コライとレート!

ナナヨウコココ

コライトレート!


「じゃあ、そういうことで。」



「もう、す、」


半歩踏み出し、きびすを返しかけたところで、

その子は言った。


「もう少し、明るい色のレンズにしてもらえませんか?」


「あ、」


僕はメガネを、ちくっと下げて、ためしに、その子のコートを見、

すぐ、かけてみた。


「たしかに。色、変わっちゃうねー」


「なるべくリアルが知りたいんで、」


「あ、」


リアルかー。リアルって何だろうなー

目に見えるのだけかなー



「わっかりましたー。じゃあ、そういうことで。」




ジャア、ソウイウコトデ


トレードの最終確認の切り上げ時の言葉は、

そのセリフに決めている。


ソウイウコトって、どういうこと? か、は、思っているより、トレード時、そして、後にしか解らないので、あいまいにしたいのだ。



ふーん!

リアルにこだわっていた、あの子にムッときたので、

あんま感動してやんねーぞ、と思ったが、


割と、気づいたら感動してんだよなー


どうしたもんかなー

と、帰り道、ふてくされてしまった。



。。。。。。。



ある年齢に達した時に、僕は、人間ドックを受けてみることにした。

能力の度合に、大小の差が増えて来たこの頃では、当たり前になりつつある全身検査を、高校に上がる前に、と、僕も受けたのだ。


何か引っかかったら、半額で済むんだけどなー


と、麻酔が効いてきたあたりで考えたのを、覚えている。


と、次、意識が少し戻って、薄目を開けると、僕を囲む白衣の人々。


こりゃ、大学病院に運ばれたな、


と、眠りに落ちる。



半額だー!!


の夢をみて、気持ちだけ笑いながら、薄目を開けると、今度は、科学館だった、らしい。

あとで、どこか訊いて、はっきりした。


そして、キャップ帽である。


使い方を教えてもらって、あっさりと、帰された。

あっけないなー、とは思えたが、半額だったことで、僕の能力の程度が知れた。


そして、キャップ帽である。


このキャップ帽で、僕の能力の種類が知れた。



。。。。。。。



「「 僕の記憶を、君と取り引きします!!

1年 ◎ 組 トビタカまで 」」



高校生になって、部活の勧誘ポスターにまぎれ込ませて、ポスターを貼った。


何人かは、僕の能力 (記憶のトレード) を、便利だと認識してくれたらしく、僕のクラスに訪ねて来てくれた。


事件性のありそうな、危険で面倒なことになりそうな依頼は断って、数名とトレードを試すことが出来た。

そのくらいの内容の人たちは、なぜか、あまり公言するタイプではないようで、爆発的にトレードのことが有名になることはなかった。

ちょっと拍子抜けしたが、いいペースなのかも、とも感じて来たこともあって、ますます、面倒が起きそうな依頼は、避けよう、避けよう運動実施中!が、現在進行形となった。



そんな感じで、意外と、普通の高校生として、日々を過ごせていた、ある日、その子は、僕のクラスの教室のドアをくぐった。

苗字を呼ばれて、僕が、ドアをくぐったんだっけ?



「動物園でいろんな動物、見て来てほしいんだけど。」


と、2つ隣のクラスの1年生、カヅキさんは言った。


そりゃ、動物でしょうね、動物園だもん。

と思ったけれども、危険案件でもなさそうだし、どこの動物園か訊いて、トレードすることに決まった。


そして、後日 (僕が記憶出来る日が近づいた頃)、お互いだけにならない程度に人がいる所での、立ちの最終確認において、

「もう少し、明るい色のレンズにしてもらえませんか?」

と、なるわけだが、たしかに、誰に見つかるわけでもないのに、僕は、サングラス的なものをかけて臨んでいた。


「わっかりましたー。じゃあ、そういうことで」

リアル、に引っかかりつつ、本当は、違う理由の自分的な引っかかりを、持て余していたのだった。



。。。。。。。



見るぞ、見てやるぞー


裸眼でキリンの模様を、凝視する。

さっきは、象のシワを焼き付けた。


メジャー過ぎる視点かな?

と迷いながら、見て行く。


明るい色のレンズのメガネは僕の持ち物には存在せず、

サングラス過ぎるものは、引き出しの奥に追いやったままにしてある。

陽射しが、冷たい空気の中、心なしか気持ち良く、動物園に楽しく居れていることに気づいた時は、少々驚いた。


カヅキさんは、冬の寒さで、寄り添うように存在している人たちの中に、いくら動物を見たいからといって、ひとりで存在することが、出来そうにないから、と、うーっと、顔にシワをつくっていたっけ。


僕も、今こうして、ひとりなんですが!

でも、けっこう楽しいっす。


そうだ、ちゃんとキャップ作動しているだろうなー

かぶっていたキャップ帽をチェックする。つばの部分についているポッチは、赤く点灯している。

まさにREC、記憶の録音 (録画?) 状態だ。


頭に装着してる時しか、実際は記録されていないのかもなー

再び、かぶる。


まぁ、記憶をトレーダーブルー (今回は、カヅキさん) に渡す時も、このキャップを、かぶってもらってポッチを押すと、青く点灯し、まさにPLAY、記憶が再生されて、トレーダーブルーのもともとある記憶と、なじんでいく、らしい。

痛くもかゆくもないが、入った記憶と同じ分量の、もともとある忘れても困らないような記憶が、圧縮されて、思い出しづらくなる、らしい。


あ、僕も、トレーダーなので、僕は、トレーダーレッドで。



トレードをやり始めの頃は、緊張もしたし、親切丁寧を心がけて、心静かに活動していたもんだけど、いくらか数をこなして来ると、こうして鼻唄も出るという、余裕っぷり。

競争相手がいたら、下手したら、すぐに客がいなくなりそうだなー

だいたい客じゃないから。

お金もらってないから。

そこだけは、まだ、親切だから。


おー、猿ゾーンか。

おー、おー、何なの、あの動き。

おもしれー


ポッチが赤く点灯している時に、僕の笑い声が響いたのは、初めてのことだった。



。。。。。。。



3年生の卒業式も終わり、僕たちの1年生生活もあと少し、という頃、カヅキさんが、手紙を持って現れた。

ちょうど僕のクラスの教室のドアのところでぶつかったので、カヅキさんは、ろう下、僕は、教室の中、と、ドアをくぐることはなかった。


「2年生で、同じクラスになったら、笑えるー」

と、手紙を差し出し、きびすを返し、カヅキさんはスタスタと歩き始めた。


「あ、」


これでレッドは、次のブルー登場まで、休暇に入る。


の、はずだったが、今回のブルーは、何者か?

とにかく、この手紙だ。

レッドの記憶になじんで、もともとある忘れても困らない記憶が、いくつか圧縮された。



言っておくが、恋で、は、、なーい。



。。。。。。。



へえー、けっこう上手いじゃん。


手紙を開けた時に、便箋の他に、入っていた一枚の写真が、するり、と、床に落ちた。

拾って見てみると、動物の絵だった。



ーーー描いた絵の写真を撮ったので、どうぞ、観て下さいまし。


ーーーよくぞ鮮明に記憶してくれましたな。


ーーー動物たちの、いろんな部位の特徴を、記憶をたどり、絵にしてゆくうちに、なんだか、楽しいなーって。これは、今の私か?もしや、君の記憶か?ただ絵を描くためだけにトレードお願いしただけなのに、こんなに楽しい気分になるとは、思わなかったよ!


ーーーこうして描けた絵は、もちろん、君の記憶、それと、渡してもらって、なじんだ後の、私の記憶、動物たち、まあ、とにかく、空気やら何やら、辺り一面とか? ひとつのもの、ひとりの力では、つくられていない、最近よく耳にする、コライト状態なのでは?と思い当たった次第です。


ーーーーこの絵は、みんなとのコライト作品だと、思えるんだ。




、、、、、へえー、、



カヅキさんの、いくつかの言葉は、読むと、何か、光ったり、落ち着いたりもし、


僕に、

出来るだけ、五感を働かせて、いや、時には、六感以上もあるならば使って、密かに誇れる、トレーダーレッドになるかなー、

と思わせた。



何となく、あまり似合っていなかった、キャップ帽姿のカヅキさんが浮かんだ。



あー、、ポッチの色が、違う、、の、かな、、?、、



。。。。。。。



「心得ましたぜ。」


と、新規ブルーは、胸あたりに手を持っていった。

腕時計が光り、ミサンガみたいな何かが揺れた。


もちろん、現在、僕のメガネのレンズの色は透明である (サングラス的なものではないものの、やはり、スタイルを重視する僕としては、何もかけない、は選べないので!)。


さっそうと、きびすを返す直前に、僕は、今回も、言う、



「じゃあ、そういうことで。」


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