第1章 起きた僕と眠る妹

「久々に、見た…」

声が出て、身体が動く確認をする。寝起きだから若干鈍いが、手は普通にグーとパーを繰り返せる。


でもそこは窓とドアはあるにせよ、せまい部屋、という意味では夢の中のままだ。

「まぁ、壁も白いし、ガキもいねぇし、ただいま!現実!」

断っておくが、この部屋…とあるマンションの101-2号室に、住人は1人しか居ない。一人が長くなると多くなる独り言だが、口から生まれたような僕は、昔、まだ子供だった頃も で延々つぶやいてたっけ。


今日も、世界から隔絶された、1日が、当たり前のように始まる。



物、と言うより8割がた本が散乱した部屋を、いつも通りひょいひょい歩き、キッチンカウンターの1番手に取りやすい位置にある、20%増量のインスタント珈琲を手に取る。フタを取り、本来はビールを飲む中ジョッキに、瓶ごと傾けて適当な量突っ込む。マドラーなんて洒落たもの、ここにはないので、菜箸でくるくると、茶色い粉を。水道水に溶かしていく。『ぐび』味見にしては少々多い珈琲を口に含み、まずまず合格な濃さだったので、近くに置いてあるカロリーメイトフルーツ味も、菜箸を流しに置いた手に、代わりに一応持って、リビングに戻る。


ちょっとカッコイイつもりの海外のお札のスツールに腰かけ、もそもそした(割とおいしいとは思う)カロリーメイトを濃いめの珈琲で流し込むが、目はすでに本の活字を追っていた。我ながら、いつの間に開いたんだか?


今日開いた本は、たまたま。本当に偶然、妹の病気についての本だった。

「――え?厄日なの?か??」

正直ここが1人の城で本当に良かった。自分自身、実の妹の病気の本を手にした時駆け巡った様々な感情に、そして耳に入った独り言に、として、の前に、ヒトとしてどうかと思ったから。


「僕だって思いたくてそうは、想っていない。」

…自分に言い訳するように、自分を守るようにつぶやいたって、あまり効果はないのを、もうとっくに知っているんだけど。



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