一休み 

午後3時40分

なんとか無事に上り坂をクリアしたが、渋滞は続く。


「レストランンでも入る?」

石本先生がミラーでこちらをみる。


目が合う。


『何か答えないと……』

怖い思いをした後遺症と、相手が石本先生だという緊張。

俺は「そうですね」しか言えない。


3秒後

空気を読んだ聡が「賛成」と言った。

ひょうきん物の聡を心強く思った。


「あっっ、あそこはどうかしら。あそこにしましょう」


石本先生には運転の都合がある。

広い駐車スペースを見つけた先生は迷わなかった。


ブウオオーーーーーーーンと音を立て、対向車が来る前に、右側にあるドライブインに入った。幸い対向車線は空いていた。


大型トラックが止められるように工夫してある大きな駐車場。空いている時間帯。


先生は敷地の真ん中に駐車した。今なら誰の迷惑にもならないだろう。

スペースに余裕がたっぷりあるから、帰りにバックをしないで済む。


坂を上がった高台にあるドライブインは、海の近くだけあって、観光客も気軽に入れる少し洒落た内装だった。

コンクリート打ちっはなちの壁は涼し気で、天井が高い。窓から海が見えた。


でもメニューはドライブインそのもの。定食やラーメン等。

三人ともカレーライスを頼んだ。


石本先生が口を開く。

「あなたたち、家が近くでしょう? だからどうかと思って電話してみたのよ」



私立風の森小学校の児童の家は県内に点在している。

ある児童は親の送迎。ある児童は親の送迎後にスクールバス。遠い児童は、電車や路線バスを乗り継いでスクールバスに乗る。


聡と俺の家は1キロしか離れていなかった。

俺たちは、スクールバスが家のすぐ近くまで来るから登下校は楽だった。



石本先生はドライブの理由について、それ以上何も言わない。



「これからどうする?」


学校での先生の表情とは違う。

必要なこと以外話さない硬いイメージが少し崩れた。

仮に、ここで何かしでかしたとしても、ビンタはされない。そう思えた。



「あっ、でも帰らないと暗くなっちゃうわね。まだ夜に運転した事ないのよ」


スプーンを口に運ぶ聡の手が、一瞬止まった。


俺は、背中に冷たいものが流れたのを感じた。

生まれて初めて流した冷や汗だ。


俺たちは帰る事に大賛成だったが、顔に出さないようにしていた。


晩秋。1時間もしないうちに日が暮れ始める。

大丈夫なのだろうか。

緊張と不安と恐怖。

それもあと2時間の辛抱だ。


スムーズに帰れればだが。

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