誰おま回 その②~廻り始める僕の人生(だが〇〇と共に)~
「間…に…、合っ…た…?」
ゼイゼイと、運動不足の身体にムチ打って、何とか集合場所の喫茶店前にたどり着いた。そこにはすでに数人、それらしき集団があるのだが…
(すげぇ…)
目を疑ったのは、高身長の美少女。小説の中で一番人気の紫色の髪を腰までたなびかせた―…
(あっまずい…身体が、声が、勝手に…暴走す…―)
「すみません!!アシッド
だが、確かに目があっていたのに少女は…自然に目をそらすと、集団の方へと合流し、親し気に喫茶店の中へと消えてしまった。
「へ…あ……あれ?オフ…会……」
ポツンと残された僕はやってしまったかと思いつつ、本当に今日だけはへこたれる訳にはいかないのだと奮起しなおし、戦場・・ではなく少々寂れた、否、レトロ感満載の喫茶店に、独り足を踏み入れた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「面白かったよー新手のナンパかと思って!」
折角のオフ会は、作品のトークではなく僕の失態がメインに始まってしまった。だが、なごやかに あはは、という声に包まれて、からかわれているとはいえ、それは全く嫌な空気ではなかった。
主催の藍子さんは、ポツンと残された僕の元に、わざわざ踵を返し「もしかして参加者の方?」と入口で聞いてくれた。参加メンバーは僕を合わせて7人で、けれども作品のマイナーさと、辺境地ともいえる開催場所を考慮すれば、すごく多いとすら僕は感じていた。
何より…
とてつもなく興味を惹かれる子に出会えたのだから大収穫だ。
「ゴメンネ、さっき暴走気味にとっこーして…えっと…」
僕の所為で今日のオープニングトークの主役になるかと思われた少女は、コスプレして参加するという猛者ぶりに反して、一言二言たまに口を開く程度だ。
――僕はなんだか責任を感じて、なんとか少女にしゃべらせようとする。
「ハイハイ;」1人の参加者がたしなめる様に手を叩きながら言うと、僕が促しても一向にしゃべらなかった少女が、察したように口を開いた。
「今日の集まりって、アシッド+2の語り合い、ですよね?」
ニコッというよりニッといった感じに笑いながら言うと、『待ってました―!!』と次々掲示板のノリで全員一斉に語り出す。ムッとする僕一人だけ、置き去りにして。だが、すかさず藍子さんが、
「ほら、よしのちゃん、いつもの感じで語ってー。キミの独特のキャラ解釈と作品考察はみんな大好きなんだから!」
僕も単純で、そのお世辞かもしれない一言に本気で上機嫌になって、10年分くらい、しゃべり倒したのだった……。少女の事を、一時忘れて…。
「えっ帰る方向一緒?;」
7人は多いと思って嬉しかったが、やはりマイナーでコアな作品。遠方からわざわざ、というヒトばかりだったらしく、駅へ皆行ってしまう。
初回のオフ会とは思えぬ盛り上がりと、帰りにはもはやファミリーと化し、離れがたくて仕方がなかった…のだが。盛り上っても何故か僕にだけ打ち解けてはくれなかった少女――HNムーンさんが、何の奇跡か僕と2人地元参加者だと言う。でも、疑問。
「あの、藍子さん、どうしてこんな…って言ったらアレだけど、いなかで開催してくれたんですか?」
すると藍子さんは少しだけ困った顔をしてから、
「作品の雰囲気に、ちょっと似た町だなって思ったからだよ。―でもそれを教えてくれたのはキミ。」「えっ僕?」
とっさに普段の一人称になってしまった事に、僕自身は気づかない。
「ゴメンね、わたし、よしのさんのTwitter見てて、ちょっと場所探しちゃった。あ、家特定とか、ストーカーとか、そういうことする気じゃないから、でも勝手にゴメンね、よしのちゃん」
誰おま回その③へ続く
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