第11話 鮎紗屋より世界三大通貨の話をこめて

「えーと秋名さんはデザイナーさんだから……ここにある衣類、全てを……?」

「いやー、店内が色分けされてるけど淡いミントブルーが私がデザインしたもののみで、淡い黄緑と淡い紫で模様作ったのが私がデザインしたのが紛れ込んでるアクセサリコーナー……白くて大理石模様の場所は売上の一部を貰う感じで他の企業から委託されたアパレル……服とか置いてるよ」


 北内桃奈子の質問に鮎鮫秋名が答えた……転送装置は通販との相性がよくて、注文されてから衣服を立体プリントするシステムも確立されてるけど……


 この店では実際に手に取って購入出来るし、在庫を転送するだけでいいのは、購入者がボタンを押してからプリントされるまで待つのと、押した途端に実物が届くのでは購買意欲に差が出る。


 忙しなく大理石エリアと転送装置設置部屋を往復する精密作業機械は、通販による衣類の転送と本社から送られる在庫の補充を行ったりと従業員を雇うコストも削減。


 ここで鮎鮫秋名が水川悠の方を向いて言うよ。


「そこの髪も目も淡過ぎて色味があるのに白く見える子、ちょっと一緒においで……髪がオレンンジ系だから暖色系の眼鏡が似合うし、ペリドットの瞳に合わせてグリーン系とか……思い切って水色というのもあり……実際に掛けてみて気に入ったのを選んでごらん」


 アクセサリとしての眼鏡は伊達眼鏡で、コンタクトレンズの費用を負担し続けるなら視力を矯正ではなく修正する手術を行った方がいい……特に市民位ベータなら自分の視力が最大になる眼球の構成を算出し交換すれば事足りる。


 市民位アルファは自身のクローンを前提とする医療を受ける事をしないけど、この最適化眼球は自身の遺伝子データを元に作成されたものであり、コンタクトレンズに近い位置付けとも言えるので視力修正手術はアルファでも可能……


 ただし、医療費を支払う必要があるから、それを負担し切れない平民層が多いアルファは眼鏡という技術に頼る……だから眼鏡はアルファにとって福祉の要素が強い。


 以上の事から眼鏡の常時着用は私は貧乏人ですと周囲にアピールする形となる為、眼鏡の着用を嫌う風潮は色濃いと言えそう……


 ラバロン学園では佐野山先生が補習の時によく眼鏡を掛けてたりイメージチェンジアイテムとして活用する生徒もいたり、AR端末機能を組み込んだりと……全然普通に現役の文化だね。


「この黄緑のワンピース……何かすっごくいい。でも320アンバーって……」

「あ、青琥珀3つと白餡1つ……なの」

「それはドリアードをイメージして作ったんだけど素材に拘ったから値段がね」

「これくらいあると買い物してる気分になれますね……では西郡さん、ここは私が――」

「いやいやいや! 気に入ったけど……こんな高いの普段着に出来ないって!」


 西郡灯花が目に留まった服を眺めるも高価格……岩瀬麻七が換算し、茶遠一の申し出を西郡灯花が制止……それを見てた鮎鮫秋名が提案する。


「デザインは同じで素材のランク落とせば値段下がるよー……シトラ。転送装置内に待機させてる廉価素材でこのドリアード服を再現しようとしたら幾らに……あ、使ってる宝石は全部無しで……値段高いのブローチに使ったの宝石のせい」

「宝石を無くし服の素材を一般的な生地にするだけで128アンバーになります……更に生地のランクを下げますと81アンバーになります」


「メインの生地を多少上質にしてサブの生地を一番安くして宝石を樹脂に置き換えて戻して……名前は西郡灯花さんか……お客様のサイズで作成すると、何アンバー?」

「96アンバーになります……作成されますか?」

「中速でお願い……西郡さんが買わなくてもセール品が1着出来るんだし」


「技能と技術が合わさって、ほえーだよ」


 鮎鮫秋名とシトラのやり取りの最後で水川悠が独り言……ここで塔子が言う。


「あ、はーちゃん。最大5分、100アンバー貸して……カウンターが映像素子対応だから、ちょっと全部並べてみる……ユウちゃんもおいで」

「アンバーは電子仮想通貨だけど、それぞれの紙幣と硬貨がデザインされてるの……現金でお買い物してみたいけど、どう考えても無駄な工程だから何処も省略されてるの」


「先人がアンバーのデザインを頑張ってくれたおかげで、その無駄なやり取りしちゃう人、ウチでは結構いるよ。元ネタの琥珀自体が奇麗だからねー」


 塔子、岩瀬麻七、鮎鮫秋名が発言すると塔子はカウンターへ向かい……塔子が映像素子以外は何も無い空間に指先を入れた次の瞬間、白と青紫のグラデーション……ただしグラデーションが始まるのは7割進んでから……


 そんな1枚の花弁をそこから取り出し、カウンターに置き……そんな風に次はその花弁5枚で構成された花を置いて、花の中央に青紫部分が集中するデザインである事が判明する。


 次に出したのは10枚花だけど単色の黄色……最後に出したのは花弁の枚数よりも形状の見栄えを優先したハスの花をピンク色にしたもの……岩瀬麻七が言う。


「置いた順に1フラワー、5フラワー、10フラワー、25フラワー……せんとも言うの」

「次は白餡まで置こっと」


 塔子がそう言うと今度は透明度があり黄色と褐色の色合いが絶妙な天然の宝石……琥珀をコインの大きさと形状にしたものを置く。これが1アンバーで直径は24ミリメートル、厚さは1.75ミリメートル……100フラワーと同額……


 次に塔子はそれより大きいけどコインじゃなくて楕円球体の同色琥珀……中には虫が入ってて角の生えた甲虫類に等脚目……ダンゴ虫などの蛇腹装甲デザインを取り入れた形状で足は6本あるので昆虫類だと主張出来る……


 そんな虫が琥珀の色に合わせて黒ずんでて、塔子はこれを縦に置こうとし……映像なので転がらずにそのまま直立します……琥珀には白いものもあり、今塔子が置いたクリーム色と言え無くもない透明度皆無のコインがそれ。


 最後に置いたのは同じ白琥珀で出来た楕円球体で虫入り琥珀と比べて、一回り以上に大きい……さて岩瀬麻七が解説する。


「置いた順に1アンバー、5アンバー、10アンバー、20アンバー……いつ見ても20アンバーは餡子のような感じがするの……」


 前述の通り、アンバーとは琥珀で、20アンバーは買い物の際、これを出しとけば大抵お釣りが来るのと20アンバーに収まる値段かも指標となりがち……


 20アンバーの見た目とアンバーの略称が餡なのもあり、20アンバーは白餡しろあんという呼称を得て、この呼び方は昔は円という通貨が主流だったからか……餡という呼称はラバロンとヴェノスでは圧倒的な頻度で使われてます。


 店に来るのに呼んだ車代は8.4アンバー……つまり8アンバー40フラワーだったけど、これを件の呼称に置き換えると8餡40花銭となるので今後は発音ではアンバーと言ってても餡と記します。


「あとは、これと……先ず、この映像を撮影保存して今までの餡を消去……同じのをもう1個置いて、統合……」


 そう言って塔子が置いたのは1餡の通常琥珀を赤くした赤琥珀と呼ばれるもの……虫入りの5餡よりも更に大きいその色合いは絶妙で……そんな赤琥珀2つが合わさり現れたのは更に一回り大きい青色の琥珀……岩瀬麻七が言います。


「あ、赤琥珀の50餡2つで青琥珀……100餡になったの!」

「そしてこれが1000餡の三色琥珀ですね」


 突如手を伸ばしながら、そう言ったのは茶遠一……置いた餡は、白と赤と青の琥珀を境目が判るように混ぜたもので……デザイン性が高く、これで3色の比率は奇麗に3分割されてると知ったら驚く人多そう。


 突然1000餡という大金が目の前に現れた岩瀬麻七がすっかり平静を保てなくなる中、茶遠一が発言。


「……流石にこの上は取り出せません……映像でいつでも見れますが」

「1万餡なんて一体何処で何に使うんだよ! って昔叫んだ事ある」


 叫んだのは北内桃奈子……アンバーは電子仮想通貨なので量産性を度外視した素材を使い、白琥珀、赤琥珀、青琥珀……実際の価格順も無視出来る。


 単純に計算すると三色の琥珀が入り混じったものより一番高い琥珀のみの同じ大きさのものの方が価格は上になる……アンバーのデザインはまだ復興中の頃、世界中からデザインを募り、圧倒的な票を得たこのデザインになりました。


 デザインしたたのは人間だけど……この案が無ければ各イーリスのデザイン案から選ぶ状況だったし、どれも遊び心的なものを備えていた……イーリスは新しくデザインを生み出す事が出来る……アリスの得意分野だから――


 この機能はアダムのソフトでは実現出来てなくて……可能だったとしても、そのリソースは他の機能の為に使うのでアダムが本格的なデザイナークラスの腕前のソフトは開発しないだろう……という計算結果になります。


 何か長引いてしまったけど西郡灯花が発言。


「三色琥珀と虹琥珀は何かイベントをする際の賞金枠として作られたからね……告知画像に三色琥珀と虹琥珀のどっちがあるかでイベント規模が判断出来るし」


 西郡灯花がそう言ったけど、つまり今は北内桃奈子が叫んだ直後……


 虹琥珀は1万餡で、角度を変える毎に7色の虹の色合いは表情を変えるけど常に7色が分布し透明度も変化するので水晶のように透明な時と、透明度の無い黒い物体に虹の7色が浮かんだりと……アンバーの頂点に相応しいデザイン……


 これに対し電子と現金、両対応の通貨――キューブは現金か映像かでデザインが異なる……


 1キューブになるまでの硬貨枠……


 0.01キューブ、0.05キューブ……0.1キューブまでは特殊な半透明樹脂の立方体で大きさが小、中、大と違うだけで……材質継続の0.25キューブは一目で判るように正八面体。


 1キューブは箱型に戻り木材に1の数字が各面に彫られ5キューブ、10キューブは色が変わるけど大きさは変わらず、対応数字が各面に……20キューブも同様に木材で各面数字だけど正八面体……


 50キューブは立方体に戻り各面数字刻印で銀の質感……100キューブも同様で金の質感……こっちは電子決済画面用なので本当にシンプルなデザイン……そして、現金の方は1キューブ未満の4種が実際にあり偽造防止の複雑な加工。


 1キューブ以降は紙幣で映像用のキューブもだけど、紙に馴染むような落ち着いた彩度で……1キューブ紙幣が橙色、5キューブ紙幣が赤、10キューブ紙幣が緑、20キューブ紙幣が紫……50キューブ紙幣は銀色光沢で100キューブ紙幣は金色光沢だけど……


 実際に銀や金が使われてるのではなく別な金属を印刷技術との合わせ技で近付けてる……


 紙幣の方のキューブはピコレベルでの透かしが施された上で、その専用機械はイーリスの許可なく使用出来ないので、その偽造困難性から現金通貨シェア圧倒的トップとなった……アダムと第四のイーリスとの合作だし。


「じゃ、この青琥珀と三色琥珀をさっきの撮影画像に合流させて……」

「シトラ。その画像を正面から見て円形配置で浮かべて、回転方向と回転速度を調整するUIも呼べるようにして」

「かしこまりました鮎鮫秋名さま」


 塔子が喋り始めるや鮎鮫秋名がシトラにそう言って、シトラは返事と共に対応……次の瞬間、1花銭から1000餡までのアンバー通貨映像が時計回り順に並び……鮎鮫秋名が回転方向とその速度をUIで調節……


 そして鮎鮫秋名が呟く。


「やっぱりこうして並べてみると奇麗だなぁ……」

「ほえー」

「お金として見ればいいのか、宝石として見ればいいのか……判らなくなって来たの」

「あ、はーちゃん。もうお金返すね」

「お買い物はまだまだこれから」

「塔子ちゃんの私服も探さないとね!」

「しばらくこのお店でのんびり過ごすのもいいね」


 水川悠、岩瀬麻七、塔子、茶遠一、北内桃奈子、西郡灯花が発言し……その後さっき立体プリントしたドリアード服が出来るんだけど……


 プリンターで作ってるんじゃなくて汎用転送装置の機能の1つで、衣類に特化した設定にして事実上の専用機にしてるもののマイクロ単位の生成が限界……


 ナノレベル対応の転送装置は価格が跳ね上がり、そんな状況が続いた為、中小企業が手を出せる値段では無いし、この汎用転送装置があれば大抵の物品は問題なく転送出来る。


 ナノレベル対応の転送装置を活用してるのはアダムCEOくらいで、その転送装置は第四のイーリスが設計し、アダムCEOを高速高精度で転送し再構築する為にプレゼントしたもの……


 イーリスはネザーソード社の為だけに動いてるのではなく、全ての企業と人類の為に行動し存在するものである事を全世界に示す為に――


「試着が終わったら、返事してね」

「と言ってもシトラさんに筒抜けですが……」


 鮎鮫秋名が試着スペース内の西郡灯花にそう言って、ラバロン学園の生徒として、監視体制には慣れてる事を示す発言を西郡灯花が言った。


 ここでゴールドについて簡単に説明……ゴールドは現金のみの完全貨幣通貨。


 金銀銅からなる3種の硬貨の銅貨の下に乳白色の硬貨を加えたイーリスを導入する設備の無い、もしくは維持出来ない発展途上国や紛争国、未だに復興が実現出来てない国や地域などで流通しています……


 さて、西郡灯花が試着コーナーのカーテンを開けたね。

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