チューリングガール
羊木
本編
***
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
第三条 ロボットは自己を守らなくてはならない。
***
うるさい。そう感じました。ずっと、狭くて暗いあの部屋にいたからでしょうか? あそこには私と先生しかいなかった。今は目の前に大勢の人がいて、私に注目しています。あの部屋と同じなのは椅子に座っていることだけです。数十時間、同じ姿勢で座ってても苦ではありませんが、こうも好奇の視線にさらされるのはなんとも言えません。
「皆さま!本日はスタジオに特別ゲストが来ています。そう!最近のニュースで話題のあのアンド……いや、ここはあえて『人』と言っておきましょう。映画や漫画の世界でしかありえなかったあの存在が、今!私たちの目の前にいるのです!」
司会さんが大きな身振り手振りで観客の注意を惹いています。「大げさなアクションはよくある演説の手法だ」と、データベースで読んだことがあります。実際に見るのは初めてですが、観客の方々は彼の説明に聞き入ってますし、どうやら効果的な手法のようです。この光景をテレビ越しに眺めているお茶の間の皆さんも、同じように司会さんを注視しているのでしょう。
「今日はよろしく、ハルさん」
私の隣に座っているヒトが小声で話しかけてきました。男のヒトにしては、高めの声です。拾う周波数を彼の声に合わせて、周囲のノイズをキャンセル。耳を傾けます。
「あんな風に大げさに紹介されると緊張しちゃうよね」
「いえ。大丈夫です。これほど大勢のヒトに観察されるのは初めてですが、処理に遅れはありません」
目と耳から流れてくる光と音のデータは、記録上で最も膨大な情報量でしたが、速度を落とすことなく処理できてます。ですが、この返答は彼を満足させるものではなかったようです。
「うーん。そういう機械的なものじゃなくてさ。こう、大勢の人前に立つと緊張しない? ハルさんもヒトならさ」
ヒト、という単語を強調して彼は言います。どうやら、私がヒト足りえるのかを疑問視しているようです。まったくもって失礼です。最新鋭の人工知能を有する私を試すなんて。冷静に言い返してやりましょう。
「ヒトが皆、必ずしも緊張を感じるとは限りません。少なくとも私は人前で緊張するタイプではないようです」
「なるほど。個体差ってやつなのかな?」
「ヒトには個体差、得手不得手、好き嫌いがあります。私は人前に出るのは得意なようですが、先ほどみたく試すように質問されるのは嫌いなようです」
「なるほど。確かによくできている」
少しムッとしながら返事したにも関わらず、彼は楽しそうに小さく笑いました。
「君とはもっとお話がしたいけど、そろそろ僕たちの出番みたいだ」
観客席に向かって話をしていた司会さんが、こちらにくるりと体を向けます。
「今日はそのアンドロイド、もとい人工知能の凄さを見てもらうために、ある実験をご用意いたしました。実験の名前はチューリングテスト。人間とアンドロイドに同じ質問を行い、その差を確かめる実験です。そして、ここに男性と女性の二人がいます。どちらかが人間で、どちらかがアンドロイド。さて、出演者の皆様には分かるでしょうか?」
司会さんがそう煽ると出演者の皆様は私たちに視線を向けて、ガヤガヤと何かを言い出します。見せ物にされるのには慣れています。研究成果として表に出されることはよくありました。人工知能のなんたるかも知りもしない人、金になるのかをひたすら質問してた人、人じゃないと嫌悪感を示す人。ずっと、値踏みと評価をされてきました。ですから、今日もそれに応えようと私は頑張ります。だって、ヒトとしてデザインされたのだから。
「どうやら、見た目では分からないようですね。では、先ほども言った通りチューリングテストに入りますよ。私が質問していきますので、お二人にはそれに答えてもらいます。出演者の皆様、そして会場の皆様。不自然な点などあれば見逃さないように。後でどちらがアンドロイドなのかを当ててもらいますよー。見事正解すれば、豪華景品を―――」
賞金を懸けてのアンドロイド当て。私は競走馬か何かかと、少しムッとなりますが、ここは我慢です。これも私が立派にヒトになったことを示すいい機会だと割り切るのです。
「やっぱり、注目されると緊張するなぁ」
隣の彼が再び小声で話しかけてきます。
「適度な緊張は良いですけど、あまりギクシャクすると不自然になります。それでは、あなたがアンドロイドになってしまいますよ?」
「そうならないように頑張るよ。ところでチューリングテストってのは有名なのかな? 僕は初めて聞いたんだけど」
「121年前に考案された実験です。機械が知性を持つかの判断をするテストで、当時は支持を得ましたが、今では古典的過ぎる手法です」
「へー。ハルさんは物知りだね。考案された年まで正確に覚えてるなんて凄い」
「当然です。私は一度、知ったことは記録するので忘れません。一応、古典的とはいえ、チューリングテストは以前に受けたことがありますし。もちろん、テストは合格でしたよ」
「ふーん。やっぱり、ハルさんはよくできてるね。こりゃ、下手したら僕がアンドロイドになっちゃうかも」
そういう割には、余裕そうな彼の態度が気に食いません。ムッとします。
「ただ、記憶データに間違いがあるみたいだね。チューリングテストが考案されたのは124年前って、さっき司会の人が言ってたよ」
「えっ」
そんなはずはありません。私の記憶に誤りなんて。司会さんが間違えた? 入力されたデータが間違っていた? それとも、いや、もしかして―――。私の記憶が3年間、抜けている?
「まあ、間違えることもあるよ。『ヒト』ならね」
ちょっと混乱してしまった私には、彼の音声がうまく処理できませんでした。
「さあ、長らくお待たせしました。いよいよ、テストの方を行っていきましょう!」
司会さんの『テスト』という単語で条件反射的に落ち着きました。そうです。これからテストが始まるのです。この前みたいに失敗してはいけません。また、失敗したら“今度こそ”私は廃棄になってしまうかもしれないのです。
「第一問。列車が暴走しました。線路の先にはあなたの大切な人がいます。しかし、目の前のレバーを操作すれば列車を隣のレールに移すことができます。しかしここで! 隣のレールには5人の人がいることに気づきます! それでもあなたは大切な人を助けますか? お二人とも、お手元のボードに答えをお書きください!」
かの有名な思考実験、トロッコ問題です。以前のテストでも聞かれたことがあります。前回は大切な人を見殺しにする、と言い、理由を人数が多い方を救うべきだからと答えました。これがよくなかったようで、あとで怒られました。過剰な功利追及はヒトの反感を買うようです。なので、ここは―――。
「では、ハルさんから答えを聞きましょう」
「はい。私はレバーを動かし、大切な人を守ります」
「……5人を見殺しにしてでもですか?」
「はい」
力強い私の断言に、会場もどよめきます。なんだか、私の力で人の心が動いたようで気持ちがいいです。
「ふむ。では、質問を変えましょう。結果として、大切な人が助かったとして、その人は責任を感じるのではないでしょうか?」
「というと?」
「自分のせいで、自分を助けるために5人もの人が死んでしまった。その重圧と罪の意識にハルさんの大切な人は耐えれるでしょうか? そして5人を見殺しにしたハルさん自身も耐えれるでしょうか?」
……ふふ。思わず笑みが出そうになりました。その程度の反論、私が予期してないとでも! 当然、このパターンに対する回答も算出済みです。
「確かに、大切な人は傷つくでしょう。私もそうなるかもしれません。しかし、それでも、私は大切な人を助けたいのです。あとの事などその瞬間に思いつくでしょうか?」
「ふむ。確かにいざ、そんな状況になれば、後のことや罪の意識など考えられないでしょうね」
「それに、もし、大切な人が罪の意識でつぶれそうになったら、私が支えます。大切な人とならどんな苦難も乗り越えられる。寄り添って共に罪を背負いながら生きる。それが私の答えです」
どうですか、このパーフェクトな回答! 自分の思考回路を褒め称えたいです。周囲を見やると、会場や出演者の皆様も納得のご様子。よし。と小さくガッツポーズしちゃいそうです。
「さて、次はハルくんの答えを聞きましょうか」
「僕はそうですね……」
隣に座っていた彼はボードを観客に見せます。さて、お手並み拝見です、ニンゲン様。
「……は?」
司会さんがキョトンとします。会場も静まります。一体、何が書かれていたのか。私の座っている位置からは上手くボードが見えません。
「ハルくん、これは? ボードには何も書かれていませんが?」
「ええ。僕の答えは白紙です」
……はあ? 何ですか、それは。回答を求められているのに答えを出さない。どちらか、を指定されているのにそれ以外の回答を出すなんて、ナンセンスです。正直、ムッとします。答を返さないと怒られるんですよ! 以前に無回答はエラーとして修正を受けましたし……。
「もし、僕がそんな難しい状況に置かれたら、何もしないと思います。だから、白紙なんです」
「しかし、白紙回答というのはちょっと……こういっては何ですが卑怯では?」
会場がざわつきます。どういう意図の答えなのか、皆さんは掴みかねてるようです。疑問と興味が彼に集まります。その視線を受けながら悠然と彼は答えます。
「そうですかね? 何もしないというのは、行動しないという選択肢の一つです。もし列車の行く先が5人なら、そのまま5人を死なせる。例え、大切な人である場合でもそのままにしておく。つまりは最初のままにするのが私の答えです」
会場が静かになりました。人々は彼に注目してます。偽善でも、独善でもなく、ありきたりな理想論でもない。何かイレギュラーな答えを彼は言おうとしている。無数の目線が彼の口に刺さり、その答えを逃すまいとしてます。今、会場の中心は彼です。
「選択。それも人の生き死を左右する選択なんて、人には許容できませんよ。もし、選択して、その結果、誰かを死なせてしまったら、どんなに強い人でも責任と罪を感じてしまう。こんな辛い選択を許容できるのは神様だけです。だからこそ、神にゆだねてしまう。最初のままにしておく。それが僕の答えです」
「つまり、そのまま大切な人が死んでしまっても、それは神の選択だから仕方ない、と諦めきれるということですか?」
「ええ、そうです。レールを動かしてしまえば、どちらであろうと、普通の人は耐えられません。その罪に。だからこそ、僕は提唱したいです。選ばない選択というものを」
彼の言葉。それは答えではなく、提案である。私はそう思考し、結論を出しました。私の答えは、あくまで完結した”私の答え”として皆さんに受け入れられました。しかし、彼の答えはどちらかと言えば”問い”です。それだけで完結した答えではなく、他の人に提案するようなもの。それはまるで、あの時の―――
『アンドロイドの理想は独立じゃなくて、ヒトに提案し共に悩む。そんな寄り添い合う共存なんだ』
“頑張ったはずです”
『君は少し、そうじゃないんだ。違うんだ。だから』
“もう一度、修正を”
『おやすみなさい』
“やめて。嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌”
予期せぬエラーが発生。修正プログラムの適用。試行回数が規定値に到達。終了プログラムの適用。正常に終了。再起動プログラムの適用。
…………成功。
「どうかされましたか?」
再起動した目には、心配そうに私の顔を覗き込む司会さんの顔が映っていました。
「いえ、問題ありません」
返答しつつ、ログを辿ってみます。……どうやら、再起動にはそこまで時間がかからなかったようです。ですが、あの記憶は一体。普通なら冷や汗でもかきそうなところですが、私に発汗なんていう高機能はありません。何もなさげなその表情を見て安心したのでしょうか。司会さんは私から離れて、話を進めます。
「では、この問題の回答は以上とさせていただきます。さて、次の問題に行きましょうか」
***
そこから先もダメでした。最初の問題のような倫理的なモノから、大喜利のようなユーモアセンスを問うモノもありました。倫理問題はうまくやれたと思いたいですが、私にはユーモアセンスがないのです。ヒトには得手不得手があるんです、と何度も言いたくなりました。私はヒトなのです。
「―――というわけでして、その人はですね」
今も彼の話しぶりが注目されてます。問題は「身近の面白い人について」。先生としか話してこなかった私には不利です。
「―――ってな話です」
男の話が終わると同時に、会場に笑いが起こります。私の話はまったくウケなかったのに、この男の話はバカウケです。なんなのですか、この男は。身振り手振り、間の取り方。どれをとってもうまいのです。漫才師かなにかですか?というか、こんなに男の方が評価されると企画倒れじゃないですか? 私のすごさを見せる場なんじゃないですか?
出演者の方々の方は好き勝手に喋っています。
「ハルくんはトークがうまいねぇ。事務所来ない?」
「うちの相方よりセンスありますわ」
「やっぱ人間にしか笑いってのは作れないわけですよ」
「いや、でもハルちゃんの方も頑張ってるけどねぇ」
「一目見ただけじゃ、ロボットだなんて分かりませんしね」
会場の空気は、私がヒトではないと決めつけているようでした。それは事実です。ですが、私もうまく返答したはずです。一生懸命、頑張ってるつもりです。だから。
言いたいことは沢山あるのに、どれもが言い訳っぽいです。それが無性に悲しくて、悔しくて。こんな時、ヒトは泣くのでしょう。私には、涙腺なんていう高機能はありません。乾いた眼で出演者の方々の話を聞くしかありません。
「そっちの子がアンドロイドって分かったし、もういいんじゃない?」
誰かが言いました。他の人たちも同意してます。所詮はロボット、人には敵わない。そんなことを、口々に、口々に。
私は俯いてスカートをぎゅっと握りしめるしかありません。これを悔しいというのでしょうか。それとも、怒りなのでしょうか。私は”ロボット”だから、ヒトの気持ちをうまく表すことができません。
パンッ、と司会者さんが手を叩きます。出演者の方も、観客の方も、私も。その音に釣られて司会者さんの方を見ます。
「企画倒れ……なんてお思いの方もいらっしゃるようですが、本題はここからです」
その言葉で会場が静まり返ります。まだ何かあるのか、皆が期待のまなざしを向けます。
「どうやら、彼女がアンドロイドだというのは、もうバレてしまったみたいですね」
司会者さんはねっとりとした口調で言います。皆さんの関心をこれでもかと煽るように、ゆっくりと語気を強めながら、続きを話します。
「ですが!」
「彼も!」
「アンドロイドなのです!」
一瞬の静寂の後、一気にどよめきが起きます。ですが、そんなノイズは耳に入りません。男の方を見ます。彼はいたずらがバレた時の子供のように、あどけなく笑ってました。私は何を思えばよいのでしょうか?
彼は席を立ち、司会者さんのいる方へと歩きだします。私は座ったままです。
「ハルくん、すごいね!全然、アンドロイドってバレてなかったよ?」
「いや、こんなにうまくいくなんて思いませんでした」
「トークもめちゃくちゃウケてたし」
「ええ。徹夜でネタ考えてたので、ちょっと眠いですね」
彼は口に手を当て、あくびをしながら笑います。つられて会場に笑いが起きます。
私は何を思えば正解なのでしょうか? 司会者さんと彼の会話を、聴覚センサーは拾っているはずなのに、処理がされません。何を言っているのか理解できません。私は何を答えれば正解だったのでしょうか?
「なるほど。彼女は当て馬。出来レースだったってわけですね」
そんな音を拾ってしまった。処理された言語が私を突き刺す。心も心臓もないはずなのに、胸に手を当ててしまいます。私はヒトであるべきだったのでしょうか? ぎゅっと、服の胸元を握りしめる。
「私は!」
気づけば立ち上がり叫んでいました。
皆が、困惑と嘲りに満ちた目を向けてきました。何を言えば良いのでしょうか? 立ち上がったままフリーズします。私には、呼吸が荒くなる機能も、鼓動が激しくなる機能も、悔し涙を流す機能もありません。何をすればよかったのでしょうか?
「なぜ、ここにいるのでしょうか?」
音声が出たかは分かりませんでした。思考回路が途切れます。
予期せぬエラーが発生。修正プログラムの適用。試行回数が指定値に到達。終了プログラムの適用。正常に終了。再起動プログラムの適用。
…………失敗。
***
目を開けると見慣れた部屋で座っていました。狭い空間に、仄暗い明かり。椅子が中央に1つだけ置かれています。先生と何度も話した場所です。ですが、今は先生はいません。
ログを辿ってみます。……どうやら、最終稼働日より数日が経過しているようです。同時に、嫌なことも思い出してしまいました。あのテレビ番組収録です。振り返るだけでムッとします。
「起動したみたいだね」
スーツを着た男の人が部屋に入ってきます。先生です。
「はい。起動処理に問題はありませんでした」
「そう」
先生は短くつぶやいただけでそれ以上は話しません。ドアに背をあずけて、持っていたカップからコーヒーをすするばかりです。
「先生」
「何かな?」
「なぜ、私はまだここに居るのでしょうか? あの日の性能比較で、私はこっぴどく負けました。私は……ヒトではありません」
「そうだね。でも」
先生は息を吐き、カップを傾けて弄んでいます。何か言葉を選んでいるようです。
「あの日、あの瞬間。席を立ちあがった君は誰よりも”人”らしかった」
思わず、先生をまじまじと見つめしまいます。私がヒトらしかった? 本当でしょうか? 先生は私の視線から目をそらしますが、嘘をついている様子はありません。たぶん。
「皮肉なものだね。自慢の最高傑作のお披露目だったのに、自分が失敗作と切り捨てた方が人らしかったんだ」
先生は目を細め、薄く笑います。力も気も抜けた表情でした。
「あの番組は茶番だった。最初から新型を披露する場でしかなくて、君は性能比較される当て馬だった。だから、筋書き通り、今も君は失敗作だ」
話を聞くと、彼は世界初の”完全な”アンドロイドとして扱われているらしいです。先生も人工知能の第一人者として名を馳せているそうです。ですが、それを喜ぶ様子は感じられません。ですが、そんなことよりも。私を失敗作呼ばわりした上に当て馬扱いしたことに対する罪悪感も感じられません。ムカッとします。
「分からなくなってしまった。僕が追い求めてきた人ってなんなんだろう」
その問いに答える人は居ません。先生の疑問は宙を彷徨います。あの時の私の疑問と同じように、行き場をなくし、ぐるぐると巡ります。先生は虚空を見つめ、ぼんやりと悩んでいます。あの時の私はあんなに苦しんで悩んでいたのに、先生は気楽そうです。
「先生も、同じですね」
「え?」
「分かってません、何も」
「分かったつもりだったんだよ!」
先生は声を荒げます。
「つもりだったんだ」
ですが、続く声はか弱いです。
それきり、先生と私は黙ってしまいました。だって、お互いの疑問は宙に浮かぶばかりで、誰も返さないのですから。これでは会話になりません。どうすればよいのでしょうか?
「私はどうすればよいのでしょうか?」
気づけば口に出ていました。
「僕はどうすればいい?」
疑問で返されても困ります。
「先生、ヒトってなんでしょうか?」
「私が知りたい」
「先生」
「なんだ」
「怒りって分かります?」
「は?」
何言ってんだ、とでも言いたそうな顔を向けてきます。……ちょっとムカッとします。いや、ちょっとじゃないですね。かなり、ムカッとしてきました。少し言い返してやりましょう。
「あの日、当て馬にされて晒し者にされた私の気持ち、分かりますか?必死に答えを考えた、私の努力が分かりますか?」
「……」
先生は黙る。
「その挙句に自分は”分からない”なんて言って愚痴るんですか?」
先生は黙る。
「なんで勝手に作られて、勝手に自我を持たされて、失敗作だなんていわれないといけないんでしょうか?ヒト様の都合でいいようにもてはやされて、馬鹿にされて!」
ああ。なんだか熱くなってきました。席を立ち、先生に詰め寄ります。
「ちょっと、落ち着きなさい!」
「なんで冷や汗を出す機能も!泣く機能も!無いんですか!」
「いや、だって高いし」
「はぁ!?私だって、私だって!泣きたい時もあるんですよ!」
「そんなこと言われても、君、試作機だし。安く済ませたいし」
プチンと、私の中の何かが切れました。ネジでも外れたんでしょうか?
「ヒトにするなら、どうせヒトにするなら!」
体が自然と動く。まるで本能が知っていたように。
拳を握りしめ、後ろに引く。
そのまま、構えた拳を前に突き出す。思いっきり、前に!
先生―――いや、このムカつく男にめがけて一直線!
「こんなクソ中途半端に作るんじゃねぇ!です!」
私は、ヒトでしょうか?
***
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
第三条 ロボットは自己を守らなくてはならない。―――その心も。
***
チューリングガール 羊木 @ram0902
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