第10話 饒舌な男

「いやー、こんな若い団体さんが来るなんて……久しぶりの中型車運転ですよ! 運転するのはオウカ様お手製のプログラムなので私はもう、お喋りしか出来ないのですが、これはテンションってヤツが上がるってもんですよ!」


 そんな活き活きとした口調で車内のマイクから男性の声が響き、塔子が反応。


「どっちだ……これ?」

「もう人間と機械の声は区別付かないし、マイク越しだし……」


「あー、この場では証明になりませんが私は人間ですよ! 本社から通信しています! もう料金はお支払い頂き、こうして行く先のプログラムが入力され……合理的に考えれば、こうして人間が関わる必要は無いのですが社長の意向でして……稼働した車両には必ずスタッフがこうしてお客様とお喋りするようにしているのですよ! 見ての通り騒音も薄い車両なので、こうでもしないと音も無く車が現れ、音も無くお客様を運び、音も無く去って行く……唯でさえ外出する方が少ないというのにそんな光景は寂し過ぎる……少しでもヴェノスに活気を与えられれば……そんな社長の言葉を初めて聞いた時は、涙が出ました」


「落ち着かない人もいるだろうけど退屈してる時に現れると嬉しいですね」

「人はいるんだけど外に出て来ない……皆引き籠ってる……?」


 茶遠一が発言し男性が盛大に喋り、西郡灯花の後に北内桃奈子がそう言った。


「ヴェノスは一歩も外に出なくても生活に困りませんからねー……何かあれば全てオウカ様が手配してくださる……嫁さんはいいからせめて子供が欲しい……そんな独身の戯言を私がこぼしますとオウカ様は遺伝子合成ベビーを薦めて下さり、その伴侶も見付けてくださいました……それをサービスとする企業の社員の女性で、出産では無く培養ですが……それに必要な手続きは全てオウカ様がやって下さいました。そんな娘も今年で6歳になります……しかし母親の胎内を最初から知らないというのは心苦しいものがあります……せめて今からでも女性を見付けて結婚して両親のいる家庭で育ててあげたいものです……」

「おかあ、さん……」


「あんまり胸が大きいと、合成繰り返した品種改良だと思われるの……」

「品種改良、かぁ……」

「遺伝子合成ベビーなら女性同士でも出来るし……」


「実際に合成するんじゃなくて合成結果を算出した遺伝子を構築するんだよね」


 男性の後、水川悠、岩瀬麻七、塔子、茶遠一、西郡灯花が発言し茶遠一が……


「ヴェノスのイーリス……オウカさんは面倒見がいいといいますか……」

「我らがオウカ様は自らの人生設計が上手く出来ない市民にもサポートの手を惜しみません。あくまでも有力と思える選択肢を提示するだけですが……」


 シトラがそう言って、そうこうする内に目的地が見えて来て……今も本社で車内の様子を見ながらマイクに向かって話してる男性が車内音声で発言。


「見えて来ましたよ……オーナー1人で切り盛りしてますが比較的繁盛してる店です。娘がもう少し立派になったら娘の服をオーダーメイドして貰おうか考え中で……もっと働いて稼がなきゃいけないですがね……ではご利用ありがとうございます。あ、こちら私のSNSのID名です……結構ヒマしてますし、最近は娘と一緒にネトゲしてますので話題に事欠かないです!」

「まさか発言の最後の方の言葉で1人の乗客の逆鱗に触れる事になろうとは」

「茶遠ちゃん……」


「冗談です……あと2か月したら、交渉出来るよう勉強頑張ります……」


 茶遠一がいつもと違う口調で発言し北内桃奈子の反応に対して茶遠一はそう言った……そして目的の店に辿り着くと、事前に来るって判ってたのでドアを開けるなり、店主が出迎えてくれました……お店の名前は『あゆ』。


「あのゲートから、ここまで遠いのに……来てくれて、嬉しいなぁ」


 そんな発言をした女性は髪は水色で瞳は琥珀に桃色を混ぜたような色合いで、髪には部分的なウィッグを更に分割したような細長い束を所々に差し込み、濃い青が何本か見える中、黄緑のウィッグは少ないながらもよく目立つ……


「めっちゃお洒落……というかオーラ的なものが違う」


 北内桃奈子がそう言って……髪型自体は腰の近くまで伸ばした感じだけど……服装は雪に程よく青を入れ、氷の結晶が中途半端に浮かび上がるような白と青のグラデーションという言葉で済ませるには勿体ないドレスで……腰に巻いたリボンの柄はとても深く青い宝石の原石のような凹凸と色の濃さが疎らな……


 そんな感じでマニキュアはウィッグ部分と同じ色の黄緑で……ガラスの靴のような透明で彫刻の施されたブーツを履いてる為、ペディキュアも黄緑だと判った。


「見ての通り冬と青をコンセプトに私がデザインしたんだけど……自分の本名をある意味意識し過ぎたとも言えるかな……そんな私の名前は――」


 女性は最寄りの映像素子領域まで行くと、突然魚が出現し優雅に円を描くかの如く泳ぐと鮎と言う漢字に代わり、今度は一目で何の魚か判るのが来て、横向きに軽く泳ぐと忽ち鮫の漢字に変化……2つの漢字は相手側の向きに合わせてる。


鮎鮫あゆさめ……」


 やがて並んだ2つの漢字の隣の空間を払うかのように手を動かすと今度は一度に2つの漢字が現れ、これが女性店主の名前である事が判る。


秋名あきな――そう、この服装は季節外れも甚だしい……もう6月なのに……」


 そんな鮎鮫秋名の背は高めで胸も岩瀬麻七くらい……更に発言を続ける。


「だからこそ最近の店内は冬を意識したものにしたんだけどね……作業機械が動いてるけど効果音を追加して鈴を振った時の音が出るようにしてる……」


 店内は色分けされてて、やけに簡素なデザインの服のコーナーでは作業機械が服を取っては隣の部屋に消え、また戻って来る……鮎鮫秋名は更に発言する。


「ラバロン学園の初期服を見てると色々思い出すなぁ……最初は私服が着たくて始めた同好会……デザインを学ぶ内に自分で服を作るようになって、同好会のまま立ち上げたブランド名が、こうして店名にもなってる……卒業してから、そろそろ2年になるのかぁ……」


 鮎鮫秋名と店内の外界とかけ離れた雰囲気に飲まれたのか、誰も喋らない。


「ぼちぼちお昼の12時かー……まずはいいなと思った服見てって、私がデザインした服は感想聞かせて欲しいな……試着コーナーと転送装置のある部屋を間違え無いようにね……床が塗られて道になって途切れてるのが転送部屋で、試着コーナーは大抵隣り合ってる」


 ラバロン学園卒業生、鮎鮫秋名の発言はそこで落ち着いたので、各々は挨拶した後、各自行動を始めます……店内はそこまで狭くないけど服が密集してるね。

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