帰路

狭い車内に再び乗りこむ。


ブオオオーーーーン、ブオオオオーーーーーン 

車線に合流するため、顔を前に出して車が来ないか確認する先生。

エンストしないように思い切りエンジンをふかした。


ここでエンストしたら、スピードに乗った車がすぐに近づく。

渋滞とは反対の車線。空いているが、ドライバーは渋滞を横目に、優越感に浸っているかのようにスピードを出して通過する。危険度は高い。


『お願い、ここを乗り切って』

カレーの匂いがする車内で俺は祈った。


ブウオオーーーーーーーン        ブオン ブウオン ブウオン

エンジンの音が途中で途切れる。

先生はギアを2速に入れた。


無事に合流し、走り出したのだ。

ほっとした。

気が付くと、遠くの空が赤く染まり始めていた。


30分も走ると、辺りが暗くなってくる。

視界に入る情報が制限されていく。


お陰で少し楽になった。


聡は眠そうだ。


信号で2回エンストしたが、気にならなくなった。


俺も眠くなった。


うつらうつら。


慣れるものだ。



「夜でもライトつければ意外と見えるのね」


もう冷や汗は出ない。

むしろ眠くて先生の声が遠くに聞こえる。







「ねえ。家何処?」


少し大きめの声に目が覚めた。


国道18号。

ここから先の道は俺たちも知っている。


井古駅で降ろされずに済むようだ。


旧道に入れば、俺の家は道沿いだから、場所の説明は簡単だ。

1キロ先は聡の家。同じ道沿いにある。



俺の家が見えてくる。

帰ってきた。


母親が外で待っていた。


母親と先生。二人は明らかによそいきの顔をして挨拶をしている。

石本先生は、学校までの道を母親に訪ねた。


「あっ、この道まっすぐで池森交差点なんですね。そこからは知っていますので」

先生の家は校長住宅。学校の目の前だ。



母親がお辞儀をした。

「本当にありがとうごいました」


聡を乗せたまま車は去っていった。


ブウオオーーーーーーーンーーーーー

外で聞くと、まるで暴走族かと思うほどのエンジン音だ。

『あれに5時間近く乗っていたんだ』


自分の順応性に感心した。


どんな車も、アクセルを全開にすれば、けたたましく音が鳴る。

暴走族はマフラーを改造して、故意にそうしている。



「何で外で待ってたの?」

俺の質問に母親は答えた。


「凄い音だもん。あれだなって、なんとなくわかったわよ」



本来なら、先生と一緒にいることは、児童にとって安全な保護下にいることになる。校長先生と一緒ならなおさらだ。


でも、今日はサバイバルだった。

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