第22話 炎と焔――交錯の果てに

「んー……やっぱり私、火力弱いかぁ……」


 目の前のスカイブルーの機体――壁陽が展開したバリアに自らの魔法を防がれた、西郡灯花がそう呟く。


 迎撃テストの試験官には出力調整が細かく出来て、それを長時間行えるかどうかで選出されるわけだから火力が上位というわけじゃない……西郡灯花は部長である恵森えもり清河さやかの大火力を知ってるから尚更そう思うのかな。


 西郡灯花には魔法がもう1つあるけど、発動が遅く規模も乏しく密着技だけど発動しても状況を大きく変えるものでもない……結局、バーニングスネークとそれを出力調整した火球射撃で応戦するしか無い状況。


 壁陽を操縦するオリバーは1発当てれば済みそうな条件だけど、背面武装も無いので比較的軽装……


 そんなオリバーが音声も出さずに機体内で呟いてます。


「若い娘だな……なかなか洒落た服で着飾っている……」


 それしか言わなかったけどオリバーは自作薬物ドラッグをロドやイーリス管轄外の地域にバラ撒いて来た人物……目の前の健康的な少女は、自らが奪って来たであろう光景そのものとも言えるし……西郡灯花が眩しく見えるのかな。


 そんなオリバーの眼差しに嫌悪の感情は浮かんでなくて、ただ漠然としてます……オリバーが更に呟くよ。


「この娘に引導を渡されるのも因果か、この機体で命を奪うのも宿命さだめか……」


 そこまで言うとオリバーは再び機体音声をオンにし、西郡灯花へ向け発言。


「さぁ、始めるぞ」


 その頃には蒼月から最低出力のレーザーが断続的に3回発射され、西郡灯花は自身の前方に壁陽を包み込むには十分な規模の炎の球体を生成……それによってレーザーは防がれたけど……


 この火球を動かせば、長い尾を引く炎……バーニングスネークになります。


 じゃ、この辺で学園の焔陽の方へ……ラーバウェポンを使う女子生徒は以下マグマ使いと呼びます。


 翠月がチャージされ、太いビームにまで成長したプラズマが何枚にも連なった溶岩の壁で防がれた所からだったね……


 プラズマを防いだ溶岩の防壁は一斉に融けて変形し再び固まり……


 焔陽の頭上へ移動するやマグマに戻って3つに分かれ……一斉に射撃が始まるかと思いきや、岩の弾丸が発射されたのは、その内の球体1つからだけ……


 ポールはダッシュローラーで横へ移動……防御はせずに右肩に着弾するのも構わず移動を続け、岩石の弾が着弾すると結構爆発……それでもあのまま防御して、手薄になった箇所を集中砲火されるよりは被害が少ないと判断したみたい。


 焔陽が少し停止し、ダッシュローラーの向きを変更しながらプラズマを発射したけど、マグマ使いが新しく生成したマグマに阻まれるや、さっきの3つのマグマが岩石となって、激突寸前でマグマに戻り合流。


 ここでポールが威勢よく叫ぶ。


「一気に勝負を決めてやらぁ! 翠月、フルチャージだ!」


 それじゃ一旦、西郡灯花の方へ……巨大な火球を生成した西郡灯花は壁陽に向けて投げ付けるけど、壁陽は既に各部位のバリア装置を展開……


 バーニングスネークが壁陽に辿り着く頃にはバリアは発動済みで……このまま相殺されるかと思いきや、バーニングスネークはバリア手前で方向転換し、西郡灯花は更に同様の規模の火球を生成……バーニングスネークが2つになる。


 この光景を見て、オリバーが言う。


「片方を防御、片方を攻撃に使う気か……」

「一度にたくさん出せるのが取り柄だからね」


 西郡灯花がそう言った。


 オリバーにとってバリアを無駄使いさせられたのは結構痛手……


 壁陽はエネルギーを補給しながら戦う頃を想定した設計で、補給無しだとバリアが使える回数は多くないし蒼月をチャージすれば更に消費するから、何とか接近して拳部分を当てたいところ……


 膠着状態になりつつあるから、ポールがマグマ使いに対し翠月をチャージし始めたとこから……


 フルチャージされたプラズマに備えマグマ使いは自身の近くにマグマを集めると更にマグマを出し追加。


 あとは発射と同時に全て固めれば防壁は完成するけど……ここで焔陽がダッシュローラーの向きを変えながら移動し旋回……つまりマグマ使いの背後に回り込もうとして……それを円滑にすべく、まだチャージ半端のプラズマを発射……


 それを防ぎながらマグマ使いは叫び、ポールもそれに続く……


「だ、騙したわね!」

「半分は本当だ……一気に決めるぜ!」


 そしてマグマ使いが防壁を再構築するのも構わず、ポールは震月の回転音を唸らせながらマグマ使いの女子生徒に斬り掛かる。


 マグマ使いは用意したマグマの一部を岩石にし、そのまま震月を武装した右腕にぶつける事で軌道を逸らし……その隙に爆発付与した溶岩弾の群れを右肩部分に狙い撃ち……ポールが爆発で怯んでる間にマグマ使いは更なる魔法で一撃を加え……


 その直後、マグマ使いが呟く。


「何だ、普通に切れるじゃない……これなら爆発で弱らせる事も無かったわね」


 その発言の最中、焔陽の右腕は根元から落下……そこには溶岩が固まった際の色と似た大きな剣が宙に浮いていた。


 ラーバウェポンと言う魔法名の通り、こうして武器形状にして岩石同様素早く動かす事が可能……


 この状態にするには大量のマグマを消費し、マグマに戻す事が出来なくなるけどね……ちなみに爆発付与した弾丸もマグマには戻せません。


 溶岩と言って来たけど金属が多く含有する鉱石をマグマ状にしてるというのが正しくて、こうして金属部分だけで大剣にする事も可能……


 剣のデザインも少しはそれっぽくなるよう長い事鍛錬積んでました……流石に平たい板を振り回すだけの光景は避けたかったようだね。


 さて、ダッシュローラーで急いで退避しながらプラズマを撃って牽制しているポールだけど……


 その様子を見てマグマ使いは、このプラズマも封じれば相手を無力化出来る事に気付き始め……背中にある武装を眺めながら、心の中でこう呟いていた。


「次はあの背中にある大きな部分を壊してみようかしら……」


 ところで西郡灯花は頭部にAR画面が表示されるデバイスを付けたよね?


 つまり西郡灯花の場面に移るけど、睨み合いが100秒を越えた辺りでカヤがAR画面に情報を表示し、それに基づいて西郡灯花にこう指示する。


「この機体をこちらの区域まで誘導する為、逃走して下さい。移動ルートの描画を始めます」

「了解です。じゃ1つは投げ付けて……」


 西郡灯花がそう言うと2つあるバーニングスネークの1つを壁陽に投げ付け、オリバーはバリアで防ぎ切る……その間に西郡灯花は近場の家屋に浸入……


 入口は勿論、中の扉は全てロックが掛かってたけど、カヤが解除してったので自動ドア状態に……この建物は正面から見て横長なので、もう片方の入口から出るだけで壁陽の後ろに回り込む事に成功……


 ここで西郡灯花のAR画面に音が出る事を意味するマークが現れ、そこを通過すると周囲の建物内のPCから空き缶を強く踏み潰した時の音が大音量で流れたので壁陽が機体ごと振り返ると、そこには西郡灯花の背中があり……


 移動ルートに従ってるからだけど、かなり不規則に動いてて、レーザー射撃が現実的じゃない……


 ここでオリバーが発言する。


「逃げる気か……?」


 その瞬間、西郡灯花はカヤの指示通り、手の平サイズの火球を次々と連射……その隙に残ったバーニングスネークを自身の周囲に引き寄せ、壁陽の方を向いたまま後退を始め……


 火球を被弾したオリバーはダメージが軽微である事を確認し、西郡灯花が移動しながら、じわじわと削る作戦に出たと思いながら……こう叫ぶ。


「ほぉ……ならば付き合ってやろう!」


 カヤの助力により場が動いたけど、今度はマグマ使いの女性生徒の方へ……


 マグマ使いは焔陽の背後が見える角度まで移動してたけど……ここでマグマ使いが声を高らかに叫び出す。


「あたしのとっておきの魔法を見せてあげるわ! レイジングブレイズ……相手の足元にマグマを噴き出して、そのマグマ自体を次々と爆発させる必殺技よ! 

発動まで時間掛かるから、せいぜいそこでじっとしてる事ね! はぁああ……」


 するとマグマ使いは焔陽に向けて手を突き出し、如何にも大技を使う雰囲気を出し始めた……


 ここまで露骨な事をされたからポールは苦笑いをしつつ、言った。


「おいおい……そんな事を言われて……」


 ポールは翠月のチャージを始めた……ある程度溜めたら撃ち込む感じかな……やがて翠月の銃口をマグマ使いに向けながら、少し呆れた調子でこう叫ぶ。


「棒立ちのまま何もしないヤツがいるかよぉ!」

「はぁああああ……」


 さて前述の通り、マグマ使いからは焔陽の背後にある場所が見えてる……つまり、その位置に魔法であるマグマを発生させる事が可能……


 生成したのは握り拳の中では収まらない長さで釘のような太さの針……それを焔陽の背面武装目掛け発射……焔陽は翠月のチャージ中だったから全弾命中。


 それぞれ結構深く刺さったみたいで、ポールが見る機体状態の画面に警告表示が出るには十分でした。


 ポールはまんまと注意を逸らされた事に気付き、呻くように呟いた。


「く……」


 次に叫ぶけど……その後すぐ後方のマグマから発射された岩石が着弾します。


「そういう事かよ!」


 釘は既に消去され、背面武装全体に当たるように爆発付与した岩石を発射してたので、焔陽の背中で次々と爆発が起こり……


 遂に背面武装である発電機が爆発し、その勢いで焔陽はうつ伏せに倒れる。


 そしてマグマ使いがやや得意げに言う。


「降参しますー? ちなみに半分は本当の事を言ったわよ」


 そう言うとマグマ使いの女子生徒は手の平サイズのマグマを出し、やや前方に移動させ……爆発させた。


 ポールは搭乗ハッチを開きながら、こう呟いたよ。


「まぁ最後に兵器に乗って少しだが暴れる事は出来た……よしとするか」


 こうしてポール・サイモン・ファーナムは蜂型メカに刺され拘束対象に……もう、ここを見る必要も無いので、西郡灯花とオリバーの場面に専念しよう。


 あれから結構場所が移動してて誘導は順調に見えるけど……ここで路面が一気に広がり、他の方向への路面も幾つか延びてる。


 西郡灯花は引き続き徐々に後退しつつ、壁陽に火球を発射し牽制を続け……壁陽を路面の中央辺りまで誘導した頃、カヤが言った。


「表示された台詞を読み上げ、魔法を今までに無く大規模に展開し、膠着状況を生み出して下さい」


 西郡灯花がAR画面に表示された台詞通りに読み上げた結果、こう発言。


「いける……かな」


 次の瞬間、これまでと同じ規模の火球が2つ出現し、少し遅れて1つ……既存と合わせて4つのバーニングスネークを西郡灯花が抱える状態になった。


 これを見てオリバーは即座にバリアが発動出来るように装置を展開し……そのまま待機……カヤが望んだ膠着状況は実現され、そのままにらみ合いが続き5分が経とうとする中……カヤの指示が入る。


「バーニングスネークを全て地上付近かつ西郡灯花さまの周囲に移動させ、西郡灯花さま自身は直立不動を維持して下さい。応答は不要です」


 西郡灯花がその通りにした瞬間――急に機銃掃射の音が辺りに響き、その弾は全て命中したと思われる音もした。


 着弾先は壁陽が蒼月を武装してる方の腕側の脚部……その関節部が重点的に狙われ大破したので、自重に耐えられなくなり壁陽は横転気味に……


 オリバーから見れば何が起きたかは明らかで、その視界には躯陽と同型の機体があり、武装してる40ミリガトリングを壁陽の脚に撃って来た……そこまでは確か何だけど、この光景の異常性はポールが見た方が理解出来るね。


 ヘリオスシリーズは躯陽くよう焔陽えんよう氷陽ひよう嵐陽らんよう壁陽へきようの5種類で……機体の色はカーキ、赤、青、緑、スカイブルーが全て……それなのにこの乱入して来た機体はそのどれでも無いカラーリング……


 関節部は5機種共通の黒同然のネイビーブルーで……カラーリングを除けば完全に躯陽と同じ形状なのが不気味に映る……


 ロットナー卿の為に作られた専用機体だと言う考えも、仲間であるオリバーを攻撃した事から無理があるし、そもそもこの機体の搭乗者は……


 そんな2つの意味で異彩を放つ機体が登場したけど……この続きは脈絡の無い話を脈絡も無くした後、再開です。


 本当に少しやるだけなので、ちょっとした気分転換という事で……

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