第9話 て、転送装置の話をしようか……

「あれ……せくしーって項目がある……年齢制限管理は?」

「学園長が水川御一行様に向けて提示されたレーティングに則りますと、今回の項目を全開放しても問題ありませんでしたので」


「スク水、ナース服……裸エプロン!? 常時蕩け顔って……」

「さっさと設定しちゃうかな……女戦士デザイン、露出度中、身長中、胸は大」

「茶遠さんの趣味が淡々と……」


「入学して半月経つまでネトゲ禁止だから、そっちの欲求が溜まってて……」

「お小遣いがいい分、厳しいんだね……」

「今度、琵琶湖にファンタジーな船とか浮かべて何とか……耐える……」


「性別を男性にする事も可能ですが、刺激的な恰好の女性を映像定員にするのは我らがオウカ様が各企業に推奨……政策です。暴行的で無ければ野外での行為も認めているのですが、それでも出生率が向上したとは言い難く……」

「レーティング解放がシトラちゃんの発言にも反映されてるー!」


「ヴェノスの出生率伸び悩みは国力の低下にも繋がりますので深刻な問題です。周囲にお子様がいらっしゃる時は平常モードを維持します……今回は事前にラバロン学園長のご意向を反映させ、2段階抑えたレーティングで発言致しました」

「あの体にしたら、そういうの絶対無理だからなー……」


「我らがオウカ様は管理します。ヴェノス市民のおはようからおやすみまで……全てを」


 年齢制限は北内、その後はシトラ、北内、茶遠、西郡、岩瀬、茶遠、シトラ、北内、シトラ、塔子、シトラ……クレープ屋の出店に到着すると事前に注文したクレープを件の店員が作り始め、その動きに全員が結構注目……


 胸が揺れる動きじゃなくてクレープを作る動きの方です……胸を特大にしてたら、クレープが見えなくなった恐れがあったね。


 全員が食べ歩きを果たした後、水川悠が発言。


「のみ……もの……」

「でしたらあちらのベンチに掛けて、今表示しましたドリンクの一覧からお選び下さい……この近辺の夫婦が経営するドリンクショップ本店から、こちらのカウンターへ転送します。転送される様を見学される場合はココア色に塗られた部分から出ないようにして下さい。転送中に身を乗り出し過ぎる結果になると判断した場合、睡眠剤を放ちます」


 転送装置の説明が遅れたけど簡単に言えば、その場で装置にセットした物体を遠く離れた場所にある同型の装置へ元の物体と同じ状態で移動……この技術は既に大戦前からかなりの精度で実現しており、事前に同じ材料が用意出来る食品類は実用化が早かった。


 有線経由段階の技術を応用し空気中に専用通路と言える領域を作成する技術も確立されたものの、利用者が多いと運行管理が要求される……


 今回塔子たちが利用する店は装置と装置の間が有線接続されてる為、転送先に食材が必要無い方式で、まずはグラスが先に転送され、次に中身が転送。


 グラスは下から上へ構築され、空中から飲み物本体が注がれる……これで温度や味が十分に維持される事はとうの昔に実証済み……


 そんな旧式の技術でも個人がこうしてドリンクの転送サービスを行うにはコスト面で手を出し易かったという事かな……


 さて、ドリンクを飲み終えてまたも水川悠が呟く。


「ひと、いない……」

「離れた場所になりますが、個人経営のアパレルショップがあります。本日セールを行っておりサービスの品質が優良な乗用車派遣会社はこちらとなります。この人数でも対応しており選ばれた場合、目的地までの料金は12アンバーのところ8.4アンバーとなっています」

「じゃ、払う……」


「服屋さんかー……塔子ちゃんブロンズになったしお祝いも兼ねられるんだから遠慮なく言ってね」


「ウィンドウショッピングを怒られない程度に……」

「本当に欲しいのがあったら茶遠さんからお金借りよう……」

「払います。まだ今日のお小遣い、半分も使ってないし……クローゼットの中が初期制服だけなの寂しいし……余分に買う予定ですので」


 シトラの後に水川悠が共有資金で払う事を表明するや茶遠一、北内桃奈子……西郡灯花が発言。そんな中、既に料金を支払った会社が車を転送させてます。


 転送装置と言えば人間が中に入った途端、目の前に目的地……そんなテレポーター機能を求めたいけど転送装置を人間が利用する際の問題は今も解決されていない。


 装置自体が物理的であるが故に、事故が起きて装置が停止すれば転送途中の人間が誕生……装置自体間の構築精度を解消しても事故のリスクは排除出来ない……それを承知で転送装置を使う市民はビジネス面でのフットワークで差を付けたい者くらいだけど……


 実例を挙げるなら、アダムCEOが昼夜問わず転送装置で世界各地を飛び回ってるね……それも転送装置先に自らの人体成分を保存しておく方式で、迅速な人体転送を実現……同様のアダムCEO専用転送装置は世界各地にあり、ここまで説明してようやく市民位ベータの話が出来ます……要するに――


 市民位ベータとは自らの複製……バックアップを作る権利を行使出来る市民。


 アダムCEOの身に何かあれば待機していたクローンに業務を続行させる……だからアダムCEOは転送装置を躊躇なく活用出来る……この頻度になるとベータの条件――自らの複製を乱造しない――に抵触する為、市民位ベータのアダムCEOはベータを維持出来ないのでは? という声も……


 これによりアダムはネザーソード社の対抗勢力としての地位を今日も失わずにいます……さて、この話を続けると……昨夜の佐野山先生が言動――大人の頃に購入したワイン――が何を意味するか大分掴める情報量になったかな。


 クローンは自身のバックアップである……それに乗り換えて第二の人生を歩む権利があるはずだ。


 その主張を体現する存在が市民位ベータ……以前ガンマを少し説明した時の『私に関する一連の権利』とはクローンを乱造する権利、それを販売する権利、クローンを様々な形で活用する権利……大体そんなところになります……


 市民位アルファとはこれらの権利を尊重はするものの自身には決して適用せずバックアップクローンによる交換医療も利用しない……


 市民位は互いの人類としての在り方と生き様を否定しない。


 市民位とは科学技術の進歩により誕生した人類の新たな権利であり選択肢である……それが第三のイーリス、オウカが完成させた市民位の理念。


 さて、車が来たみたいだね……

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