第20話 煮え滾るのは戦場では無く――

「イビル、バレット」


 天盃酒寿花がそう呟いた……巨大な紫色の球体と言ったけど具体的には躯陽が問題無く包み込めるサイズだね。


 その球体の魔法名はイビルスフィアで、その時に生成した量から紫色の弾丸を放つのがイビルバレット……着弾すれば爆発が起きるけど、このイビルバレットを単品で生成したり、連射したりする事も可能……


 というわけで現在、イビルバレットが躯陽の群れに降り注いでます。


 何とか40ミリガトリングを浴びせようと発射されるも瞬時に生成された巨大な泡……正確にはこれも躯陽を余裕で包めるサイズで、泡じゃなくて見た目通りの体積がある水の球体……生成時は内部の圧力が凄まじく、こうしてガトリングの弾を飲み込んでは破砕出来ます。


 内圧は結構な速度で低下してくけど、魔力を注ぎ直せば最大値に戻るし、生成前に時間を掛ければ更に大規模な水球を出す事が出来る……この水球は動かせるけど速度は遅い……


 バブルイーターと呼ばれる、この水球を天盃酒寿花は自身の周囲に一度に3つ展開し、躯陽たちの頭上にイビルスフィアも1つ発生させ、そのサイズは徐々に膨らんでて……


 ここで天盃酒寿花が言い渡す。


「投降なさい」


 イビルスフィアの威力でまだ起き上がれない躯陽たちも多く、機体が激しく揺れた為、無傷では無い傭兵たちも結構いる……程なくその場にいた躯陽搭乗者は全員投降しました。


 バブルイーターの水圧は再充填可能と言ったけど、水圧を解除すると体積通りの水になって落下させる事も可能で……この時、爆発を起こせる事から、ボンバーウォーターとも呼ばれてます。


 でもこれは天盃酒寿花のもう1つの魔法、エクスプロージョンという炎の爆発魔法に切り替えてるだけでバブルイーターのどの状態からでも瞬時にエクスプロージョンの魔法に切り替えられるし……


 威力はその時に注いだ魔力に比例するので、バブルイーターをキャンセルしてエクスプロージョンの魔法を発動させてる構図になるね。


「なぁ……さっきの泡みてぇな魔法……そいつをこの機体全体に包むように発生させると……どうなる?」

「先程、砕いて差し上げましたチェーンソーと同じ末路を辿るのでは無くて?」


「じゃあ降参だ……その時、全部巻き込んでたら勝ってたろうが……」


 暫くして天盃酒寿花が嵐陽搭乗者とそんなやり取りをした末、中の傭兵が降りて来て、持ってた武装も地面に置き、その上で壮年の傭兵から発言を始め……


 こんなやり取りが続いたよ。


「なぁ、聞いていいか」

「……何ですの?」


「そんな人殺しどころか何でも破壊し放題の魔法という力を手にして……普段、どんな気分で過ごしてるんだ? 傭兵や軍人は兵器を手放せば普通の人間だ……だがお前さんの場合は……」


「必要とあらば、使うまでですわ。あとは日常を楽しんで過ごすだけですわね」

「そういうもんかね……おっと時間のようだ、迷惑かけたな」


 こっちの拘束方法も蜂型メカの針で麻酔を打つ……オウカのシステムをリオナが使わせてもらってる感じだけどね……


 壮年の傭兵は拘束待機状態になったので、天盃酒寿花の魔法についてもう少し……実質的な魔法はイビルスフィア、バブルイーター、エクスプロージョンの3つで後は派生……


 どれもチャージして威力を少し高めるだけで必殺技と呼べる威力になって、かなり贅沢に使える事が伺えたね。


 それじゃ、今度は単独じゃなくて部隊で行動してる生徒を見てみようか……


「斬撃魔法が使える生徒は集合するにゃー……合金ブロック傷つけれるくらい切れ味あれば切断余裕にゃ! ……だから中の人を避けて機体をバラバラにして投降を促す方向でお願いします」


 そんな風に触れ回る内に、結構な人数を引き連れるようになったのは暗城あんじょう雲雀ひばり……進軍を続ける躯陽の群れと遭遇すると、暗城雲雀の発言と共に部隊は動く。


「アンが射撃で敵を止めます! ひたすら切断して戦意を喪失させるにゃー!」


 躯陽の装甲を切断する程の強度に長けた魔法の生徒たちは大抵、武器生成系で斬り掛かる際に後方のアンが速射撃であるサンダーショットで動きを止め、武装や手足を分断する生徒たちを援護……


 そんな中、ダッシュローラーで躯陽の群れから飛び出し、そのまま暗城雲雀の方向へ進み、その勢いを維持したまま拳を振るおうとする躯陽の姿が……


 その機体の搭乗者は殴り掛かりながら叫んだ。


「遠距離野郎は肉弾戦が苦手だって相場が決まってるんだよぉ!」


 さて、暗城雲雀はシャドウガーディアンも発動してたので……その鋭利な影の刃で殴り掛かって来た拳と腕を重点的に切り刻んだ後、手足も切断……


 暗城雲雀が心配そうに発言します。


「アンの得意魔法はこっちなんですにゃ……えーと、何処か痛い所はありますかにゃ?」


「ご心配ありがとな……投降してやるよ! コックピット内にその魔法は届いてねぇが……何だよ、その切れ味」

「金属もラクラク切れるから、食肉加工何てお手のものですにゃ……どうやら、他の皆様方も投降してくれるみたい……にゃー、よかった」


 そんな感じで一時はラバロンを包囲する形で進軍して来たヘリオス部隊も大分無力化が進んだね……


 でもラバロンの生徒たちは皆が魔法が使えるとは限らないので……そういう意味で手薄な所に進軍された場所の状況を紹介するかな……


 生徒たちは避難を始めてて、慌ただしい。


「こっち、もうすぐ解除される……バリア張り替え、急いで!」

「防御魔法が使える俺達がいたからよかったけど……攻撃魔法を使えるヤツがいねぇ! 向こうが弾切れになっても、あの図体……せめて魔法が使えない生徒が避難するまでは持ち堪え――」


「ねぇ! 弾を撃つのを止めてこっちに向かって来た!」

「く……だが一気に出力を上げて消耗を早めるわけにも……」


 男女数名が会話する中、その背後にはさっきまでいなかった女子生徒の姿があり、その女性が徐に口を動かし始め……やがて呟く。


「ヴォルテクス」


 既に魔法は発動してたけど最後まで魔法名言ってたから、発言の続きも……


「フレア」


 というわけで、向かって来た躯陽と待機してる躯陽との隊列の間に火球が出現……瞬く間も無く右回転しながら渦を巻く巨大な火球へと成長……一軒家を呑み込むだけでは飽き足らない規模だね。


 それから10秒経過し勢いが収まり始めたけど……このヴォルテクスフレアの魔法は通常威力だと40秒は消えなくて熱量も今より多い……


 そんな光景に圧倒されバリアを張り替え忘れた生徒達の中から、女子生徒は前に出て、少し呟いた後は何かに苛立ってるかのような語気の荒い声を辺りに響かせました。


「まぁ、手加減出来た方かな……次は手加減しないわ……さっさと降参するか、焼け死ぬか、貫かれて死ぬか……選びなさい! 待ってる間に一体一体斬り伏せる……抵抗する者は容赦しない……燃え尽きればいい、串刺しになればいい……こんな戦場、アタシが滅ぼす!」


 鬼気迫り兼ねない怒声でそう言い放った女子生徒の服装は寒さを感じるような色合いのドレス型ワンピースで、湖のような印象も受ける……


 つまり麻雀部部長の恵森えもり清河さやかだね。


 恵森清河が丸腰のまま1体の躯陽に近付いた次の瞬間、躯陽の40ミリガトリング武装の腕は根元から切断され、そこへ拳で殴り掛かろうと振り被った2体目の躯陽がいたけど……ところで震月って縦長形状……その全長に迫り、直径も大きな氷柱が振り上げた方の腕の肩に突き刺さりました。


 1体目の躯陽の腕を切断した段階で恵森清河の手には氷の剣が握られ……3体目の躯陽が浴びせた40ミリガトリングは突如生成された氷の壁に阻まれ、いつの間にか発射された氷柱がその武装を縦方向に突き刺さり、もう片方の腕も恵森清河が斬り落とした……


 ちなみに氷の色は全て薄っすらと色味のあるアクアマリンカラーで、炎の色は一般的な部類……


 ここで恵森清河は威嚇の為に自分の後方に火柱を発生させる……直径はヴォルテクスフレア程じゃないけど躯陽1体の足場には十分な広さで、天にも昇る高さを誇り、凄まじい勢いで地面か噴き出すら灼熱の柱をあえて無駄撃ち……


 このレイジングブレイズも30秒じゃ収まらない持続があるよ……


 灼熱の柱が発生するや恵森清河が呟き始めた。


「……で、どうするの?」


 少しだけ間があったけど発言の余韻が終わらない程度……それが終わると恵森清河の力強い声が辺りの空気を震わせた。


「降参する? 焼け死ぬ? 貫かれる? 斬られる? 早く答えて……」


 返事が来るまでの間、恵森清河の魔法を解説しようか……本気のヴォルテクスフレアは高速回転だから多少の強度を持つもの相手なら砕けるし、40秒以上の高温過熱状態に晒されます。


 最後のレイジングブレイズは上昇速度もかなりのものだけど、炎自体に質量が結構あるから意外と防壁にもなる……


 次の説明はサドンフリーズがいいかな……さっきし40ミリガトリングを難なく防ぐ強度を持つ氷の防壁の際に使用……透明ながらも、かなり大きな壁が形成されてた。


 サドンフリーズは主に、相手の周囲を凍らせるような事をする魔法だけど……躯陽相手なら全体を氷漬けに出来るくらいの規模で通常出力……


 そしてその状態になるまでは一瞬という言葉も生温くて、人間が筋肉を動かそうと思ってから動くまでよりも早い速度で発生が完了する……この条件を受け継いで氷柱の形状を成し、発射させるのがアイシクルグレーター……


 恵森清河が出そうと思った瞬間には、さっきの大きさの氷柱の生成と発射が終わってます。


 これらの規模の氷を凝縮させ氷の剣にしたアイスソードも一瞬で生成されるし魔力を数秒注ぐだけでも剣を維持出来る時間が一気に伸びる……


 ただし強度は既に頭打ちなのでチャージする意味は薄いので、さっきみたいに即座に発動する運用が適してると言えるね。


 ずっと氷と言ってるけど、水を凍らせただけじゃ実現出来ない強度を誇るから魔力の塊と言った方がいいかも……


 恵森清河は魔法の出力調整が苦手で、ヴォルテクスフレアは充分に回転を加えるまで魔力を注がないと霧散する為、安定するまで10数秒は集中し続ける必要がある、大振り技……


 回転が弱まり始めるまで炎の魔力効率が著しく低下するから、連発は出来ない硬直の長い単発魔法。


 レイジングブレイズも同じ感じだけど、この性質は氷の魔法には無いのでヴォルテクスフレア中にアイシクルグレーターを連射する事とか可能です。


 ところで恵森清河の髪は少し青みのある紫だったね。


 瞳に至っては水色寄りで鮮やかなコバルトブルー……そんな色の瞳に今、殺意とは違う強い意志が宿ってて……もしもこのまま交戦状態が続けば、躯陽を操縦する傭兵たちの命は1人残らず無くなりそう……


 それくらい恵森清河の瞳には溢れんばかりの闘志が燃え盛っている……気性が荒いという言葉では説明が付かない程に……


 ここで、この躯陽の部隊を率いる嵐陽の搭乗ハッチが開きます。

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