一週間後

面接教室に呼ばれてから一週間後。

これから1週間が始まる気の重たさがピークの曜日。

児童を乗せたスクールバスが学校に着く。


「なにあれ?」

一番前に乗っている児童が声を上げた。

それから車内がざわつく。

「えーー?」「わーーー?」「うそーー?」「何があったの?」

複数の児童の驚きの声。


最後部に乗っている俺は曇ったガラスで外が見えない。

『何事だろう? まあ降りればわかる事だ』


あまり気にせずにバスを降りた。


向かって右側のコンクリートの校門。

私立小学校の顔でもある、校章が刻まれた校門が、完全に崩れ落ちていた。

バラバラに崩れたコンクリート。大小さまざまな破片が落ちている。


それぞれの児童が、話しやすい先生を見つけて質問している。

先生たちは、みな気まずそうにしている。理由を言わない。


それを横目に、俺は自分でも驚くほど冷静に考えていた。


『コンクリートだ。乗用車がぶつかったくらいでは崩れないだろう。

バスか? 4台の大型バスと2台のマイクロバスに形跡はないな。

業者のトラックか? いや、トラックが正門に近づく事は考えにくい。

誰かの嫌がらせか?

私立と公立のぶつかり合いか?』

そこまで想像が膨らんだところで、考えるのを止めて校舎に入った。


突然の全校集会。

児童はざわついていた。


石本先生、いや校長先生が話し始めた。


「皆さん、校門が崩れていて驚いたでしょう。あれはわたしがやりました」


ざわざわざわざわざわ。


「自動車の運転ミスでぶつけてしまいました。校長であるわたしは、普段皆さんを叱る立場です。ですから自分がミスをしたときは謝らなければなりません。ごめんなさい」


全児童の前で、低学年でもわかる言葉で先生が謝った。そして少し姿勢を前かがみにした。お辞儀まではいかないが、謝罪の気持ちを精一杯表したと思う。


俺は先生を少し可哀そうに思った。

何故そう思ったのか、自分でも分からない。



全校集会が終わると、さっきまで気まずそうにしていた先生たちは質問に答えてくれた。

どうやら、方向転換しようとバックしたところ、ぶつけたみたいだ。


色々想像していた俺だが、バックする時の先生のアクセル全開度まで想像しきれなかった。


『そういえば、あのドライブで、一度もバックギアを入れなかった』


あの小さな軽自動車は廃車だそう。コンクリートの崩れ方を見れば当然だと思った。


『それにしても、先生怪我しなかったのか?』


先生の身を案じたのは、児童の中でも俺だけだったかもしれない。


校長先生。児童との接点は朝の挨拶だけ。

児童にとって怖い存在。ただそれだけ。


『ドライブに行った俺は、やはり先生との距離が縮まったままなのか?』

『聡はどう思うだろう?』


帰宅してから、風邪で学校を休んだ聡に電話した。

鼻声で電話に出た聡に、今日あった事を話した。


「まじで?やべー 俺たち危なかったじゃん。先週」


聡は俺たちの身を案じた。


『これが正論だ』

俺は、先生の身を案じた自分の感情を少し否定した。

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