど……髪はパールグレーが緑掛かった感じと濁った感じの色合いだね……要するに植物の遺伝子を混ぜて動物と植物の細胞が体内で同居する感じになるよう造られました。


 4人目のカノンは髪はパールグレー、瞳はオレンジ……背丈も体型もオリジナルをこの年齢で製造した場合と一致……どこを弄ったかと言うと、体内に結構な量のレアメタルなどの金属を練り込む感じで造りました。


 そんな4名に同じ魔法を撃たせて実験データを取った結果……一番研究目的に沿う結果になったのはカノンでした。


 ちなみに研究所の少女たちは和名だから漢字があるよ……一昔前で言う日本人かどうかは別として……


 さて機体の操縦はカヤだけどブロッサムに乗ってゴードンとの接触を図る茶遠一の状況から再開しよう。


 結構近くにいたのと道中特に何も起きなかったから……今ではブロッサムがボディの至る所にあるカメラで得た情報を元にコクピット内で描画する画面内に焔陽の姿が映ってて……ゴードンは丁度、こんな発言をしてるね。


「ちぃっ! この補給ポッドもぶっ壊されてやがる……丸腰から抜け出せねぇ」


 補給ポッドによって中身は違うけど武器や弾薬、充電装置……消費武器の多い躯陽が存分に破壊活動するには欠かせないサポート……


 だからカヤは塔子に補給ポッドの場所を伝えて破壊して回ったんだけどね……補給ポッドはもう全滅状態。


 ブロッサムがある程度焔陽に接近すると、カヤはゴードンにこう言うよ。


「こんにちわ。貴方と話がしたいという方をお連れました。会話中は貴方が攻撃しない限り、当機が貴方を攻撃する事はありません。当機の操縦は私が行っています。搭乗されている方の意志で当機を動かす事は出来ません」

「おいおい、ヘリオス乗っ取られて色まで変わっちまってるじゃねぇか! まぁ細けぇこたぁいい……俺に何の用だ?」


 ブロッサムの武装は躯陽の標準装備と同じで右腕に40ミリガトリング、左腕に自動発電式レーザーライフル、あとは足裏のダッシュローラー。


 レーザー銃はある程度撃つと空になり自動的に発電がされるけど溜まるまでが遅くレーザーの出力も心許ない……


 でも今注目すべき機能は、パイロットの発言を外部に流す拡声器機能……


 それを通して機体内の茶遠一がひと声発します。


「あ、あの……」

「と、若ぇ嬢ちゃんか……? まぁゆっくり喋れや」


 それから比較的沈黙が続いたけど、ゴードンはそれに苛立つ事無く静観してて……やがて茶遠一の発言を皮切りにゴードンとの会話が始まる。


「あなたが最初に言ってた事……」

「お?」


「クローンは人間の偽物だって、合成された生命は本物じゃないって……本気でそう思ってるなら……聞きたい事があるの」

「……言ってみな」

「そうだと……そうだって言うなら……」


 更に茶遠一の発言が続くけど、今までの恐る恐るな口調が一変し……次第に言葉に勢いと感情が宿り始め……終盤では、まるで苦しみながら叫び声を上げるような調子になって……ブロッサムから女性の肉声が激しく響き渡る事態になった。


「じゃあ……クローンは人間じゃないの? オリジナルの記憶と姿すがたかたちを受け継いだだけの別人って意見は判るし、私はそう思ってる……でもそのクローンには命が無いって、あなたは言うの!? 生まれて来たらいけない存在だったの!? 生きている事自体が間違いなの!? クローンはずっとオリジナルの偽物でしか無いの!? 私は、私である事さえ許されないの!? ……ねぇ、教えてよ!」


 そんな茶遠一の悲鳴とも言える言葉は痛々しくて、それによる空気の振動が治まった頃、ゴードンはカヤに情報を要求し、カヤは茶遠一にゴードンに公開していい市民情報の項目を選択させ、決定内容を元にカヤが発言……


 それを聞いて、ゴードン・スタークは呟く。


「なるほどなぁ……」


 カヤが発言したのは茶遠一の市民位及び肉体年齢ボディエイジ取得可能な年齢ゲイナブルエイジとの差……やがてゴードンは特に蔑む様子も無く、ただ純粋に発言した。


「お前……市民位ベータだが、考え方はアルファかよ」


 市民位ベータとは自らの複製は自らのバックアップであり、その考えによって可能になる行いの一切を権利であると主張し、オリジナルが失われた際、複製にオリジナルの記憶を移植したものは自らであるという前提で商業的なサービスを享受する事が市民位によって認められています。


 例えばここで茶遠一が殺害され茶遠一のクローンが既に用意されていた場合、そのクローンに茶遠一の記憶を移植すれば、それは茶遠一である……そう考えて行動するのが市民位ベータ。


 これに対し、市民位アルファはそれは自分とは言えないので私は自分の複製を作りませんという考えに基づき、それを前提とする商業的なサービスを享受し、それに基づかないサービスを選択する事も強要される事も認められない存在。


 そんな感じだけど茶遠一のように自分の意志で市民位を選び直す前にベータで固定されてしまうケースもあって、それは市民位で想定されているケースの1つなので、異端扱いされるわけじゃない……


 ヴェノス出発前のパーティーで佐野山さのやま先生が茶遠一がこの状態に陥っる事は把握してたし……さっき茶遠一は今の自分が死んでも両親が用意してくれたバックアップクローンが茶遠一として活動を始める事を認識する発言してたよね。


 一度クローンを利用したサービスを受けるとアルファになる機会を永久に失う……ゴードンが言った通り、茶遠一は心まではベータになっていない感じです。


 さてこっちの続きも少しやっておくかな……塔子が砂漠でサンドワームに巨大な炎のブレスを吐かれてたよね。


 魔法が使えないと判った塔子は横に回避し直撃を免れ……砂丘の頂上同然だったので、そのまま下に転がって行き……その際に口に含んだ砂を吐き出し、塔子は命令するかのような声で発言する。


「ポーズ」


 未だにサンドワームが動いてるのを見て、塔子は更に呟く。


「メニュー、オープン。ウィンドウ、オープン」


 そんな発言をする中、サンドワームの動きが止まり、男性の声が響き始める。


「待て待て待て! とりあえずゲーム時間止めたが、少しは戦おうとしてれよ! ある程度逃げ回れば使い捨ての武器が出るから、それで攻撃して、使い切ったら逃げてを繰り返すゲームだぞ、これ……それにしても気付くの早かったな」

「熱はあるけど砂の味までデータ行き届いて無かったから……あの蛇みたいなの倒したら、ここから出してくれる?」


「それは出来ないが撃破回数、速攻撃破、特定武器縛り……それをやってれば別のサンドワームと戦えるようになるから退屈だけはさせないとは言えるぞ。要するにVRゲームのフルダイブ性質を拘束代わりに使ってるんだ。遊んでてくれ」


「そういえばわたし、さっきまでメイドさんたちと戦ってたんだった……」

「アイダが1機やられたから慌てて緊急モードに切り替えて、どんなゴツイ戦闘機が攻め込んで来たかと思って見てみれば……年端も行かない少女が魔法で応戦してたのには驚いたぞ。不殺命令状態にして眺めてたら急に気絶したもんだから拘束させた……途中で目が覚めても即座にオリバーお手製の睡眠薬を投与すればいいしな……一昔前なら普通に売れるぞ、あれ」


「あなたは今、何してるの?」

「21世紀前後に作られた麻雀ゲームのCPUの処理をコピーしたものを4つ集めそれを観戦しているんだが20世紀80年代初となる家庭用ゲーム機のCPUは2人打ちだったから他からソース引っ張って来て対応言語に直して4人打ちが何とか出来るように……すまん、退屈な話をしてしまったな」

「麻雀……?」


「……そっちでも観戦出来るようにしたら、大人しくしててくれるか?」

「する」

「とりあえずフィールドを……この遺跡にするか」


 男性がそう言うと、砂漠の光景は石造りの旧時代の建造物の一画のような平らな場所へと切り替わり……やがて全自動卓が出現し、遅れて椅子も出現します。


「この処理もやっておくか……今空いてるのは……ローズか……っと、もう観戦出来るぞ。今は南2局だが21世紀初期のCPUが連荘しているところだ」


 塔子は親の対面の座席に座り観戦を開始します……


 塔子には音声しか判らないけど、さっきから塔子と話してる男性は以前全身が映ってたし、その服装を紹介。


 成人男性か判断に苦しむ若々しさで結構高めの背丈……ホワイトタイガーの柄が大きくプリントされたシャツに紫色のフード付きファーコートを羽織り……下は黒のレザーパンツで腰にはアクセサリとして鎖が……


 もう少し詳しく言うとコートの長さは地面に結構迫るロングでフェイクファーによる定着の悪い紫は黒を混ぜる事で程よい暗さにし、毛自体の長さは素材感を出す程度の長さで裏地は結構強い赤……


 ボトムスのレザーもフェイクだけど丁寧に作られた事が伝わる品で……コートの方も雑と言う印象を受けない感じだね。


 そんな男性の瞳は金色で、髪の色は朱肉のように鮮やかな朱色が更に赤味を帯びた色……つまりロットナー郷。


 犯行声明の時はフードを被ってたけど、その時こうも言ってたよね……


 ボタン1つでラバロンに弾道ミサイルの雨を降り注がせる事も出来るし、ヴェノスのオウカのサーバーも破壊出来るって……


 塔子はそんな相手とCPU同士の麻雀観戦を共にし始めました。

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