第19話 その死神は、緑色

「よぉ! ラバロン学園の生徒どもー! 毎日魔法研究の実験体になってて、ご苦労なこった! 学校生活も私生活も年中無休で監視され学業の成績もふるいに掛けられ落ちこぼれ認定……果ては学園と言う名の独裁国家だ! やってらんねぇよなぁ? だったら俺達に協力しねぇか? 俺達はこのラバロン学園を乗っ取りに来たんだ! 魔法が使えないなら人質になってくれるだけでもいいぜ!」


 結構年齢を重ねた男性の声がラバロン学園敷地内に響き渡る……焔陽に乗ってるけどゴードンとは武装が異なり、左腕には高速チャージ式プラズマ兵器の翠月すいげつ、右腕には合金製の独立電動チェーンソーである震月を装備……


 操縦するのはあご周囲にある程度ヒゲを生やしたシルバーブルーの短髪に、グリーンゴールドの瞳を持つポール・サイモン・ファーナム……武器商人で今回の躯陽たちや武装を製造出来たのはポールが確保してた工場のおかげ……


 実用性が壊滅的にならない程度に手抜きして粗悪品にしては使える武器を販売し、本気を出せば少しはまともな武器を作れたりもします。


 シルバーブルーの髪と言ったけど、全体的に青みを帯びた銀髪なので、銀髪の陰影部分だけが青みを帯びる船気ふなき智里ちさとの髪とは違う色だよ。


 ポールは第三次世界大戦中は中型兵器の整備を結構やってて、躯陽が活躍する情報を耳にしては、ちょっと思いを馳せたりも……


 さて、もう1人の演説はというと……これがいいかな。


「お、お兄ちゃん……人殺しの研究に協力するの何て、もうやめよう? 毎日お勉強頑張って立派になっても……それじゃあ意味ないよ……毎日監視されて、お空からいつ粛清されてもおかしくない日々を過ごしてて……怖く無いの? そ、それにずっとコンピューターの指示に従い続ける生活何てよくないよ……いつか自分の意志で行動する事を忘れて、コンピューター任せに人生送るようになったら……それってコンピューターの操り人形と何が違うの? だから無駄な抵抗しないで大人しく、あたしたちの人質に……なろ?」


 妹キャラ全開でそんな年齢だと思える女の子ボイスが青い機体から発せられました。


 このボイスは操縦者の男性の声をサンプリングしソフトが作り上げたもの……そういったソフトを用いて、更にショタボイス版と老人ボイス版の演説も用意してて、例えばショタボイスは内容自体は同じものの、お兄ちゃんをお姉ちゃん、あたしをボクに置き換えた程度だけど……


 変換される事を想定して、それぞれ口調と込められる感情を変えてるから結構聞き甲斐あるかも……なお収録時。


「何やってんだオレは……」


 そんな風に何度も我に返りながらも納得行くまで撮り続けたのはもみあげ部分含めて肩を過ぎるまで伸ばした水色の髪と山吹色の瞳をした男性――ケイノスの頑張りもあってか、生徒たちの間でこんな反応もあったりしました……


「すまん……俺をお兄ちゃんと呼んでくれ。このままでは心があっちに行ってしまいそうだ……割と深刻なんだ……頼む」

「仕方ねぇなぁ……あとで何か奢れよ? ……惑わされないで、お兄ちゃん!」


「これが……ショタ」

「男性が大人になってから目覚めたが最後……自分ではもう体験出来ないという……あの」


「可愛いから録音したいけど、この内容は流石に手元に置けないなぁ……」


 最初を除き女子生徒の反応でした……ラバロン学園の間では人類が育んで来た特殊性癖を理解しようと考古学の集会紛いの事を始める生徒が結構います。


 ちなみにポールの方の演説を聞いて、こんな反応をした女子生徒もいたよ。


「独裁国家ねぇ……確かに生徒会無いけど大事な事はちゃんと全校生徒総選挙みたいな事やるし……そんなに嫌だったら勉強頑張って卒業しちゃうのが手っ取り早いかな? ここってレベル高いから、普通に大変だけど……」


 さて組織内ではロットナーの右腕とも言われるケイノスだけど、搭乗する機体――氷陽ひようの武装は換装概念を撃ち捨て、銃口から表面の氷が融ければ直ちに爆発する物質を合成し冷凍する機構を機体全体で構築……冷却水自体を浴びせて対象を凍らせる事も可能。


 ポールの機体には発電機構、ケイノスの機体には冷却などに必要な特殊物質が詰まったボンベが大型の背面武装としてあります。


 それじゃぼちぼち生徒と機体が実際に交戦する様を見てみよう……


 ただし今回は躯陽だけじゃなく緑色の機体――嵐陽らんようも何名かの傭兵に渡されてて、交戦してるのは男女と例の嵐陽……


 武装は右腕に40ミリガトリング、左腕には大月……携帯対戦車擲弾をかなりの装填数で個別に放てる筒状兵器……交戦してる生徒は共にバッジ無しだね……


 男性が攻撃系で女性が防御系……早速、男子生徒が魔法を放ちます。


「俺の必殺……フレイムストーンを喰らえー!」

「あんな凄そうな武器……私のクリスタルシールドで防げるかなぁ」


 後ろで女子生徒がそう呟く中、男子生徒の発言と共に手の平から火球を纏った岩石が生成され、放物線状に発射する頃……嵐陽は片方の手全体を高速回転させていた。


 小規模の竜巻と言うには大袈裟なその部分がフレイムストーンに当たるように腕を動かすと炎は消し飛び、岩石も砕け散ります。


 この武装は回転する際に強力な電磁パルスを発生させる……


 だからこれでコンピューターを直接殴れば内部的に壊滅的なダメージを負わせられる設計何だけど……それを防御性能と認識して使ったんだから、この搭乗者に嵐陽が託されたのも納得……


 そして躊躇なく40ミリガトリングを男子生徒に向けた、次の瞬間――


 エメラルド色の大きな剣が嵐陽の背後に突き刺さり、それはコックピット内の搭乗者の胴体を貫き即死させ、機体を貫通し地面に突き刺さったので嵐陽は操縦者を失い停止……


 やがて上空から声が聞こえて来ます。


「速やかに戻って来て、正解でしたわね……」


 そう言いながらピンク色の長い髪を優雅に漂わせ緩やかに着地した最上級生の制服を着た女子生徒はその後、学園敷地内に押し寄せた数多の躯陽の群れを眺めながら、こう発言。


「随分と兵力を用意したものですわね……しかし、このわたくしの前では烏合の衆も同然……」


 そう言い終える頃には躯陽たちの頭上に巨大な紫色の球体が生成されてました……そして、厳かな口調で勝ち誇ったかのように言い放つ。


「この天盃てんはい酒寿花すずかがまとめて葬って差し上げますわ! 光栄に思いなさい」


 ちなみに水川悠は既にリオナに捕捉されてるから、他の生徒が安全な場所まで連れてったよ……


 それにしてもさっき嵐陽の中にいた傭兵って、一言も喋らずに戦死したね。

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