第24話 メイド作法にサンドワーム……変ですか?
その少女がまだ3歳だった頃、両親が旅行会社の大規模ツアーに参加する事になり遠く離れた現地へ到着。
両親はちゃんと見ていたんだけど、通りすがりの乗用車に少女がひったくりのように、さらわれると銀行強盗の山車にされ今ではそのまま人質に……
そんな銀行内には抵抗したり、反抗的だという理由で撃たれた店員とお客の死体が1人2人と転がってます。
ここはとある研究所、廊下を元気な足取りで笑いながら駆け回り、何かいい事があったのか、体を一回転させたりと上機嫌な少女の姿……
少女の髪は結構長くてふわふわで真珠が灰色になったような時折暖かいピンク色が浮かび、その瞳はオレンジ色……少女が部屋のドアを開けると、同じ背丈でよく似た少女が2人いて、お喋りを始めます。
「ケイちゃん……騒がないで……今日は痛みが激しいの」
「ケイちゃんはわたしたちと違って体に痛みなくていいなー……わたしは一日中ピリピリするだけだけど……レオちゃんは本当に大変」
「レオちゃんオトコちゃん、ごめん……だって博士が嬉しそうなんだもん!」
「ケイちゃんが出来たおかげで面目は立つとか言ってたよねー……」
「収穫はあっても成果無しのままなのはヤバイって」
「次の実験までまだ時間あるよ! 何して遊ぶ?」
「ババ抜きもブラックジャックも面白いけど、今日は……痛っ」
「インディアンポーカーかなー……短時間でたくさん遊べるし……うわ、ズキッと来た!」
レオの外見をもう少し言うと外見はケイと同じ……ただし体の至る所に内出血部分や血管があるように枝分かれした部分があり、それらは葉緑体があるわけでも無いのに、藻を暗くしたような色。
後の話になるけど、レオは実験中に咳込み、その度に大量の血液というか黄緑色の酸性の内容物を吐き出すんだけど……
いつまで経ってもその咳は治まらず、とうとう気絶してその酸性の液溜まりに顔面から突っ込み、顔を始めとして触れた部分が酷く焼けて行き……
肌に浮かんでた緑色の部分が一気に広がって二度と目覚める事は無かったので棄てるしかありませんでした。
オトコの外見は普通の肌のケイよりも驚くほど白くて、髪も何だか発色が弱い……後の話になるけど、オトコは実験中に体がどんどん融けて崩れて行き……最後は液体同然になって血液は赤いままだったので、色合い込みでまろやかになり、そこからは何も変化しなくなったので、棄てるしかありませんでした。
そんな感じでケイ1人になったある日、ケイは実験中に全身が波打つように激しく膨らんで沸騰するような感じになった後、一気に破裂。
ヒトの形が残ったかと言うには怪しいですが肉片は結構残り、辺りは赤い血液が広がってます……これは棄てられずに全て回収されました。
棄てると言って来たけど正確には集めたものを分解処理して各々の物質に分けて、リサイクルする感じです。
またしても脈絡の無い話を脈絡も無くしたけど最近ずっと時系列言わずにあちこちの事を伝えてたので、せめて塔子……
塔子が西郡灯花の前に現れるや去ってから暫くした後の事……頭部デバイスのカヤが塔子に言います。
「先の声明でテロ首謀者潜伏先の有力候補が算出され、その1つがやや遠方にあります。調査に向かいますか?」
塔子のAR画面には、今いる陸地部分を横断した先にある沿岸部近辺に潜伏先候補マーカーの1つがあり、マッハ2くらいで射出される、塔子のソニックワイヤーを使えば射出時に距離を取り……巻き取り時の速度を高めにすれば列島規模のヴェノスの内陸を横断するのは難しくない……
塔子が了解の意向を示す返事をするとカヤが言った。
「では到着時刻に合わせた最寄りの転送装置にお食事をご用意しますので、次のメニューの中からお選びください」
「じゃあ、これと……これとこれ」
塔子が選んだのはモッツァレラ、ペコリーノ、パルミジャーノ……そんな名前の3種のチーズをピザの耳部分にまで入れた大きなソーセージの切り身たっぷりのピザにこの内容に合わせて栄養素を調整した色とりどりのサラダにデザートは甘いフルーツをふんだんに使ったヨーグルトババロア……
それを食べ終わった頃、塔子はソニックワイヤーで上空へ行き移動再開。
ソニックワイヤーは軌道がたまに大きくズレる時があり、速度も毎回違う……今出したソニックワイヤーは想定した位置より大きく横に逸れたけど……ここで真っ直ぐ伸びてた場合の塔子の位置に弾丸の雨が通過しました。
カヤが言わずとも下に何かがいると判断した塔子はその地点までソニックワイヤーを伸ばし、急速な着地と同時に食後から展開させてたマゼンタ色のソードで着地間際に斬り掛かる。
その結果、塔子は強い違和感に襲われます……手応えが有り過ぎる――
躯陽を切断した時のような感触とは違って重みがあり上空からの加速分を殺さずに斬り掛からなければ、分断し切れなかった……そんな確信が自ずと湧いて来る手応えだったみたいです。
支えを失った50ミリガトリング砲が落下する音が飛行甲板のような灰色の地面に鈍く響いてるけど、さっきまでそれを撃ってた上半身が地面に落下……
その姿を繋がってた状態で説明すると背丈は
そして中身が金属で構成されてる事から、表面の皮膚周りをヒトに似せたアンドロイドだという事が判るね……残骸を見てカヤが言います。
「アダムの兵器利用推奨アンドロイドのエルフシリーズ、アイダです」
セキュリティ事業に力を入れるアダムは最初は警備ロボットを作り始め……やがて兵器利用前提のエルフ型アンドロイドが市場に定着……
エルフ兵もしくは『エルフメイド』と呼ばれる、この機種の肌の色は通常色なのが標準で、アイダのような黒寄りの褐色機種はダークエルフと呼称され、アイダは現行モデルから2世代前の型落ち……
アイダは次世代のジョイスの開発に手間取ってる場繋ぎとして長らく廃止されてた胸部構造の再現技術を復活させた機種……だから胸のサイズは
そういえば先日、最新モデルのエルフメイド『リサ』が近日公開と発表されてたよ。
さてカヤの発言が終わる間際に塔子へ向けて発射されたバズーカのミサイルが3発ほど飛んで来ました……これを塔子は実技試験でも使ったドーム状のバリアを展開し防御。
ミサイルは爆発するけど、そこにさっき落下したガトリングを拾ったアイダと遠くで同じ50ミリガトリングを構えた別のアイダが塔子に向けて砲火し……
流石にバリアが決壊寸前になり、その消耗具合が塔子には感覚的に判るので張り直して防ぎ切るけど……
周囲にいたアイダが急に散開したのでカヤが言う。
「最大防御を展開してください。周囲を巻き込む規模の大火力が想定されます」
少し離れた場所ではアイダ2体が大抵のサーフボードの長さでは収まらないほどの全長を誇る中型レールガンを構えてます……アイダ1体でも持てるけど、銃身を固定する都合上もう1体欲しい感じだね。
発射された実弾は塔子に命中し大爆発……そして再びガトリングとバズーカを一斉放火した後、レールガンの弾がもう1発。
さっきのドーム状のバリアだったら足りそうに無かったけど、今塔子が展開してるのはキューブ状のバリアで、ドーム状のバリアが一枚の障壁で構成されているのに対し、こっちはバリアがとなる領域が体積分あるので遥かに強固……
ドーム状の方は薄い水色だったけど、立方体の方は濃い青……塔子に必殺技があるとしたら、この魔法になるけどドーム状の方で事足りるから、なかなか使わないんだよねー。
こっちは集中力を持続させないとバリアが次第に薄まって行くけど、受けたエネルギーをバリアの修復に回す性質があるので……攻撃を受けてる間は気を抜いててもいい……
そんな
やがてアイダたちは斬撃と突撃の形状に切り替えられるだけの金属武器でその青いキューブに斬り掛かったり貫こうとして来るけど……塔子に休憩時間を与えるだけの結果になり……
そんな攻撃の手が緩んだ瞬間、塔子はブルーキューブを解除し、周囲にダークボムを放つ……
絨毯爆撃でもされたのでは無いかってくらいの大量かつ広範囲の爆発……でもこの攻撃じゃ最初期のエルフメイドにすらダメージにならないので、塔子は自分の視界を塞いだだけ……
そして変形金属武器持ちのアイダたちによる襲撃が順次行われ、塔子は回避し続けるのが精一杯……その過程で頭部デバイスが損傷し、次に武器が掠めた時には外れ、すぐにアイダの誰かが気付きもせずに踏み砕いた。
塔子は反撃の為、ソニックワイヤーをアイダたちがいる方向に立て続けに放ち、ダメージに至らなくても事実上動きを止める事は出来たので、ずっと展開してたマゼンタソードで反撃……
でも半端な勢いじゃアイダの金属ボディに入らなくて、少しでも勢いを削がれると傷一つ付かないから、大抵の斬撃は受け止められたり弾き返されたり……とても直撃を狙える相手じゃない……
それでも危ない時はドームバリアを張ったりソニックワイヤーの足止めを多用したりする塔子だけど……
以前言った通り、切れるのは魔力ではなく集中力、もしくは体力。
塔子は疲れてても意識がぼやけ辛いので、魔法の威力が著しく低下する事は無いんだけど……電池が切れてそのまま眠るタイプなので、今マゼンタソードで斬り掛かろうとした途端、地面に倒れました。
せっかくなので塔子が次に目が覚める場面まで飛ばそう……
塔子が気付くと、さっきの戦闘中では真剣だった表情が普段の眠そうな目付きに戻ってて……あくびをしながら塔子が発言します。
「ふわぁ……寝ひゃってた?」
辺りは一面の砂。
大きな砂丘が結構あるから視界が意外と遮られます……空には雲一つ無い青空で、照り付ける日差しは強いのものだと判る……つまり砂漠だね。
やがて地響きの音が聞こえて来て……
その震源がすぐ傍にあると判る頃には近くの場所が盛り上がり始め、明らかに何かいる様相を見せるや砂の地面を一気に突き破り、一軒家の敷地としては十分な広さを飲み込むくらいの直径の柱が現れ……
それがある程度浮上し、砂が音を立てて落下する中、それは赤銅を肌色に近付けた蛇腹状の金属装甲で覆われた蛇状の何か……
砂が落ちるに連れて次第に露わになる頭部が塔子の方を向き、口らしき部分を開くと上下部分の方が大きい4方向の口の中は血のように真っ赤……
RPGの概念に則ればサンドワームだね。
塔子はマゼンタソードを発動し、身構えようとするけど……
魔法が出て来ません――
そんな事態に塔子が戸惑ってるとサンドワームは大きく開いた口から炎を吐き出し頭部の直径も胴体と同じなので……巨大な炎のブレスが燃え盛るような音と共に塔子に迫ります。
もう少し冒頭の少女の話をしようかな……
少女の両親が裕福そうだと思った銀行強盗犯は立て籠もりながら身代金を要求……その最中も挙動が怪しかった店員を1名射殺してたけど……
この地域はイーリスによる復興が果たされた主要国家じゃなくて、まだ色々と行き届いてない中、観光に力を入れてた場所……人質は少女だけじゃなく観光客も複数いたので、その観光客に被害が及ぶ事を政府が恐れた結果……
あ、ちなみにこの時代……市民位ベータ相手に身代金を要求してもバックアップクローンを作った方が安上がりだからとそのまま犯人に向かって……もうそれは要らない――みたいに宣告されるケースって結構あるよ。
さて政府は早期解決策として警察の強行突入を選択……犯人グループと激しい銃撃戦になり、銀行の中にいた人たちは全滅……無事だったのは突入しなかった警官だけで、犯人も店員も人質も全員死亡。
強い警備会社の必要性とイーリスが判断していれば、と悔やむ声が高まって行った事件でした。
件の少女だけど警察が突入した際、少女のこめかみには銃が突き付けられてて……引き金に指を掛けたままだった犯人グループの1人が慌てて行動する内に、その指に力が入って銃弾が発射され……結構早い段階で少女は死亡してたよ。
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